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【書籍化・コミカライズ8/29発売!】初夜に自白剤を盛るとは何事か! 悪役令嬢は、洗いざらいすべてをぶちまけた  作者: 六花きい
第一章:グランガルド編 ~初夜に自白剤を盛るとは何事か!~

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45.かの名は『ミニャンダ』……男爵令嬢だった者である


 どっぷりと日が暮れ、人通りが絶えたクルッセルの街。


 一人の騎士が土砂降りの中、濡れるのも厭わず、騎馬で街中を駆け抜ける。

 並外れた体躯に、鋭い眼光……一目見て、名のある騎士だと分かる。


「ミランダ殿下の命により参りました、ダリル・アビントンと申します……大至急、領主に取次ぎを」


 肩で息をしながら大至急だと宣うその騎士から、(かんざし)を手渡された門番は、慌てて領主館へと駆け込んだ。


 見る者が見れば、中央の継ぎ目から仕込み簪だと分かる――見覚えのある、銀製の玉簪。


 何事かと領主がその騎士から話を聞いてみれば、ミランダからの命令で、土木チーム職人達の中から騎馬出来る者を二~三名選出し、大至急王宮に派遣して欲しいという。


 予断を許さない状況と聞き、領主は緊急時の鐘を鳴らして組合長のシヴァラクを呼びつけ、職人達を招集した。


「えー、先日設計現場の見学に訪れた男爵令嬢、『ミニャンダ・アニョル』を覚えているだろうか」


 初更の招集命令に、何事かと(ざわ)めいていた職人達は、シヴァラクの言葉を受け一斉に頷いた。

 それもそのはず……あの鮮烈な輝きは、目を瞑れば今でも脳裏に蘇る。


 一方王家直属の騎士ダリルは、突然出てきた男爵令嬢『ミニャンダ・アニョル』の名に、訝し気に首を捻った。


「実を言うと男爵令嬢『ミニャンダ・アニョル』は仮の姿で、本当はファゴル大公国の第二大公女『ミランダ・ファゴル』なのだが……」


 もにょもにょと気まずそうに打ち明ける、職人組合の組合長シヴァラク。

 でしょうね、あんな男爵令嬢がいたら引っ繰り返りますよと、頷く職人一同。


 さてはクルッセルの街で何かやらかしたな……と、暗に察する騎士ダリル。


「詳しい状況は不明だが、北はインヴェルノ、南はガルージャが我が国への侵攻を開始した。さらに第四騎士団とヘイリー侯爵の裏切りにより、現在王都は騎士団が不在という、非常に危険な状態に陥っている」


 軍事大国による南北からの侵攻の知らせに、職人達は皆息を呑む。


「……王都ないし王宮に反乱分子が潜んでいた場合、手薄になった王宮は、既に制圧されている可能性もある」


 組合長シヴァラクの傍らに立っていたダリルが、重ねるように言葉を挟んだ。


「そのような危険な状況下で大変申し訳ないが、貴方達の中から騎馬出来る者を三名程選出したい。最高級の宝飾品を携え、大至急王宮にへ向かうよう殿下より仰せつかった」


 見上げる程の巨躯。

 堂々と宣うその騎士は、豪雨の中を必死に駆け抜けてきたのだろう……鎧が泥に塗れ、濡れそぼった髪からは雨が滴っている。


「あの、殿下は今どちらに?」


 心配そうに質問をするジェイコブへと目を向け、ダリルが「恐らく今は王宮に居られる」と答えると、職人達は一斉にどよめいた。


「今、説明があった通りだ。此度の招集は、この内容を受けたものである。あまり時間も無いので、早速候補を選出したい。状況によっては命の危険が伴う事を覚悟の上、挙手してくれ」


 様子を見守っていたクルッセルの領主はそう言うと一歩前に出て、居並ぶ三十名弱の職人達を見廻した。


「王宮行きを希望し、且つ騎馬が出来る者」


 平民出身の職人が過半数を超えるため、騎馬出来る者はそう多くない。互いに顔を見合わせた後、パラパラと手が挙がった。


「ふむ……十二? いや、十三名か」


 命の危険があると前置きしたにも関わらず、騎馬出来る全ての職人が手を挙げた。


 このような状況下なので希望者が居らず、無理矢理連れていくことも覚悟していたダリルは、その数に驚く。


「思ったよりも多いな。もう少し絞るか。今回、宝飾品を携えよとのお達しなので……それでは、宝飾品に関する知識があり、尚且つ加工が可能な者」


 土木チームなのにその様な者が果たしているのだろうかと、ダリルが目を(すが)めると、三名の職人が残った。


 ふと横を見ると、組合長のシヴァラクも手を挙げている……最終的に条件を満たした希望者は、全部で四名。


 権力に(おもね)ることのないクルッセルの誇り高き職人達。ダリルがミランダと接したのは『エトロワ』にいた僅かな時間だが、この様子を見るだけで、彼女が巷で耳にする噂通りの人間ではない事が伺える。


「四名か……殿下が命ぜられたのは、二~三名だ。手を挙げた者の中で、辞退する者はいないか?」


 領主がそう問いかけるが、手を下げる者はいなかった。


「わざわざ土木チームを呼び付けるという事は、何か特別にお願いしたい事があるのだろう……さらに宝飾品に係る知識も、となると街で一番の腕利き職人であるシヴァラクは外せない。サモアもまた然りだ」


 となると、ローガンかジェイコブ、どちらを外すか……領主が呟くと、突然ジェイコブが前へ出た。


「あの領主様、大至急となると騎馬で王宮まで行くんですよね? ローガン先輩は最年長だし、体力的に厳しいと思います」

「なっ、なんだと!? お前調子に乗るなよ!? ……領主様、コイツは減給処分を食らうような手の付けられない荒くれ者です。王宮に連れて行ったら最後、何をしでかすか分かったもんじゃありません」

「はぁああ!? こっちが下手(したて)に出りゃあ舐めやがって! いざとなりゃあ反乱軍なんざ、俺が一捻りしてやる」

「どこが下手(したて)だ! ハッ、若造の分際で、お前なんぞに出来る訳が無いだろう。街の破落戸を相手にするのがお似合いだ。お留守番しながら精々大人しくしておくことだな」

「畜生、ジジイ! 表に出ろ! 王宮に行くのは俺だ!」


 老いも若きも体力に自信がある職人達。

 領主やダリルがいることなど忘れ、いつもの調子で喧嘩を始めた二人に領主は溜息を吐き、呆れ顔で睨み付ける。


「おい、お前達。いいから落ち着け」


 領主の言葉も耳に入らず、今にも掴みかからんばかりにローガンへと詰め寄るジェイコブの襟首を、大股で歩み寄ったダリルが掴んだ。


「ぐほっ」


 襟首を掴んだまま、事も無げに片腕を引くと、大柄なジェイコブの身体が一瞬宙に浮き、ふわりと後ろに倒れ込む。


「……それではこの四名で向かう。途中で遅れた者はその場で置いていく」


 軽々と引き倒され、尻餅をつきながらポカンと口を開けるジェイコブと、同じく驚いて目を見開くローガンを順に見遣ると、ダリルはそう領主に告げた。


 かくして定員オーバーの御一行様は、王宮へと向かったのである。








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