第十話 「砂の音を搔き消す弾丸」
リーとシエンは大通りを抜けて、国を出る為の検問所に来ていた。
シエンは文字を書く事が出来ないので此処はリーが二人分の証明書を書く事になる。
そんな訳でシエンを端に待たせておいてリーは手続きを済ませる為に受付の人に話しかけた。
「すいません、出国手続きをしに来ました」
「はい。何名様ですか?」
「二名ですけど、もう一人は、失明しているので私が手続きを済ませます、よろしいでしょうか?」
「はい、そのお方の顔を見せていただければ、構いませんよ」
「そうですか、では少し呼んできます」
そうして、再びシエンを連れて受付へと戻ってきたリーは二つ分の証明書を受け取った。
サラサラと自分の名前、性別、出国期間を丁寧に書いていく。
あっさりと二人分の証明書を書き終えて、それを受付の人に渡した。
「受け取りました。では二名様の顔を記録します。少し静止してください」
「はい」
受付はリーとシエンの顔に茶色い箱をかざし始め、あるタイミングでボタンの様な物を押した。
すると、カサリと音を立てて、二人の顔が映った紙が出てきた。
「完了です。どうぞ、お通り下さい」
「ありがとうございました」
その紙を確認した後に、まだ幼さの残る黒髪の女性の受付に促され、二人はシャントンの外、広大な砂丘地帯へ出た。
「いやぁ、旅の始まりって感じですね」
「あぁ、そうだな」
サクッサクッという砂の音を足で確かめながら、歩を進める二人。
砂丘地帯、という事であまり暑くなく、乾燥もしていない為、非常に過ごし易い地帯ではあるこの場所は、海に面した国であるキンペイまで広がっている。
地下迷宮が非常に多く、それ目的で此処に来る人が多いが同時にそれで行方不明になる事が多い為、キンペイやシャントンは帰らずの国と言われている。
しかし、砂漠と違い、過ごし易い気候である為、生物なども多く生息しており、食料に困らない。
だが、海の高い栄養価を吸った動物を餌として捕食し続け巨大化した肉食動物なども少なくなく、一概に安全とは言えない。
例えば、足場を崩し、落ちてきた獲物をそのまま捕食する生物だっているのだ。
「きゃっ!?」
「…っ!?」
ある程度歩き、検問所が小さく見えてきた頃、リーが居た場所の足場が崩れて出来た窪んだ穴に滑り落ちた。シエンが反応した頃には手の届かない場所まで落下していた。
リーは滑り落ちながら、自分が今落ちていっている穴の中心を恐る恐る見てみた。
其処には大きなノコギリ状の牙を二つ持った甲虫が顔を出していた。その牙をギチギチと鳴らしながら。
リーはそれを見て顔を青くして急いで戻ろうとするも、砂に足が取られて登れない。
シエンは現状の把握が仕切れていないようだった。
このままではスタートダッシュすら出来ずに、終わってしまう。だが、この絶望的な状況にどうする事も出来ない。
そんな時だった。
「其処の白い子!!なるべく出来る限りに体を砂に埋めな!死ぬぞ!」
砂の海に沈み掛けていたリー、上で現状をようやく把握したシエンの耳に女の声が届いてきた。
その直後に、バァンッと言う銃声が鳴り響き、黒くて丸い大きな弾丸が上から飛んできた。その弾丸は穴の中央に真っ直ぐ落ち、暫くして爆発を引き起こした。
その爆発は甲虫を一撃で葬った様だ。
砂の中から砂まみれになったリーが顔を出して、辺りを見回す。
「え?」
「よっと、はいなお嬢さん。上へ上がるで」
「え!?」
二度、え?と呟き、何が起こったか分からずに居るリーだったが茶色い装束の男に掴まれて、焼け死んだ甲虫を踏み台にして、元の位置に戻ってきた。
「よし、よくやったハオ」
「まぁ、美人ちゃんやでなぁ。いつもより足が速く出てもうたわ」
「あ、え?」
「すまない、妹を助けてくれた事、礼を言う」
「なに、お安い御用だ」
シエンが駆け寄って首だけの礼をする。
地面に降ろされたリーは、今さっき助けてくれた二人をじろじろと見渡す。
二人して茶色い装束で身を覆い、茶色い大きめな帽子を深くかぶっていて目元が少し見えるまでしか見えない。
ただ、帽子から赤い髪が見えている方は声音からして女で、腰、肩に三種類の銃器が携えられていて、職業がよく分かる。
ハオと呼ばれた髪が覗いていない方は左右の腰に二本ずつ短い剣が下がっている。
「蟻地獄だな。私らが居なかったらお前の妹、喰われてたぞ」
「…俺には見えない」
「ん、盲目か。それで良く杖も無しでここまで…妹に手を引かれて来たのか?」
「俺は一人で歩ける」
「覚えるもんは覚えてる、ちゅうことやな」
呆然と立ち尽くしているリーを置いて、勝手に進んでいく会話。
リーはただ聞いている事しか出来なかった。
ただ進む会話の中女は帽子を取って、会話の最後にこう言った。
「お前達は面白そうだから追って来たが、やはり私の予想は間違ってなかったな。お前らの行き先と私らの行き先は恐らく同じ、どうだ?私らと行動するってのは」




