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銃器使い達の狂宴 ―少年少女の戦場―  作者: 梨乃 二朱
第一章:里浦友恵の憂鬱な学園生活
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 模擬戦です。

 しかし、訓練なので本格的なものではありません。それでも、お楽しみ戴ければ幸いと思います。






 

 『仮想戦域』は潜入モードに設定されていた。

 友恵は『Mk.08 Storm rifle』突撃銃の銃身を切り詰めたPDWモデルの『Mk.08 Micro Storm rifle』を手渡され、人質救出作戦を想定した訓練に着いていた。PDWモデルのストームライフルは、何だか『FN P90』に外見が似ていて、愛着を覚えてしまう。それは友恵の『適性銃器』に関係があるのだが、今は良いだろう。

 潜入作戦ともあって当然の如く、銃口には『サプレッサー』が備えられている。『敵性銃器』のハンドガンにも、サプレッサーを備えるように指示された。

 『QPS』も隠密作戦専用にチューニングされたものを使用している。


 およそ高校生が行うとは思えない高度な想定訓練は、最近のどの銃器高校でも当たり前になってきている。これでもこの学園は旧式らしいのだが、何が新しく何が古いのか、友恵には分からない。

 訓練所は地下というのに、屋敷やその豪勢な庭園、おまけに夜間の森林地帯という空気間さえ地上と間違えそうな雰囲気を、旧式とは思えなかった。


「分かっていると思うが、敵性プログラムはホログラムだけど、撃たれるとかなり痺れるぞ」


 的場薫も友恵と同じ装備を備え、ピットに入る。どうやらツーマンセルで行動するようだ。

 ただ彼のストームライフルは、通常型のカービンモデルだった。


「準備は良いな? 潜入後、目標を救出して作戦エリアを離脱。――なに、下校時間までには終わるさ」


「は、はい……」


「そう緊張するな。いや、ちょっとはした方が良いか。怪我すると大変だからね」


 友恵の肩を優しく二度叩いた的場薫は、耳に嵌めたインカムに「始めて下さい」と吹き込む。

 するとそれに応えるように、友恵と的場薫が乗るエレベーターが競り降りて行く。


「『QPS』起動。この装備が、僕と君の基本になる。慣れておくように。長所は隠密性の高さ。短所は攻撃力と防御力の低さだな」


 説明を耳に入れつつ、友恵は左手首に嵌めたタッチ式端末へ起動キーを入力する。その一瞬後、友恵の体に漆黒のアサルトスーツが装着された。

 これが量子強化外骨格『QPS』の最大の特徴だ。

 スーツを量子変換し端末に納める事により、いつ如何なる状況に於いても一瞬で装着、着脱が可能になる優れものだ。容量の問題で一着、多くても二着が限度だが、付属の装備も纏めて量子化されている為、本当の意味でワンタッチで完全武装出来るのだ。


「“クローク”で潜入する。行動するとエネルギーが低下するから注意するように。使い過ぎると、エネルギーシールドの電力まで喰われる事になるぞ」


 “クローク”とは“クローキングデバイス”の略称である。覆い隠すという意味を持つ“クローク”の名の通り、光学迷彩を体に纏う事で視認性を下げる事が出来る。夜間ならば、ほぼ完璧に姿を隠せる。

 しかし、クロークは大量の電力を必要とする為、連続して使用する場合は十分が限度である。特に移動する場合は、周囲の情景と同化する為に高度な計算を必要とするので、その分、電力の消費が激しい。


 そうこう話している内に、エレベーターが最下層に到着した。

 鋼鉄製のシャッターがゆっくりと競り上がって行き、夜間の別荘を想定されたフィールドが眼前に広がった。

 「クローク起動」的場薫は左手首の端末を操作し、自身に光学迷彩を施す。周囲の情景と同化し、一瞬にして姿が消えた。友恵も同じように、クロークを作動させる。


「バイザーに青い光点があるだろ。“『QPS』センサー”で僕の姿を捕捉している証拠だ」


 装備にはヘルメットと一体化したバイザーが備えられている。そこには確かに青い光点が表示されており、その方向から的場薫の声が聞こえて来る。


「味方は青い光点で表示される。敵と見なされれば赤い光点になり、それ以外は黄色い光点で示される。敵味方の判断は『QPS』の識別信号でされているけど、クローク中は敵の信号は捕捉出来ない。けど、“心音センサー”では捕捉出来る。その場合くらいかな、黄色い光点で表されるのは」


 一連の説明は、講義の中で学んだものばかりだった。それも一年生の初期に教わるもので、今さら改めて言われる程のものでも無い。

 それでも敢えて説明するのは、きっと訓練とは言え実戦に近い状況下では、忘れがちになってしまうからだろう。


「本来なら、突入班に二人と狙撃手に二人は配置したいところだが、まぁ訓練だから良しとするか。――それでは、行動開始と行こうか」


 カチリ、とコッキングレバーの引かれる音がすると共に、バイザーに映る青い光点が移動を始めた。

 友恵もそれに倣い、行動を開始した。











 屋敷の玄関には、二人の敵性プログラムが配置されている。

 友恵は方膝を着いた体制から、片方の敵性プログラムにストームライフルのグリーンドットサイトのレンズに浮かぶ緑の光点を合わせ射撃体制を取る。

 動かない的なら、当てる自信はある。


「スリーカウント。確実に殺れ」


 無線機にそう指示が流れた。

 的場薫のカウントを聞きながら、呼吸を落ち着かせトリガーに掛ける指に徐々に力を入れる。

 そしてカウントが“2”になった瞬間、玄関上部に備え付けられていた監視カメラが弾け飛んだ。更に“1”になったと同時に、見張りの一人が崩れるように倒れ、少しタイミングが遅れたが友恵はトリガーを弾き絞った。

 セミオートに設定された『Mk.08 Micro Storm rifle』の銃口から放たれた『6.5mm Ele弾』は、敵性プログラムの側頭部に見事命中し、撃ち貫いた。

 元々、電磁アサルトライフルであるストームライフルにサプレッサー等は不要に思われがちだが、音は静かでもマズルフラッシュの光量が高い。その為、サプレッサーは音量を抑える目的よりも、マズルフラッシュを抑える目的で付けられる。『フラッシュ・サプレッサー』の役割が大きいというわけだ。


「待てよ、まだ動くな。次が来る」


 指示があったのも束の間、屋敷の扉が開かれ、また二人の敵性プログラムが現れた。監視カメラの異常を確認すべく出てきたのだろう。

 今度は的場薫が速射を行い、素早く始末した。


「クリアだ。慎重に行くぞ」


 前進の合図が出ると共に、バイザーの右端に映っていた青い光点が玄関に向けて移動を始めた。

 友恵も教本通り、一定の感覚を取りつつ腰を上げる。


 正直な話しは、クロークでの実技訓練は初めてだ。

 座学で理論と運用方法の知識は得ているが、実際の使用経験は無い。

 元より、クロークは三年生の実習科目だ。二年生になったばかりの友恵が、使用経験がある筈がない。

 しかし、的場薫も同級生の筈だが、こうも完璧にクロークの一長一短を理解し実践に移せている事を考えると、つい同じクラスの生徒である事を疑いたくなってしまう。


「ドアが開いているのが見えるな? 不用意に動かすような事をしなければ、怪しまれる事はない」


 先程、見回りの敵性プログラムが出てきた事で、玄関のドアは開きっぱなしとなっていた。

 これ幸いと的場薫はドアの端から中の様子を確認すると、「司令部、これより潜入する」と無線機に吹き込み中に入って行った。友恵も続いて屋敷の中へ入る。


 屋敷内は比較的簡素な作りで、玄関ホールは広く二階まで吹き抜けとなっていた。

 的場薫を表す光点は、ホール端の一番太い支柱の側で瞬いていた。


「目標は執務室に軟禁されている。屋敷の図面にマーキングしてあるだろ? 確認しながら移動するんだ。人質救出後、作戦エリアから離脱出来れば任務終了。――良いね?」


「了解」


 友恵は端末を操作し、屋敷内の図面をバイザーのヘッド・アップ・ディスプレイに呼び出す。二階の東、角部屋が目標ポイントとなっていた。

 ホールの階段を上り、通路を真っ直ぐ行けば直ぐだ。


「静かに行くぞ。敵にわざわざこちらの存在を明かす必要は無い。――場所は確認したな?」


「は、はい」


「なら、先導しろ」


 突飛な指示に唖然とする友恵。

 そんな弱腰に喝を入れるように、「これも試験の内だ」と言って的場薫は優しく頭を叩いた。

 クローク中で姿は見えないが、優しく微笑んでいるのが声色で分かった。


 友恵は腹を括り、「り、了解……」と一気に渇いた喉を震わせた。

 場所は確認済みで敵に姿が見えていないならば、そう難しい事では無い筈だ。


「これはテストでもあるが訓練でもある。失敗しても良いから、気楽に行けば良い。怪我だけは無いようにな」


 そう言って先を促すように背中を叩かれた。

 確かに、敵の陣地の中でこんなにのんびり話し込んでいるなんて、通常では有り得ない。あくまで訓練という彼の言う通り、そんなに気負う必要は無いのかも知れない。


 友恵は深呼吸を一つすると、ストームライフルのセレクターを三発バーストに設定し直した。

 ここから先は、否応にも近接戦闘をしなければならない。突然、眼前に敵が飛び出す事も考えられる。

 そんな時、焦ってマガジン内のバッテリーを一気に使い尽くしては良い笑い者だ。ここは無難にバーストを選択するのが利口だろう。


「行きます……!」


 意を決するように声を発し、支柱から飛び出した。

 敵の姿が無いことを確認すると、音を極力立てぬよう、階段を駆け上がる。もっとも、潜入専用に改良された『QPS』なら、消音機能も充実している為、そこまで気を配らなくても良い。が、何事も用心するに越したことは無い。


 階段を上がりきった所で、階下で複数の足音が響いた。

 どうやら玄関の異変に気付いた敵性プログラムが、複数人武装して向かったらしい。


「厳戒体制が敷かれるまで、三分ってところだ。取り敢えず人質の救出が最優先だ」


 的場薫の指示を聞きながら、通路の敵性プログラムに気を向けていた。

 数は二人、恐らく巡回だろう。ほぼ並列して歩いている。


 背後を見せている今なら、狙撃すれば気付かれずに済む。

 速射は得意では無いが、撃たれる前にほふれば問題は無い。


 ざっと頭の中でイメージし、ストームライフルを構える友恵。グリーンドットサイトの光点に、目標の後頭部を捉える。

 トリガーを引き絞ると、ほぼ無音にまで減音された発砲音が鼓膜を震わせ、目標へ三発の『6.5mm Ele弾』を叩き込んだ。

 糸の切れた操り人形の如く床に崩れる相棒の異変に気付いた敵性プログラムは、慌てた様子に周囲に視線を巡らせる。

 一方の友恵は、すかさず敵性プログラムの胴体へ緑色の光点を向け、トリガーを二度弾く。合計六発の銃弾が、目標を撃ち抜いた。


「エクセレント。お見事だ」


 称賛の言葉と共に肩を叩かれ、友恵は先を急いだ。

 ふと、こうして誉められるのは初めてな気がして、思わず頬が緩んだ。慌てて気を引き締め直し通路を進む。


 目標ポイントまでは十メートル程で、そこまで敵性プログラムが出てくる事は無かった。

 執務室のドアの前に着くと、的場薫に待つよう肩を叩かれた。振り返ると、クロークを解除してバックパックを下ろしていた。


「クロークを解除しろ。“ミュートウォール”を設置する。消音効果は約五秒だ。迅速にヤれ」


 的場薫はバックパックから直径二十センチ、幅五センチ程の装置を取り出し、壁に設置した。そして指でスリーカウント数えると、装置の中央に備えられたレバーを捻る。

 すると装置から高周波が発せられ、壁面を伝わって行く。同時に、頭痛を催す耳障りな感覚に捕らわれた。


 そんな友恵を他所に、的場薫は執務室のドアを蹴り飛ばした。『QPS』により強化された脚力は、例え施錠された扉であろうと、破壊する事は容易い。が、その分、騒音が響く事は当たり前だ。

 それを防ぐ為に使われるのが、“ミュートウォール”だ。

 その名の通り、超音波を用いて壁面を一時的に防音仕様にする装置で、潜入、人質救出作戦には重宝されている。


 的場薫がドアを蹴破った音もミュートウォールによって減音され、屋敷に響く事は無かった。

 彼の突入に合わせて、友恵は直線上に居た敵性プログラムへ照準を合わせ排除する。彼は他の二人の敵性プログラムを、迅速に排除した。それと同時にミュートウォールの効果が切れ、耳障りな感覚が無くなった。


「ドアを見張っている。人質の解放を頼む」


「了解」


 友恵は的場薫の指示通り、執務机に備えられた豪勢な椅子に座る女性型プログラムの元へ近付いて行く。女性プログラムは友恵に背を向ける形で、窓の外の方へ向かって座っていた。

 人質の解放は識別コードの確認で済む。プログラムが正しいコードを語れば、それで人質の救出は成功となる。


 手順を確認しながら、椅子に座るプログラムへ「救出班です」と声を掛ける。と、プログラムが椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらへ振り向いた。

 その瞬間、目の前が真っ白に塗り潰された。次いで激しい爆発音が執務室を震撼させ、友恵は爆発の衝撃に煽られ部屋の壁に叩き付けられた。


 人質の体に爆弾が括り付けられていることに、友恵は気付くことが出来なかった。

 その確認を怠った結果、間近で爆発を喰らい、死亡してしまったのだった。











 

 ストームライフルのサイトをグリーンドットサイトにしたのは、完全に独断と偏見です。

 近未来兵器のサイトは、何かグリーンの方が雰囲気が出そうなので。

 因みに今回、友恵が使っているドットサイトは、チューブレスのものです。一応。


 それに近未来兵器と言えば、光学迷彩を捨て置くわけには行きませんよね?

 クロークはSFに欠かせない、と勝手に思っております。

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