割れ鍋に綴じ蓋2
私が休んでいる間に、いろいろあったみたいで、教室の後ろには本棚が設置されていた。
そこには参考書や問題集が置かれていて、クラスの人間なら誰でも使用可とのこと。
発案者は大和くんで、使用済みの参考書や問題集を提供し合って、お互いに利用し合おうって取り組みらしい。
どういう心境の変化なのか、大和くんは真剣に勉強を始めたようだった。
学校の勉強には全然興味無さそうだったのに。
授業中はいつもつまらなそうに窓の外を眺めていた大和くんが、今日は積極的に参加してるし、何より休み時間の間中参考書を読んでる。
大和くんは頭は良いのにもったいないなとずっと思っていたから、何がきっかけなのかはわからないけど、大和くんが勉強に関心を持つようになって、本当に良かったなと思う。
大和くんが参考書に集中し始めたのを確認して、私は横目で教室の隅にいる林田さんのグループを窺う。
ひぃ~ん、やっぱり睨んでる~っ!!
さっきのやりとりも、しっかり見られていたっぽい。
どうしよう。
これ以上、クラスの人達に嫌われるわけにはいかないのに!!
というのも、大和くんは、私にクラスの厄介者同士仲良くしようぜ!なんて言ってたけど、実際は厄介者どころか、みんなにとても好かれていた。
大和くんは、河合くんみたいにフレンドリーなタイプじゃないけど、イケメンでカッコいいし、強くて頼りがいがあるから、女子はもちろんのこと男子からもモテモテで、みんな大和くんと仲良くしたいと思ってる。
ところが、大和くんはお誘いを受けても、私がいるからって全部断ってしまって。
私がいくら大丈夫だって言っても、大和くんはへ理屈をこねてごねるだけなので、そういう人達にとって私はものすごく邪魔な存在に相違なかった。
つまり、クラスの厄介者は私ひとりってこと。
その事実に落ち込む。
実際、可愛くて華やかなギャル系女子グループの林田さん達には、すっかり嫌われている。
正面切って文句を言われた事はないけど、修学旅行も私のせいで大和くんは行くのをやめてしまったし、絶対怒っているに違いなかった。
「大和、話があるから、ちょっと職員室に来てくれ」
六限目の授業終了のチャイムがなって帰り支度をしていると、担任の菱川先生が廊下から大和くんを呼んだ。
「早く来い! 高岡、悪いが少しだけ大和を待っていてやってくれ」
「あ、はい」
大和くんはブツブツ文句を言っていたけど、すぐ戻るからと言って、菱川先生の後を追って行った。
大和くんが行ってしまうと、急に心細くなってしまう。
みんなの様子を窺ってみると、やっぱり気まずそうに目を逸らされた。
クラスメイトとして話すくらいならいいかなと思ったけど、向こうが距離を置きたがってるなら、それも迷惑かと思って話しかけるのを止める。
今まで仲良くしてもらえただけでも良かったと思わなきゃ。
思い出もたくさん作ってもらって・・・
でも、悲しくて涙が出そう。
これまでの楽しかった出来事が走馬灯のように巡って、本当に涙がぽろっと零れ落ちてしまった。
周りの人に気付かれないように、一生懸命日誌を書いているフリをして誤魔化す。
私が泣いたら、みんなが悪いわけじゃないのに、悪者になっちゃう。
「とうとう、泣いちゃったよ」
「「「「え!?」」」」
ところが、林田さんの呟くような一言のせいで、みんなが一斉に私の方を向く。
上手く誤魔化せたと思ってたのに。
泣いた事がみんなに知れてしまって、恥ずかしくて情けなくて、もう俯いていることしかできない。
「そりゃそーよね。友達だと思ってた子達からこんな仕打ちされてんだもん。私だったら耐えられないワ」
林田さんの言葉が突き刺さる。
「ちょっと、祈!」
林田さんと仲のいい宮沢さんが窘めるような声を出す。
と、その時、丸く縮こまった私を後ろからガバッと、抱きしめてくれる腕があった。




