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『虚像』  作者: 闇深太郎
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心霊カメラ


 あるカメラを大切(たいせつ)にしている。父親(ちちおや)がくれた手(て)の平(ひら)くらいの小(ちい)さなデジタルカメラだ。一見(いっけん)どこにでもあるカメラだが、私(わたし)にとっては宝物(たからもの)だ。これを持(も)って父(ちち)と写真(しゃしん)を撮(と)りに行(い)くのが何(なに)よりも楽(たの)しみにしていた。

 中学生(ちゅうがくせい)にもなって父(ちち)と仲良(なかよ)くしているのを不思議(ふしぎ)がる人(ひと)が居(い)る。思春期(ししゅんき)にもなれば異性(いせい)の親(おや)とは距離(きょり)を置(お)きたがるのが普通(ふつう)だとある本(ほん)に載(の)っていた。それでも私(わたし)は父(ちち)が好(す)きで、カメラを持(も)って散歩(さんぽ)していた。学校(がっこう)では写真部(しゃしんぶ)で、いつもこのカメラで写真(しゃしん)を撮(と)っていた。



 部活(ぶかつ)がないある日(ひ)の事(こと)だった。放課後(ほうかご)、職員室(しょくいんしつ)に寄(よ)って帰(かえ)ろうと廊下(ろうか)を歩(ある)いていた時(とき)、今日(きょう)は開(あ)いていないはずの図書室(としょしつ)の扉(とびら)が開(あ)いているのに気(き)づいた。


 誰(だれ)かが間違(まちが)えて入(はい)っているかもしれない。そう思(おも)った私(わたし)は図書室(としょしつ)の中(なか)に入(はい)った。ところが、先生(せんせい)も生徒(せいと)も居(い)ない。私(わたし)は先生(せんせい)に鍵(かぎ)を閉(し)めてもらおうとしたその時(とき)だった。

「そこの君(きみ)、」

見知(みし)らぬ声(こえ)に呼(よ)ばれて振(ふ)り向(む)くと、女子生徒(じょしせいと)が立(た)っていた。小柄(こがら)で、黒(くろ)い髪(かみ)を短(みじか)く切(き)り揃(そろ)えている。そのような姿(すがた)の生徒(せいと)は初(はじ)めて見(み)た。先程(さきほど)までここに居(い)かったはずだ。私(わたし)と同(おな)じように入(はい)ってしまったのだろうか。

「カメラ持(も)ってるでしょ?」

女子生徒(じょしせいと)は私(わたし)のポケットを指差(ゆびさ)した。そこには、カメラが入(はい)っている。私(わたし)はそのカメラを取(と)り出(だ)して見(み)せた。

「すごいね、私(わたし)何(なに)も言(い)ってないのにカメラがあるの当(あ)てるなんて。良(よ)かったら撮(と)ってあげるよ。」

私(わたし)は女子生徒(じょしせいと)の写真(しゃしん)を撮(と)って見(み)せた。女子生徒(じょしせいと)は喜(よろこ)んだが、突然(とつぜん)真剣(しんけん)な顔(かお)になった。

「君(きみ)じゃない、そのカメラの持(も)ち主(ぬし)に用(よう)があったの。」

私(わたし)は首(くび)を傾(かし)げた。

「気(き)をつけてね。」

その時(とき)、図書室(としょしつ)の扉(とびら)が勢(いきお)いよく開(ひら)き、中(なか)から体育(たいいく)教師(きょうし)の山浦先生(やまうらせんせい)が現(あらわ)れた。

「寺岡(てらおか)、今日(きょう)は図書室(としょしつ)は開(あ)けてないぞ。」

「私(わたし)以外(いがい)に女(おんな)の子(こ)が居(い)るんです。」

「何(なに)言(い)っているんだ?君(きみ)以外(いがい)に誰(だれ)も居(い)ないじゃないか。閉(し)めるぞ?」

山浦(やまうら)先生(せんせい)は私(わたし)が図書室(としょしつ)に出(で)たのを確認(かくにん)すると、鍵(かぎ)を閉(し)めてしまった。

「用(よう)がないならもう帰(かえ)れよ。」

それを聞(き)いた私(わたし)は、本当(ほんとう)の意味(いみ)で急用(きゅうよう)を思(おも)い出(だ)した。

「担任(たんにん)の塩見(しおみ)先生(せんせい)に用(よう)があるんです。職員室(しょくいんしつ)に居(い)ますか?」

「塩見(しおみ)は部活(ぶかつ)で体育館(たいいくかん)に居(い)る。用(よう)が済(す)んだらすぐ帰(かえ)れよ。」

私(わたし)はその足(あし)で体育館(たいいくかん)に向(む)かった。そして、用事(ようじ)を済(す)ますと、今度(こんど)は寄(よ)り道(みち)せずに帰(かえ)った。



 結局(けっきょく)、あの女子生徒(じょしせいと)は何者(なにもの)だったのだろう。私(わたし)はあの時(とき)の写真(しゃしん)を確認(かくにん)したが、女子生徒(じょしせいと)の姿(すがた)はなかった。

 そういえば、以前(いぜん)、このカメラには何(なに)かが宿(やど)っていると一度(いちど)だけ父親(ちちおや)が話(はな)していた。私(わたし)が知(し)らない時(とき)にこのカメラに何(なに)かあったのだろうか。今度(こんど)聞(き)きたかったが、残念(ざんねん)ながらそれは叶(かな)わなかった。

 その翌日(よくじつ)、突然(とつぜん)父(ちち)が亡(な)くなったからだ。

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