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【書籍化&コミカライズ※1/30発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第二章:インヴェルノ帝国編

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88. 絶対これ、ミランダ様宛ですよね!?


「皇太子殿下より、贈り物が届いております」


 まだ朝霧の残る早朝。

 ドナテラが住まう屋敷の扉が開き、規則正しい足音が中へと響いた。


 恭しく頭を下げる侍従の背後には、ずらりと行列を成す文官らしき男たちの姿。

 煌びやかなドレスや宝石入りの小箱、香油、絹織物、――ありとあらゆる贈り物が、次々と運び込まれてくる。


「お、お待ちください! 届け先を間違えてはおりませんか!?」

「いえ、お間違えございません。ドナテラ様宛と申しつかっております」

「……ッ!!」


 慌てて止めるドナテラに、侍従は涼しい顔で答える。


 助けを求めるように、ミランダを振り返るドナテラ。

 なんてことをしてくれるのですかと、その目が強く訴えている。


 そういえば昨日、『()()()()()が必要な場合はドナテラに』、とセトに告げたのを思い出す。


 遠くを見ると、偽物の住まう屋敷にも同様の贈り物が次々と運ばれている。

 一方で、第三皇子の推薦とされる軍部高官の娘だけは、ただ一人、贈り物を受け取っていないようだった。


「これは……あまりに露骨では?」


 ミランダに、小声でささやくヴィンセント。

 コニーもまた不安そうにミランダを見遣る。


「明らかに、第三皇子を挑発しているわね」

「どちらにしろ、あの程度で気を失うような者に皇太子妃など務まりませんが……」

「でもこれでは、ドナテラ様が偽物と並ぶ有力候補に見えてしまうわ」


 冷静に分析を続けるミランダとヴィンセントの背後で、ドナテラは必死に動揺を抑え込みながら、貼り付いた笑顔でセトへの感謝を述べている。


「皇帝陛下への謁見は三日後の予定ですが、第三皇子から申し出があり、先んじて会食が開かれます」

「そ、そうですか」

「候補者たちを交え、事前に顔合わせをしたいそうです」


 第二皇子は欠席。

 だが第三皇子は、非公式の場での事前交流を希望しているらしい。


 すべての贈り物が運び込まれた後、セトの侍従が一際豪奢な箱を開け、ドナテラへと差し出した。


 帝国の紋章が刻まれた小箱の中には、ミランダですら見たことのない、美しいルビーの装飾品が納められている。


「こちらは、前皇后が皇太子殿下に遺された品のひとつです」

「そ、そんな貴重なものを……!?」


 前皇后が遺した国宝を、まだ皇太子妃と決まってすらいない、他国の王女に贈るとは。


「公式の場でもたびたび着けておられた、国宝です。『似合う者が身につければよい』と、殿下の仰せにございます」


 ビクリと肩を震わせたドナテラの瞳は、透きとおるような薄翠。

 艶やかなリボンで結い上げられた淡いピンクブロンドの髪が、柔らかに揺れている。


 こんな毒々しい赤、似合いませんよね?

 ……絶対これ、ミランダ様宛ですよね!?


 全力で訴えてくる小さな背中。

 ミランダとヴィンセントは思わず目を見合わせる。


「あ、ありがたく頂戴いたします!」


 原則、強きにはクルクル巻かれる主義のカナン王国の王女、ドナテラ。

 本人の思惑は遠く星の彼方に飛んでいき、早々に有力候補に躍り出た(かのように見える)状況に、気遣い屋の王女は泣きたい気持ちを堪えて頑張っている。


 前皇后の遺した国宝など、むしろ火種になりかねない贈り物。


 なぜこの王女に国宝を……?

 とても似合うとは思えないドナテラを前に、侍従もまた、戸惑いの表情を浮かべていた。



 ***



 そしてその夕刻。


 皇太子宮の広間に設けられた宴席には、焼きたての仔羊、香草のスープ、黄金色のワイン……帝国の贅を尽くした料理がずらりと並ぶ。


「非公式ではあるが、このような場を設けられ嬉しく思う」


 ゆったりと杯を掲げるセトの腕には、偽物のミランダ。

 その斜め前には、ちょこんとドナテラが座っていた。


 胸元には、今は亡きセトの母……前皇后が公式の場で身に付けていたという、国宝のルビー。

 やっぱりとしか言いようがないが、あまりにも似合わず、むしろ宝石が浮いている。


「ドナテラ、贈り物は気に入ったか?」

「は、はい。ありがとうございます! 身に余る贈り物をいただき、光栄です!」


「わたくしの方が似合うのに」と口を尖らせた偽物の頬に、セトが軽く口付け、挑発まじりに第三皇子へと視線を送った。


 軍部高官の娘は本日、体調不良により欠席。

 だが、彼女にだけ贈り物が届かなかったことは既に広まっており、空席が妙な緊張を落としている。


「まだ選定式が始まったばかりだというのに、兄上は早くも候補を絞ったと噂になっております」

「気の早いことだ。敵前逃亡した者もいたため、随分と数が減ってしまったが」


 ――早々にもう一人、脱落しそうだな。


 小馬鹿にしたような口調で空席へと目を向けたセトに、第三皇子はピクリと頬を引きつらせた。


「……兄上が女性を気に入るなど珍しい」

「そうだな。推薦してくれたギリムに感謝しなければ」

「ですが大公女にしては随分と品がない。本当に、本物なのですか?」

「もちろん。ファゴル大公国にも、すでに確認済みだ」


 会場の隅、控えるミランダにそっと視線を向けるドナテラは、先程から落ち着かない様子でワインを口に運んでいる。


「悪評が飛び交うとはいえ、次期大公。ファゴル大公国はお認めになるでしょうか」

「問題ない。ミランダを推薦する際、ファゴル大公から許可も得ている」


 クラウスとの婚約待ちの件もアリ、あのファゴル大公が、ミランダの選定式参加を許可するとは到底思えないのだが。


「見合う対応をさせてもらうと告げたら、『好きにしてよい』とのことだった」

「そのような聞き方では……!」


 解釈の余地がある誘い文句で、言質を取るのが良いだろう。


 セトの思惑に、あっさり乗ったファゴル大公。

「お父様には困ったものだわ」と偽物が、芝居がかった溜息を吐く。


「どうした、何か不都合でもあるのか?」

「いえ……」

「父上の体調も芳しくない。――国内の有力貴族を牽制するには、ちょうどいい機会だな」


 つまり、『この先、お前の出番はない』ということだ。


 一触即発の気配に、その場の空気が凍り付く。


 豪奢な料理も、気まずい空気の前では喉を通らない。

 一刻も早く会食を終えてこの場から解放されたいドナテラは、ひたすら沈黙を守り、空気になることに徹している。


 緊張と探り合いが続くストレスフルな会食は、その後もしつこく半刻ほど続き、ドナテラの疲労はピークに達した。





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