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90 打ち合わせ


 エルフの街から王都に帰って来て2日が経った。


 今日はエリスさんに言われた通り、王様から魔獣憑きの件で話し合いをしようと言われて執務室へ。


「魔獣憑きの件であるが、まずは彼らの保護が最優先であると考えている」


 王様の執務室には俺とアリアちゃん、エリスさんに宰相のリーベルさんと執事長のヨハンさん。


 そこへ魔獣憑きであるキースが加わる。


「まずはキースのように不当な扱いを受けている者を保護したい。その為、教会に協力してもらう事にした」


「教会に?」


 この前、アリアちゃんが言っていた件だろう。魔獣憑き保護には魔導王国や教会など様々な勢力が絡むと軽く触れていたが。


「教会は王国領土内の各街には必ず存在する組織だ。各街で炊き出しやボランティアもしているから街の現状に詳しい」


 女神アレスを信仰する教会は慈善組織である。特に異世界召喚を行う召喚陣が存在するエリオス王国は聖地とされており、本部がここ王都にあるのだ。


 外出した際に通った大きな建物、組織に初代英雄の墓が掘り起こされた場所が本部である。


 孤児院を運営したり、神の教えを説いたり。あとは食事に困ってる人々に炊き出し等のボランティアもしているそうな。


 故に街の現状に詳しい。魔獣憑きが街や街の外にいるのを知っているかもしれない、と王様は言う。


 それに国の騎士が魔獣憑きを保護しに行くよりも教会の人間の方が威圧感が無いのでは、と。


「でも、国が保護したいってのも知っているんですよね? 何故今まで保護出来なかったんですか?」


 これは批判じゃなく、俺の純粋な質問だ。


 王様が魔獣憑きの人々を助けたいと思っているのは国と密接な関係にある教会も知っているはず。 


 もしも、教会が魔獣憑きの人が近くにいると知れば保護してくれると思うのだが……。


「それに関しては我々の力不足、というよりは信用されていないのだろう。教会から何度か報告を受けたが、誰も信用できないと言われて保護まで至らなかったそうだ」


 ああ、なるほどと俺は頷いた。


 魔獣憑きの人達は国も教会も信用していないのだろう。それどころか、自分以外を信用していない人がほとんどなのだろう。


「そうでしょうね。魔獣憑きになれば忌み嫌われます。人間不信になるのも当たり前かと」


 己の過去を振り返ったのか、苦々しい表情を浮かべたキースの言葉はこの場にいる全員へ刺さる。


「うむ。当然だな。だからこそ、信頼を取り戻す必要がある。しかし、信頼を失っている我々だけでは無理だ」


 そこで俺の出番。俺が言い出した事だし、俺が前面に出なくて何とする。


 英雄とはこの世界において希望の象徴。英雄が保護するとなれば彼らも受け入れてくれるかもしれない、と。


「キースという前例もある。説得力は十分だ」


「確かにそうですね。私の生活はガラリと変わりましたから。現状を伝え、私が魔獣憑きである事も見せれば十分説得できるでしょう」


 教会にしてもらう協力要請としては、魔獣憑きの発見と報告。出来れば教会での保護も。


 そして、保護した人達を王都にある本部に集める事だ。


「王都に集めた後は教会の敷地内に建設する集合住宅で一旦生活してもらう」


 この段階までいったら徐々に信頼回復に努めるといった感じ。加えて彼らがやりたい仕事があれば、実現できるよう協力するって具合だ。


 王都での生活に慣れれば勿論集合住宅から出るのも可能。本人の希望を一番に優先したいと王様は説明してくれた。


「何名かユウキ様の執事やメイドとして雇いたいですね」


 キースがそう言うが、難しくないだろうか? 俺のお世話係なんてやりたい人いるか?


「たぶん、一番希望者の多い職になると思いますよ?」


 マジかよ……。


「ゴホン。次に資金面であるが、エドワーズ商会が協力してくれる」


 エドワーズ商会。エヴァンと訓練していた際に助けたご老人、ロクサヌ・エドワーズ伯爵が運営する王家御用達商会だ。


 何でも俺に助けられた恩を返したいと自ら立候補してくれたらしい。ありがたいね。


「資金は俺も出したいんですが……」


 だが、俺には金が無い。自慢じゃないが、今の俺は王家による生活面での支援で暮しているのだ。


 お小遣いは貰っているが、それっていくら溜まっているだろう?


「お主の資金を出して良いのか? それなら、かなり楽になるだろうが」


「え? 俺ってお金持ってないですよ? お小遣い制じゃないですか」 


「何を言っておる。新型聖水の金があるだろう」


 あれって俺の給料になるの? そう思いながら首を傾げていると、エリスさんが爆弾発言。


「ルーベンスに卸した分だけでも30人くらいは2~3年保護出来る額が溜まっておるぞ」


「これから魔導国と共和国にも卸しますから、資金は潤沢に得られるでしょう」


 エリスさんとリーベルさんが頷き合う。


 聖水は各国へ提供する際、英雄への支援という形でお金が貰えるそうで。


 まぁ、エリオス王国も英雄も金が無きゃ暮らしていけない。


「それに魔力水もあるだろう。あれは魔導国が製法を欲しがるぞ」


「資金の工面としてはエドワーズ商会が協力してくれるそうなので、ユウキ様の知識や力で商品を作り出して販売してみてはどうでしょう?」


 今、一番ホットになりそうな商品は魔力水だそうだ。


 あれは今まで無かった概念であり、研究用としても魔導国が一定量を定期的に欲するだろうとエリスさんが教えてくれた。


 製法を教えれば、契約として数年間はレシピの使用料を貰えるそうだ。元の世界でいうと特許みたいなモノだろうか?


 その手助けをしてくれるのがエドワーズ商会であると、リーベルさんが付け加えた。


「以前、ユウキ様が仰っていたふりーずどらい? でしたっけ? ああいった元の世界にあった技術を再現して売り出すのも良いと思いますよ」


 アリアちゃんが言っているのは初めて魔獣討伐訓練を行った際に言ったフリーズドライ製法の事だろう。


 なるほど、元の世界にあった知識をこちらで再現するのは異世界召喚において基本中の基本。ラノベにもあったな、と俺は思い出す。


 だけど、この世界は歴代英雄が持ち込んだ技術や文化で結構進んでいるからなぁ。俺が知っている中で再現できて売れる物はあるだろうか……?


 ここは要調査だな、と心のメモに書き込んだ。


「教会と協力商会は見つかった。残りは協力してくれる技術組織、そして根拠と証拠だ」


 エリオス王国国内での協力者は得られた。残りは他国――というよりも、ヘイム魔導国と言うべきか。


 エリオス王国の技術系統はポーション製作を筆頭とした薬学が強い。エリスさんが言うように3代目英雄の残した資料を閲覧して魔獣憑き症状の解明を行う。


 俺の言った通り、魔獣憑きとは『魔獣化する負の象徴』ではなく『世界喰らいの毒に打ち勝った者』という正のイメージへ転換させれば世界の認識も変わるはずだ。


 この根拠と証拠を得に魔導国へ向かう。


 次いで魔導国の持つ技術を用いて協力してもらう事。こちらは先ほど話題に出た魔力水や資金稼ぎをする為、元の世界の技術を再現する事に協力してもらう。


 王様やエリスさんの話を聞く限りでは魔導国も協力的なようだし、ほぼ決まりだろう。


 あとは魔導国へ行って、しっかり誠心誠意お願いしよう。


「魔導国へ向かうのはいつ頃になりそうですか?」


「向こうからは1週間後にどうか、と連絡があった」


 どうする? と問う王様に俺はお任せしますと返した。


 特に用事も無いしね。


「あ、でも、出発前に教会とロクサヌさんにお礼は言っておきたいなぁ」


「そうですね。近日中に会えるかお伺いを立てましょうか」


 アリアちゃんがキースとロザリーさんに先方の都合を確認するようお願いしてくれた。


 挨拶の手土産はどうしようかな。


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