『鉄屑の城、忍び寄る古の影』
三層の主を喰らい尽くした『合同探索演習』から一週間。学園内は、その衝撃的な噂でもちきりだった。だが、当の本人であるシュウは、喧騒を避けるように学園の最端、廃棄物集積場にいた。
そこには、一週間前とは見違えるような「家」が建っていた。
「……おう、シュウ。戻ったか。見てくれ、三層で拾った水晶を練り込んだ『魔導炉』だ。こいつがありゃ、どんな硬い肉でもトロトロに煮込めるぜ」
ガストンが誇らしげに、巨大な黒い窯を叩く。
三層のボス討伐で得た膨大な素材と資金をつぎ込み、ガストンはボロ小屋を、強固な防壁と最新の調理設備を備えた『秘密基地』へと改造していた。
【ガストンの成長:鍛冶スキルが『魔鋼錬成』に進化。ステータスが 1,200 に到達】
「……助かる、ガストン。……ミーニャ、獲物は?」
「……ん。……今日は、これ」
影から音もなく現れたミーニャが、二層の奥地で仕留めた『影走り(シャドウ・ランナー)』の死骸を差し出す。彼女もまた、シュウが分け与える「高栄養の魔物飯」によって、野生の勘に磨きがかかっていた。
【ミーニャの成長:隠密スキルが『影渡り』に進化。ステータスが 1,800 に到達】
「……いい。……シュウの隣、落ち着く」
ミーニャは無表情のままだが、シュウが彼女の頭を軽く撫でると、制服のスカートの下で、太い猫尻尾がパタパタと激しく左右に振られた。本人は無自覚だが、喜びが隠せていない。
「……ふん。相変わらず野蛮なところで、野蛮なものを食べているのね」
冷ややかな、けれどどこか「期待」を含んだ声。
エルフの才女、エレインだ。彼女は腕を組み、ツンとあごを引いて立っている。隣には、王女フィオナもいた。
「わ、私は別に、あなたの料理に興味があるわけではないのよ? ただ、学園の風紀として、不衛生な食事を放置できないと思っただけなんだから!」
フィオナが顔を赤らめ、視線を泳がせながら言い放つ。
かつての「ゴミを見るような目」はもうない。今の彼女たちの瞳には、強烈な自尊心と、それ以上に強固な「シュウという個体への興味」が入り混じっていた。
「……そうか。なら、この『水晶ゴーレムの冷製スープ』は、俺たちだけで食べるよ。エレインたちの分はない」
「……っ!? ち、ちょっと待ちなさいよ! せっかく来たんだから、毒味くらいしてあげてもいいと言っているのよ!」
エレインが慌てて身を乗り出す。彼女の尖った耳が、期待で微かにぴくぴくと動いているのを、シュウは見逃さなかった。
その時、秘密基地の入り口に、一人の少女が音もなく降り立った。
狐耳のリィネだ。彼女は扇で口元を隠し、妖艶な笑みを浮かべている。
「あらあら、皆さんお揃いで。……シュウ様、今日のメニューは、私の千里眼でも読み切れないほど『滋味深い』予感がいたしますわ」
リィネが近づくと、彼女の豊かな狐尻尾が、ドレスの裾から覗いてゆらりと揺れた。
「……私も、混ぜていただけますかしら? その代わり、私が掴んだ『不穏な情報』を差し上げますわよ」
リィネの言葉に、シュウは手を止めた。
彼女の千里眼が捉えたのは、迷宮のさらに深い場所。
「……かつて、この地を統治していた『古の悪魔』。……その封印が、シュウ様が三層のボスを喰らった際の余波で、微かに震え始めていますの」
「悪魔……」
「……ええ。聖剣を持つアルトリウス様ですら、その名を聞けば震え上がるほどの、絶望の象徴。……もし目覚めれば、この学園は真っ先に『餌場』になるでしょうね」
リィネの言葉に、場が静まり返る。
フィオナとエレインは顔を見合わせたが、シュウだけは、静かに包丁を研ぎ直した。
「……いい獲物になりそうだな。……その悪魔の肉は、どんな味がするんだろうか」
「……シュウ様、本当に救いようのない方。……素敵ですわ」
リィネの尻尾が、喜びでさらに大きく振られる。
学園の四華――。
一人はシュウの腕に擦り寄り、二人は顔を赤らめて毒づき、一人は知略を巡らせて彼を観察する。
誰もが最強の捕食者の周りに、磁石のように吸い寄せられていく。
一方、迷宮の最深部。
数千年の時を超えて、一つの棺が内側から、ギィ……と不吉な音を立てて開き始めていた。
「……飢え……ている……。……今の時代には、……良質な魂が……揃っているようだな……」
学園の序列を超えた先に待つのは、真の絶望か、それとも最高の食材か。
シュウと仲間たちの、ゆっくりとした、けれど確実な「変化」の日々は続く。
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