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朝奈さん

朝奈さんがじっくりと、俺の書いたネタを見ている。真剣だ。理由含めた長文を交えて俺は結構ちゃんと書いたので、朝奈さんは読むのに時間がかかっていた。


朝奈さんが塾考しているおかげで、俺の頭を冷やす時間をもらえた。



「……やっぱり、ロールプレイが多いね」


「俺の好みもあるけど、『ゆかなん』さんはあんまりそういう系してないから、そっち攻めるのはアリかなって思ったんだ」



サンタ服で彼女のロールプレイしている動画が一つある。ロールプレイしているのはそれだけだ。ちなみにサンタコスの『ゆかなん』さんは、めちゃめちゃ胸元がオープンでエロい。……この部屋のどこかに、あのサンタコスがあるんだろうか。



「今日は柏木君がいたおかげで、まだマシかなって思えるけど、やっぱりロールプレイは苦手だよ。……柏木君がいたらいたで、恥ずかしいし……」



朝奈さんは俺から目を逸らしがちに、ウェーブの茶髪をくるくる指で回す。



「演技苦手なのか? 朝奈さん。そんな風に見えなかったんだけど」


「苦手だし、私よりも上手に演技できる人がいっぱいいるよ。……私じゃなくても、声も演技もしっかり出来る人の方が見る価値あるし。」



なんだか少し、吐き捨てるような言い方だった。なんか、違う。そうじゃなくて——



「違う。『ゆかなん』さんの声と演技で聞きたいんだよ。朝奈さん。上手(じょうず)かどうかじゃなくてさ」


「……っ」



朝奈さんは目を伏せた。



「……ほんと柏木君は『ゆかなん』好きだね。他にもいっぱい、私みたいなASMR動画を出してる人はいるんだよ? ファンなんて、みんないつか辞めちゃうんだから。ファンは新しい人を探せばいいだけだもん。簡単だよ」


「……『ゆかなん』さんに似てる人がいても、それはただの似てる人だよ」



なんだろう、この思いは。自分から見て素敵なものを、朝奈さんにも素敵なんだと気づいて欲しい。



「朝奈さん。俺は『ゆかなん』さんの声が好きだからファンになった訳じゃない。演技が上手だからファンになった訳でもない。『ゆかなん』さんの存在に惹かれたんだよ。……だから、そんな風に言わないで欲しい。俺から見たら、朝奈さんは本当に素敵な存在なんだ」



朝奈さんの伏していた目が、パッチリと俺に合う。唇を噛んで……ぷいっと、そっぽを向いた。そのまま朝奈さんは机に肘を乗せ、顎に手を置く。


朝奈さんがボソッと、呟くように俺に話しかけた。



「素敵って、なんで、そんな……」


「大好きだからね。毎朝、毎晩聴くくらいに。これは理由になってないか、あはは」



少しだけ、朝奈さんの頬が赤く染まった気がする。


俺にそっぽを向いたまま、朝奈さんは話す。



「……わかった。もっとロールプレイする。……でも、柏木君もいてね。一人だとやっぱり、難しいと思うから」


「うん! 俺に手伝えることならなんでもするよ! 『ゆかなん』さんの動画のためならいくらでも!」



そっぽを向いたまま、朝奈さんはコクリと頷いた。

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