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【6/30コミカライズ発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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56.決めるのはお前だ


 祖国であるファゴル大公国が、グランガルドの従属国になった時も。


 第二公女ミランダが人質として赴いた時も、謁見早々クラウスの側妃に召し上げられた時も、ミランダなら大丈夫だろうと思ってはいたのだが。


 女人禁制のはずの軍事会議でひと暴れしたという報せに、のびのびと人質生活を楽しんでいるらしい妹の姿を想像し、アルディリア王妃アリーシェは声を上げて笑ったのである。


「あの偏屈な男が、よくミランダのようなじゃじゃ馬を身の内に入れたものだ」


 四大国のひとつ、アルディリアの国王が探るようにアリーシェへと目を向けると、「何か信じるに足る事があったのでしょう」と微笑むばかり。


「……ミランダの自白剤か?」


 呆れたように問いかけると、アリーシェは輝くような笑顔を返した。


 帝国軍の動きが活発化し、暗殺の危険性が高まる昨今。

 アリーシェは侍女達へ順々に自白剤を飲ませ、炙り出したのがグランガルド、ヨアヒム侯爵の諜報員。


 丁度ミランダのグランガルド行きも決まり、これを使わない手はないと諜報員を通して働きかけた。


 ミランダの正しい情報を得たいヨアヒム侯爵と、陰ながらミランダの力になりたい王妃アリーシェとで利害が一致し、両(・)国(・)の(・)国(・)王(・)、許可の元に双方連絡を取り合ったのである。


 疑り深い狂王のこと、どうせ報告書をまとめたところで信じまい。

 それであれば、諜報員が服用し、既に効果が実証済の自白剤を渡したほうが、話が早い。


 そしてミランダ特製自白剤は、諜報員からヨアヒム侯爵を通じ、グランガルド国王クラウスの手へ――。


「よりによって、グランガルドとはなぁ……」


 相当な身内贔屓はあるにせよ、彼女の魅力と危険性は重々承知している。


「ときに陛下、グランガルドから援軍要請があったようで、我が祖国ファゴル大公国が、帝国軍と交戦するそうなのですが」


 何かお願い事がある時は、決まって子犬のような潤んだ瞳で見上げるアリーシェ。

 そしてアルディリア国王はこの目で見つめられると、嫌とは言えないのである。


「まったくお前達は姉妹揃って困ったものだ」


 一体どんな育て方をしたらこんな娘達が育つんだと、深い溜息を吐いた。



 ***



 ガルージャの大軍を退けたとの報に続き、第五王子率いる第二騎士団により、ジャゴニ戦もまた無事終結したとの報せが届く。


 残る帝国軍はファゴル大公国軍と戦力が拮抗していたが、直接の同盟国ではないにも関わらず大国アルディリアが動き、圧倒的な戦力を以てこの戦いも終結した。


 逃亡したアサドラ王国の王女レティーナも捕らえ、後は主犯格のホレス・ヘイリー侯爵を残すのみである。


「聞けば、ヘイリー侯爵はシェリル様が追っていらっしゃるとのこと。後は時間の問題ですね」


 何の心配もございませんと微笑むミランダを小脇に抱え、クラウスは険しい顔で水晶宮本館――調度品が奪われ、閑散としたミランダの私室に乱暴に押し入ると、寝台の上へとポンと放り投げた。


 小さな悲鳴を上げて、ぽふりと沈み込んだミランダに向かい、クラウスは一枚のワンピースを投げつける。


「これがどういう事なのか、お前の口から詳しく説明してもらおうか」


 そこには数日前にミランダが着ていた、血塗れのワンピース。

 胸元には、見る人が見れば剣で刺された跡だと、すぐに分かる切れ込みが入っている。


 捨てておけと言ったのに、わざわざ取っておいた挙句、よりによって陛下に渡すとは……腹黒宰相ザハドの仕業に違いないとミランダは歯噛みした。


「これは全てお前の血か?」

「……はい。ですが必要と判断し、自ら剣に身を沈めました。ですので、何の問題もございません」


 震える両手で剣柄を握り、最後までやり遂げろと、ロンの剣に自らの身を沈めたのはミランダ自身だ。

 決して嘘ではない。


 クラウスは憤怒の表情で歩み寄ると、ミランダの腕をぐいと引き寄せ、乱暴にミランダの胸元をはだけた。


「ちょっ、一体何を……!?」


 突然の事に、かあっと耳まで赤く染め、両手で思い切りクラウスを押して突っぱねると、ミランダの滑らかな胸元を凝視していたクラウスは、長く長く安堵の息を吐く。


「……だから、祖国へ帰れと言ったのだ」


 ミランダの腕を離し、傷が治癒していることに安心したのか、力が抜けたように寝台へと腰掛け俯いた。


 強い口調で言われ、「でもお役に立ちましたでしょう?」と反論するミランダの身体を、丸太のように太い腕で抱き寄せる。


「お前の言う通りだ……感謝している。だが同じ轍を二度踏む気はない」


 抱き寄せられるがままに身を預けたミランダの額に口付けを落とし、クラウスは強い口調で告げる。


「居並ぶ諸侯達がお前に興味を示す中、安全とは言い難い居留地に置くのは危険と判断し、早急に側妃という身分を与えたが……結局は実態が伴わない張りぼてに過ぎない」


 あー……まぁ、そうですね。

 色々手を尽くし、回避した経緯もございますから実態は伴っていないですねと、クラウスの腕の中で目を泳がせるミランダ。


「いいか? お前の気持ちは嬉しいが、人には立場というものがある。俺は与えた立場以上の職責を負わせる気はない」

「ですがそれは、時と場合によるのでは?」

「そういう話ではなく、実を伴わない不安定な立ち位置のお前は、本来であれば今回のように表立って動くべきではないんだ」

「……それでは私が余計な事をしたとでも、仰りたいのですか!?」

「違う、そうじゃなく……くそッ、上手く伝えられないな」


 苛立ったように空を握り、クラウスは小さく舌打ちをする。


「何度も言うが感謝しているし、お前がいなければグランガルドの今はなかった。それは分かっている」


 何が大国だ、揃いも揃って情けないと、クラウスは歯噛みし目を伏せた。


「言いたかったのは要するに、危ない目に遭わせたくない、という事だ。この服を見た時、俺がどれだけ驚いたか、お前に分かるか?」


 ん? と顔を覗き込まれると、吐息が混じるほどの近さに思わずミランダは目を逸らす。


 心配してくれたのだろう。

 逆の立場なら、ミランダだって背筋が凍り付きそうに驚くはずだ。


「昨日王宮の再建築や戦後処理にかかる期間を洗い出したが、早くても半年。……環境が整うまで、遅ければ一年近くかかるだろう」


 そうでしょうねとミランダは頷く。

 同時に、今回離反した者達の穴を埋める人材も、育てていかねばならない。


「……今回お前の功績を鑑み、従属国ではなく同盟国として、ファゴル大公国とは改めて条約を締結するつもりでいる」


 その言葉にミランダは驚いたように目を瞠った。

 つまり、人質はもう必要ないという事だ。


「前々から求められていたが、今回の一件でなおの事、正妃を娶り後継者を、と重臣どもが騒ぎ出すだろうな」


 気鬱な話だとクラウスは溜息を吐く。


「この先もしも俺の心に叶う者が現れ、正妃になったとして……想像してみろ。お前が今の側妃という立場に今後も甘んじた場合、新しく来た正妃を支持する者が、果たしてどれだけいると思う?」


 今回ミランダは、派手に大立ち回りを演じてしまった。

 ……余程の傑物じゃないと、難しいでしょうね。


 冷静に状況判断をするミランダの頭が小さく揺れると、クラウスはほんのりと温かいその頭に頬を寄せる。


「前にも伝えたが、俺は、お前を望む」


 そもそも夜のお勤めを拒否したお前を、側妃と言えるのかは甚だ疑問だが、とチクリと付け足し、クラウスは手の平をミランダの頬に沿わせた。


 そっと上向かせ、ゆっくりと優しく口付けを落とす。


「ファゴル大公国に帰るか、グランガルドの正妃となるか」


 ――――決めるのは、お前だ。










※本作ですが、書籍化・コミカライズ化されました!

※書籍版オリジナルストーリー、コミカライズ限定シーンなどもあり、WEB既読でもお楽しみいただけますので、こちらもぜひ手に取っていただけると嬉しいです。


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