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雨が続く。
灰色は混沌の色。空を晴らす正義の光も、ここではその全ては遮られ、私情に流された哀れな悪人が血も汗も流し合い、欲に染った黒い雨を垂れ流す。
雨に打たれ、瘴気に晒された空民は、やがて同じ色に染る。
「そうなる前に、空にデカい風穴開けて犯罪者共々この街の汚点を晴らしてやろうってのが、俺達対応家の仕事だ。」
「悪人相手に手段は選ばない。人権度外視の極悪人、俺達なんか悪人と同じだーとか言われてるが、それでもいい。」
「悪人が滅びるまで、私たちはその使命を遂行する。なのに…」
いつもの反省会。いや、いつもなら乾杯と同時に言ってそうな事だが。
まさか俺たちが、犯罪者を逃がすなんて。
「すまねえっす。私があの爆発に耐えられていれば…。」
もうすっかり、というかすぐ元通りになった峯子はテイクアウトした揚げ鶏を取っては投げて口に運ぶ。
「そうだな。爆破地点に足だけでも残ってれば、体掴んで後を追えたかもな。」
「そういう問題じゃないだろう。補佐官の無事を素直に喜べないのかお前は。」
「とは言ってもな牙鳥、俺たちは、あろうことか!誘拐事件の犯人を逃がしたんだぞ!」
牙鳥も揚げ鶏を口に運ぶ。
「容疑者だ。犯人だと断定できるほどの情報はない。」
「爆破物だぞ。麻薬も所持していた。次いで俺たちの仕事を邪魔した。」
「ほへはんふほほ。」
峯子、食ってから喋ってくれ。」
んっ。
「えー、それなんすけど、先ぱい。吹っ飛んだ時にっすね、あのー、」
何だよ、早く言え。」
「緋鋸さん、吹っ飛んだ時、どうなったと思います?」
「爆破の跡からは緋鋸の残骸はなくなっていた。逃げたか、それとも検出できないほど散り散りになったか、だろ。」
「まあ逃げたのがそうなんすけど。逃げる時にどーやって逃げたんすかねーと思って。」
「彼女の空民登録情報を見れば分かるが、ちょっとした跳躍技術があるくらいだ。麻薬で増幅して爆破の衝撃と合わせて使ってどこかに逃げた可能性が高いだろうな。」
「あーなるほど。そーゆー事っすか。」
「おい。」
「なんすか?」
「そんな事じゃないだろ。研究者がそんな事も分からない訳が無い。」
もぐもぐと動く口が止まる。
「まあ確かに、峯子補佐官は研究者だが。今は対応家なんだ、質問には答えてやるのが、先輩としてじゃないか?」
「違ぇよ牙鳥。こいつ、なんか自分で解決してやろーと考えてるだろ。」
「勝手にさせとけよ峯住。後輩の若気の至りを対応するのも、対応家の仕事じゃないか。」
んむ。
「言ってもいいんすけど。」
「言え。情報共有は解決に必須だ。」
「吹っ飛んだ時、なんか言ってたんすよ。緋鋸さん。」
「なんかって、何を。」
「それがわかんないんすよねえ。」
「わかんないわけ無いだろうが!」
揚げ鶏の山が勢い良く崩れ落ちる。
「聞こえているとわかってなぜ聴こえたことの内容が分からないんだ?そんなの、進化前の人類でもなけりゃ起こりえないだろうが!」
「まあまあまあ落ち着いてくだせーよ峯住先ぱい。ふぁはひ、ん、あるんすよ。こーゆーこと。」
滑落する揚げ鶏を掴んでは投げ、咀嚼する。
病人でさえありえない事だ。言葉が聞こえたのに何を言ってるのか分からないなんて。
しかし。
「技術のせいか?」
「そうっすね。私のはまだ中途半端なんすよ。」
「奪われてから大分経つ。それでなぜ。」
「吹っ飛ぶ前には聴き取れていた筈なんす。でも、そこは戻らなかったんすよ。」
…
はあ。」
「峯住。峯子補佐官にはその情報をしっかり調べさせよう。峯子補佐官、君はそれが出来るはずだ。」
「集中しなきゃいけないんで。これから捜査は行けないっすよ。」
「大丈夫だ。『思い出したら』連絡をくれ。」
「了解っす。」
「おい勝手に」
「峯住。行くぞ。」
「おい!」
「捕まえたいんだろ。麻薬所持は事実だ。いくらでも追えばいい。」
流通した場所も調べてある。そこによく現れる人物の情報も分かる。
誘拐犯、容疑者の話はそいつに聞けばいい。
しかし、
聞こえているはずなんだ。峯子には。
何故それが、聞こえていた内容を頑なに言おうとしない?
それが技術のせいでも、峯子の技術でそんな不具合が起きるとは思えない。
戻しきれるはずだ。
「ほら、峯住。売人に会いに行くぞ。」
「おい峯子、自分の部屋に戻れよ。」
あと俺の部屋の鍵閉めろ。」
鍵を放って戸を開ける。
いくつか気に食わんことがあるが、
今は犯罪者を捕まえるのが先、か。




