第九話 「出発」
一週間後、粗方準備を終え、すっかり旅装へと着替えたシエンとリーはソウウォンの自宅の前に立っていた。
二人の旅装は相も変わらず、リーが白、シエンが黒という決まったカラーの服だ。
「本当に二人はずっとその色の装いだよね。なんか理由があるのかい?」
「ん…。ただ、黒色が好きなだけだ」
「私も兄様と同じ理由で白色が好きなんですよね」
ソウウォンがそれについて尋ねると、二人はその色が好きだ、と答えた。
ソウウォンはそんな二人を見て、からかうように言った。
「ほんと、君達はよく似合う兄妹だね」
「どういうことですか?」
「なんというか、その色が似合いすぎて君達の為にその色が作られたんじゃないかってね」
「馬鹿な事を…」
シエンはそう言うソウウォンに対してため息交じりで言った。
彼はどちらかというとソウウォンのこの独特な言い回しがあまり好ましくなく、毎回返事を厳かにしている。
シエンは彼の雰囲気が嫌いなのだ。
「ま、頑張りたまえよ。僕らはやれることはやったからあとは君達が死ぬか、生きて帰ってきて、一発逆転を果たすかっていう二択だしね」
「あぁ」
「もちろんです」
リーとシエンはある程度会話を済ませた後、リーが一礼し、言った。
「それでは行ってまいります。お世話になりました」
「うん。頑張っておいで」
門から出て行く二人の背を見送りながら、ソウウォンは手を振る。そして、あの兄妹が見えなくなったぐらいになった時、手を振るのをやめ、ずっと影に隠れている人物に話しかけた。
「隠れてないで見送りぐらいすれば良かったのに。ねぇ、ルイ……いや、君は今女の子だったね」
「……」
「折れた倭刀を見て昔の事を思い出し、一時的に昔負った無数の傷が疼いて辛いだろう。あとで鎮痛剤をあげるからね」
「…ありがとう。情けない私でごめんね」
「問題ないさ。そういう体になっちゃったんだから。でも、見送りぐらいしてやれば良かったのに。シエンの扱いは君が一番上手いんだから」
「そうだけど、リーに見られたら困るし、それにあの子が持っていた倭刀が少し怖かった」
「そういう事か。それも拭いきれない、トラウマって奴なんだろうね」
そこで会話は途切れて、暫くの間静かな空間になった。
しかし、ルイの痛みに呻く声を聞いてソウウォンはルイを連れて部屋へ直行した。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
二人は街道を歩いていた。
白、リーの視線は売られている赤い倭傘にガッチリと固定されており、彼女はそれを羨ましそうにじっと見つめている。
「お前はさっきから立ち止まっているが、何を見ているんだ?」
「はい。傘屋さんに売られている赤い倭傘をみていました。いつ見ても綺麗です…」
「ほう、傘か。俺は見えないがさぞかし綺麗なんだろうな」
「ええ、とても」
それを皮切りに再び大通りを歩き始めた。
シエンは見えないから仕方ないが、リーはその情景が見えるから、少々目移りしてしまう。
リー自身、あまりこの景色を見ていなかったから何もかもが初々しいのだろう。
ただ、そう言うのに夢中だからか、後ろから追ってきている存在には気付かなかった。
「あの二人、旅装やな」
「つまり行く所は同じなのかもな。追うぞ」
茶色い装束に身を包んだ男女二人にすっかり目をつけられていた二人。
今のところは気付くよしもない。
彼らが出会うのは広大な砂丘地帯に出てからである。