86 せいれいさん
「おどれェ……! どこのシマのモンじゃああいッ!」
ピンチな俺の目の前に現れた光の玉。それは強い光を放つとアッチの人になってしまった!
背中の入れ墨を見て俺の震えは強さを増した。これは魔力切れで震えてるんじゃない。別の震えに違いない。
「せ、精霊様が! 精霊様が姿を現した!」
「あの背中にあるエンシェント昇りドラゴンの魔紋! 精霊様に違いない!」
エルフ達が一斉に騒ぎ出す。
え? 精霊? 若頭じゃなくて?
俺は真顔で震えていると若頭さんが、くるりと俺の方を向いた。
「英雄ゥ」
オールバックにしたピンク色の髪に色付きサングラス。
上半身には昇り龍の入れ墨 ※ エルフ曰くエンシェント・ドラゴン
下半身は黒いスーツ用のパンツと革靴。
どう見ても違くね? この世界の精霊さんってこんな武闘派で鉄砲玉系なの?
俺はガタガタ震えていると、若頭さんは邪悪に笑った。
「ええ魔力を持っとるのォ。ぽかぽか陽気のように心地いい。おかげで力が戻ったわ」
「は、はわわ……」
もう顔と言葉のチョイスが合ってなかった。ポカポカ陽気という単語すら専門用語に聞こえてしまう。
「根性見せてもろうたわァ。あとは任せときィッ!!」
そう言って再び完全体へと向き直る若頭さん。
彼の周囲に淡い光が殺到し、その光もまた人の形へと変化していく。
「ア、アニキ~!」
変化した光は人差し指サイズの妖精さん。小さな体に小さな羽の生えた、正真正銘の妖精さんである。
そっちは普通なんだ。アニキって呼んでるけど。
「ヤスゥ! レンコン持って来いやァ!」
若頭さんは1匹の妖精に怒鳴るように言った。
慌てて妖精さんはどこかへと飛び、何かを抱えてすぐに戻って来る。
手渡したのは野菜じゃない。黒い回転式拳銃。リボルバーである。
剣と魔法の世界に一番出てきちゃいけないヤツ。
「わしらのシマにカチコミとはのォ! 魔獣のど畜生がッ! 覚悟せぇやあああ!!」
バキュンバキューン☆
若頭さんはレンコンをレンシャした。
銃口から飛び出した謎の光は完全体がチャージしていた黒い玉に当たり、それをかき消してしまう。
「すごい! 精霊魔法だ!」
エルフの男性が興奮気味に叫ぶ。
俺は言いたい事を胸の中にグッと収め、魔法という事にしておいた。
その後、すぐさまレンコンを再び撃つ若頭さん。
4回程撃ち、全て完全体の体にヒット。巨大な体に穴を開けて血を噴き出しながら苦痛の叫びを上げる完全体。
しかし、殲滅には至らない。
もう一度若頭さんが撃とうとするが、カチッカチッと音が鳴るだけであった。
「弾切れじゃああッ!」
ほら、もう弾って言ってるじゃん。
「ヤスゥ! ポン刀持って来んかいィ!」
「へい! アニキ!」
またフワフワ~と飛んでいく妖精さん。次は長い棒を抱えて戻ってきた。
受け取った若頭さんは棒を引っ張り、中から銀色に光る刃を見せつけた。
「スピリット・ブレードだ!」
またエルフが言った。違う、本人はポン刀って言ってる。
「往生せええやあああッ!」
ポン刀を構えた若頭さんは完全体へと駆ける。レンコン弾切れからの本人が鉄砲玉になる王道コースじゃん!!
相手は再び黒いオーラを噴出しようとするがもう遅かった。
振り下ろした一刀は完全体の首をスパッと両断。頭を切り離され、地面にその巨大な体を沈める。
「すげえ……」
もうほんと。色々すごい。俺は理解が追い付いてないけど、全部放棄した。
そう呟くと、くるりと俺に向き直った若頭さんが邪悪に笑う。
「お前のおかげじゃァ。英雄ゥ」
「はわわ」
ニマァと笑う若頭さん。俺の足は生まれたての小鹿のようにガクガクと震えた。
「もう時間切れや。ポカポカ陽気の魔力、またくれよなァ」
ポン刀を肩に置きながら、若頭さんはそう言った。
ニマァと笑って、周囲にいた妖精と共に姿を消す。
どういう事だ、とその場で震えていると、エリスさんが近寄って来た。
「あの魔力水で得た魔力を使い、精霊が具現化したようだな」
「どういう事です?」
あの虹色魔力水を使うと精霊や妖精は人型になるのか? と問うと彼女は頷いた。
「精霊や妖精というのはな、女神の眷属であるが、この世界に姿を確立させている女神の使い『幻獣』よりも格が下なのだ。故に大きな力を使わねば、常時姿を見せる事はできん」
つまり、俺が木に注いだ魔力。あれを使用して姿を現し、助けてくれたという事なのだろう。
でも気になるのは具現化した外見よね? どうみてもアレだったよね? 所属は精霊組とかそんな感じっスか?
まぁ、何にせよ助かった。助けてくれなければ俺達は全滅していたかもしれないと思うとゾッとする。
「魔力が回復したら、お礼にまた注ぎます」
「うむ。その方が良いだろう」
とんでもない助っ人が現れ、一時はどうなるかと思ったが。
街を守れた事には変わりない。しっかりとお礼をしなきゃな。
俺達は魔獣討伐に喜び合ったあと、魔獣の死体を片付けてから再びルイスさんの屋敷へ戻るのであった。




