章間 世界を敵に回してでも守りたい、愛しい敵へ。
困惑することすらままならないゼクディウス。
一方で、彼のことを想いながらも、トウコは一人、車に乗り込む。
既に、それを引く馬は必要なく、魔力も消耗しない。代わりに地中奥深くの資源を使うと──そう思いだしていたところで、自身の悲しみをごまかしているのだと、トウコは気づく。
「ゼクディウス・カルーレン……」
その声には、深い悲しみと、恋心から来る甘い響きのみが感じられる。
「……ゆくゆくは、トウコ・カルーレンと呼ばれるのだ、などとばかげた妄想をして……名で呼ぶのは、それからだと決めて……結局、呼べずじまいか」
トウコには、どのような時世であったとしても、それが許されないであろうことは分かっていた。敵国は敵国。その前に、仮想という言葉が付くかどうか。
それでも、願いは否定したくなかったのだ。自身と、想っている相手とが結ばれる。そんな、恋をしたら誰もが抱くであろう願いだけは。
「最後であってほしくはない……そして、ク・マキナの者としてあるまじき行いだとわかっている……それでも……君のために、祈らせてくれ……」
ルア・メクルイデスの流儀にのっとった、神への祈り方。随分と不慣れで、間違いがあっても、それに気づける者はいない。
それでも、トウコは泣きながら祈った。
「……さて。祈ったことと真逆の結果をもたらしうることをするのも、君と話をしに行くためだったからな。そこは仕方ないとしてくれよ……愛しているよ、ゼクディウス」
自分以外には、届くことのない言葉を告げ。
トウコ・カナギは、ムル・クアリアスの地を離れていく。
明日は戦地となるかもしれない、愛しい敵の住む土地を。




