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『虚像』  作者: 闇深太郎
1/10

もしも


 …夢(ゆめ)を見(み)ていた。浅(あさ)はかで、虚(むな)しい夢(ゆめ)だった。

 私(わたし)は暗(くら)く、濁(にご)った水(みず)が溜(た)まった洞窟(どうくつ)で目(め)を覚(さ)ました。私(わたし)の手(て)元(もと)には水没(すいぼつ)したカメラがある。だが、そんなものはどうでも良(よ)かった。


 意識(いしき)が朦朧(もうろう)とする中(なか)で、色々(いろいろ)な感情(かんじょう)が浮(う)かんでは消(き)えていく。寂(さみ)しい。怖(こわ)い。心細(こころぼそ)い。虚(むな)しい。全(すべ)てがどうでもいい。私(わたし)はここで終(お)わるみたいだ。あの人(ひと)のように私(わたし)も呆気(あっけ)なく消(き)えるのだろう。

 

 …その時(とき)、どこからか声(こえ)が聞(き)こえた。もう聞(き)けないはずのあの人(ひと)の声(こえ)だった。誰(だれ)にも辿(たど)り着(つ)けない場所(ばしょ)で、もう見(み)えないはずの私(わたし)を心配(しんぱい)しているのだろう。


 行(い)かなければいけない。私(わたし)は微(かす)かな希望(きぼう)を信(しん)じて立(た)ち上(あ)がった。そして、洞窟(どうくつ)にある一筋(ひとすじ)の光(ひかり)を探(さが)し、身体(からだ)の悲鳴(ひめい)を押(お)し殺(ころ)して走(はし)った。



 …もしもあの日(ひ)別(わか)れを告(つ)げられたら、どれ程(ほど)幸(しあわ)せだっただろうか。何故(なぜ)、私(わたし)が知(し)らない所(ところ)で、あの人(ひと)は消(き)えてしまったのだろう。もう一度(いちど)だけ話(はなし)をしたかった。それなのに何故(なぜ)あの人(ひと)はもうこの世界(せかい)の何処(どこ)にも居(い)ないのだろう。


 生(い)きるものとして当(あ)たり前(まえ)の話(はなし)だ。命(いのち)の重(おも)さに優劣(ゆうれつ)はないはずだ。そうだというのに、何故(なぜ)人(ひと)の死(し)というのはここまで心(こころ)に重(おも)くのしかかるのだろう。


 ようやく洞窟(どうくつ)の出口(でぐち)に辿(たど)り着(つ)いた私(わたし)は何(なに)も考(かんが)えずに走(はし)った。身体(からだ)はまだ痛(いた)がっている。それでも、私(わたし)はあの人(ひと)の声(こえ)を追(お)って、行(い)かなければならなかった。


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