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添い寝収録開始

『明後日に収録、よろしくお願い致します』



朝奈さんからそんなラインがきた。なぜこんなに堅い文章なのか。



『ご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願い致します』



こんな感じで返信すればいいか……。


メモを見直す。俺は朝奈さんをデートに誘う。考えただけでドキドキしてしまうが、これぐらいやらないと告白なんか出来るはずがない。ぎゅっと拳を握りしめた。


やるぞ、俺は。





いつもの駅に着く。朝奈さんの後ろ姿を見つけた。よし、まずは元気に挨拶しよう。



「朝奈さん、おはよう!」


「きゃっ!? あっ、柏木君」



背後から声をかけただけなのだが、朝奈さんは思ったよりびっくりしている。怖がらせてしまったかも。やる気が空回りしてしまった。



「びっくりした? ごめん」


「あっ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。おはよ! 柏木君!」



朝奈さんはにっこり微笑んだ。これが見れただけで、俺は今日1日幸せなことが確定した。

 朝奈さんの格好は、白のハイネックのセーターに茶色のジャンパースカート。それと、耳に小さい三角形の飾りがついたピアスをしていた。朝奈さんがピアスをしているのを、俺は初めて見たかもしれない。



「朝奈さん、ピアス似合ってるね」


「! えへ、ありがとう。露ちゃんにもらったピアスなの」



朝奈さんはピアスを指でちょんちょん触りながら、にんまり笑う。抱きしめたくなる気持ちを、俺はちゃんと我慢した。


朝奈さんの家までの道を、二人で歩く。朝奈さんの手がふらふらと俺の手の近くを何度も横切るから、俺はその手を握りたくて仕方なかった。



「朝奈さんって、いつもピアスつけてたっけ?」


「私は普段、あんまりつけないんだけどね。今日はつけてみよっかなー、なんて」



いつものように、朝奈さんがオートロックの番号を打ち込んで、俺はそれを朝奈さんに背中を向けて待つ。階段を登り、203号室の扉の前に二人で立った。朝奈さんが鍵を取り出して、ガチャリと扉を開ける。朝奈さんが玄関に入った。



「入っていいよ、柏木君」


「え!? 腕は!?」



いつもみたいに、腕縛ってないんですけど。



「いいよ、別に。……それとも縛って欲しいの? ふふっ」


「うーん……うん、縛って欲しい」



カラオケの時のように、我慢できずに朝奈さんに何かしでかしてしまうかもしれない。すでに俺は一度失敗しているのだ。慎重にいくべきだろう。腕を縛ってもらいたいというのは、そう考えた俺の結論だった。



「えっ…………もしかして、そういう性癖の人だったの? 柏木君」


「そっ、それは違う!!」



朝奈さんはドン引きみたいな顔をしていた。挨拶に続き、また失敗。まだ朝奈さんの部屋にもたどり着いていないというのに。



「変なの」



朝奈さんはそんな呟きをしながら、部屋から持ってきた紐とタオルで俺の手首を縛っていく。



「はい、終わり! どーぞ、柏木君」


「ありがとう。お邪魔します」



朝奈さんは縛り終わって、ぺしんと俺の手首を叩いた。俺も玄関に入り、靴を脱ぐ。俺が靴を脱ぐために足をもがいて動かしていると、朝奈さんがすかさず俺の靴を脱がしてくれた。



「あ、もしかして私にこういうお世話をしてもらいたいから、柏木君は腕を縛って欲しかったの?」


「それも違います。本当に」



このままだと朝奈さんに、俺が変な性癖の人だと誤解されてしまうかもしれない。



「はい、クッション。柏木君はちょっと待っててね」


「ありがとう。待つって、何を?」



俺は朝奈さんが置いたクッションの上に座った。



「着替えてくるから、柏木君はじっとしててね」


「えっ……あ、はい」



朝奈さんは部屋から出て、脱衣所に向かったようだ。今の服で撮るんじゃないのか。

 朝奈さんをいつデートに誘おう。収録が終わってから伝えることにしようかな。収録の気が散るようなことはしたくないし。セリフは遊びに行きませんか、でいいだろうか。気の利いた言葉なんて俺が発言できるわけもない。どストレートに言うしか思いつかない。



「ふう。柏木君、お待たせ」



朝奈さんが着替え終わって部屋に戻ってきた。全身ピンクのもこもこパジャマだ。これは確かに、着たまま外を歩けない。



「かわいい」



無意識で口から感想が飛び出ていた。



「あ、ありがと」



朝奈さんは照れ気味に、そう返す。その反応込みで可愛さ100点満点だ。無意識に喋った俺の(くち)、ナイス。



「じゃあ、今日は添い寝の収録するからよろしくね、柏木君」



朝奈さんに向かって俺は頷いた。頑張るぞ、収録のお手伝いも、デートのお誘いも。

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