もしも
…夢を見ていた。浅はかで、虚しい夢だった。
私は暗く、濁った水が溜まった洞窟で目を覚ました。私の手元には水没したカメラがある。だが、そんなものはどうでも良かった。
意識が朦朧とする中で、色々な感情が浮かんでは消えていく。寂しい。怖い。心細い。虚しい。全てがどうでもいい。私はここで終わるみたいだ。あの人のように私も呆気なく消えるのだろう。
…その時、どこからか声が聞こえた。もう聞けないはずのあの人の声だった。誰にも辿り着けない場所で、もう見えないはずの私を心配しているのだろう。
行かなければいけない。私は微かな希望を信じて立ち上がった。そして、洞窟にある一筋の光を探し、身体の悲鳴を押し殺して走った。
…もしもあの日別れを告げられたら、どれ程幸せだっただろうか。何故、私が知らない所で、あの人は消えてしまったのだろう。もう一度だけ話をしたかった。それなのに何故あの人はもうこの世界の何処にも居ないのだろう。
生きるものとして当たり前の話だ。命の重さに優劣はないはずだ。そうだというのに、何故人の死というのはここまで心に重くのしかかるのだろう。
ようやく洞窟の出口に辿り着いた私は何も考えずに走った。身体はまだ痛がっている。それでも、私はあの人の声を追って、行かなければならなかった。