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85 エルフの街を襲う群れ


 魔力総量を一気に使った俺は族長家のトイレにお世話になっていた。


 エルフ族のトイレは木造の個室に大理石っぽいトイレだった。その場に埋め込み式であるが、街はしっかりと下水処理がなされているので水洗。


 壁に使われている木材からヒノキのような香りが鼻をくすぐる。この落ち着く香りが俺の腹を治癒してくれる気がした。


 自然と調和したトイレ、侮りがたい。


 一旦落ち着いたところでトイレを後にし、アリアちゃん達のいる応接室へ。


 調査の為に現場に残っていたエリスさんも戻っており、タピオカミルクティーを飲んでいた。


「大丈夫か?」


「ええ。浄化結界を使った時よりはマシな感じですね」


 俺の返答に頷いたエリスさんが調査報告を話し始めた。


「先ほどの虹色魔力水で妖精の木が多少回復した。全快とは言い難いが、効果は出ている」


 良かった。腹を痛めた甲斐はあったんだ。


「じゃあ、魔力が回復したらまたやりますよ」


「良いのか? その、体調が悪くなるのだろう?」


 俺がそう言うと、ルイスさんが心配そうに言った。


「魔獣が入り込んだら大変ですから。俺にやれる事は全てやりますよ」


「そうか……。すまない。滞在中は何でも申し付けてくれ」


 俺が協力を申し出ると、ルイスさんはメイドさんを一瞥して言う。控えていたメイドさんもお辞儀をして族長の意向に同意していた。


 チラリと時計を見れば、今は昼の3時を回ったところ。


「夜になったらまたやりましょう。一晩寝て、朝一にもう一度って感じで良いですかね?」


 エリスさんに提案すると、彼女は少し考えてから頷く。


「うむ。良いと思うぞ。ユウキの体調と木の回復具合を見ながら試そう」


 方針が決まったところで一旦休憩――しようとした時、屋敷の廊下を走る足音が鳴った。


 勢いよく襖が開けられ、中に飛び込んで来たのは若いエルフの男性とエリオス王国の騎士。


「族長! 街の外に魔獣が現れた! 数が多い!」


「なんだと!?」


 最悪の状況になってしまったか。そう思いながら俺達は騎士に顔を向ける。


「数は30程度ですが、増える可能性があります。更に斥候として出ていたキースさんの話では……群れの奥には完全体らしきオーラを纏う魔獣がいたと」


 完全体らしき魔獣の姿アリ。それは最悪中の最悪と言える状況だ。


「チッ! 組織の連中が絡んでいるか」


 エリスさんが舌打ちしながら言うが、その意見には同意したい。


 組織は完全体を操れると判明したのだ。今回の件も関与している可能性は非常に高いだろう。


「ユウキ」


 エリスさんは眉間に皺を寄せながら俺の名を呼ぶ。


 顔には「すまない」と書いてあった。きっと俺の腹を気にしているのだろう。


「いいえ、大丈夫です。任せて下さい」


 俺は首を振りながら立ち上がった。


「ユウキ様……」


「アリアちゃんはここで待機して欲しい。いざという時は宝玉で怪我人を治してくれ」


「はい、分かりました」


 アリアちゃんはさすがに連れていけない。待機を申し出ると同時に、怪我人を収容する場所の設営も頼む。


「街の警備隊も応援に回す。英雄よ。どうか頼む」


 ルイスさんの言葉に頷いて、俺はエリスさんと共に街の門へと向かった。



-----



 街の入場門は既に閉じられ、城壁の上には騎士とエルフ達が待機しながら外を睨む。


 城壁の上にいるのは弓を持った騎士とエルフ、同行していた魔導師がいるようだ。


「英雄様!」


 門の外ではマウロさんを始め、近接戦闘を担当する騎士が準備を行っていた。


 門から数メートル離れた場所にはバリケードが設置され、夜に備えて松明の準備も整える。


「街にはバリスタなどの防衛兵器がありませんので、近接戦闘で魔獣を街に近づけないようにしなければなりません」


 エルフの街には魔鉄道など、大量に人を別の場所に避難させる手段がない。


 街に侵入されれば厄介だ。手前で何として止めなければならない。


 マウロさんに防衛方針と状況を聞いていると、キースが傍に現れた。気配を消す能力を使っていたのだろう。


「ユウキ様。やはり、完全体が1体いるようです」


 偵察から戻ったキースは双眼鏡で見た完全体の姿を語る。


 形としては亀のような大型の魔獣。動きは遅いが甲羅にある噴出孔から黒いオーラを撒き散らしているという。


 その完全体を護衛するかのように、周りを固めている魔獣はE~Bランクと様々な種類がいるようだ。


 観察した限りではAランクは存在せず、Bランクも数体だけ。主なのはCランク程度だというのが幸いか。


「完全体が接近した際は……」


 マウロさんが俺を見た。現状、毒を無効化するには浄化結界しかない。


 聖水も多少は持って来ているが、数はあまり無い。俺がどこまで踏ん張れるか、それに掛かっていそうだ。


「無理をするな。先ほど魔力水も作っただろう。お主になにかあれば元も子も無いぞ」


 無理をするな、と言うエリスさんであるが……エルフの街を崩壊させる事は避けたい。


「見えました! もうすぐ射程圏内!」


 俺が彼女に返答する前に、城壁の上にいた騎士が叫ぶ。


「弓兵用意! 魔導師は魔法の準備を!」


 街から伸びる街道の先に目を向ければ、堂々と街道を歩く魔獣の群れが小さく映った。


「放てッ!」


 マウロさんの号令で身体強化を使った弓兵が限界まで弓を引き絞って矢を放つ。


 放たれた鋭い矢は魔獣へと殺到し、数体を屠る。だが、これを合図として先頭にいた魔獣が一気に駆けて来た。


 駆け寄って来る魔獣に向かって矢と魔法の雨が降り注ぐ。


 遠距離攻撃は効果的で近づく魔獣の半数を仕留める事が出来た。しかし、雨を抜けて来る魔獣もいる。


 それは数体いたBランクの魔獣。Cランクとは違って、能力も知能も上だ。ジグザグに走りながら巧みに攻撃を躱していた。


「抜刀!」


 遂には地上で防衛ラインとして機能する騎士達の圏内へと侵入。


 マウロさんの号令で騎士とエルフは剣を抜き、バリケードを飛び越えて来たBランク魔獣との戦闘が開始された。


「後続のCランクはバリケードで足止め出来ています!」


 次が来るまでタイムラグがある。今のうちに飛び越えてきたBランクを狩るべきだ。


 俺は魔法を使って動きを止めようとするが、


「ユウキ! 雑魚は我等に任せよ! お主は魔力を温存して完全体に備えるんだ!」


 2匹の魔獣に風属性の魔力弾を連射しながら、片手で別の魔獣へ拘束魔法を使うエリスさん。


 さすが魔導師筆頭。同時に魔法をいくつも使う。パネェ。


 といっても何もしない訳にはいかない。


 俺はキースと共に剣だけで騎士のフォローに回る。


「危ない!」


 不意打ちで襲われそうになっている騎士へ別の騎士が叫ぶ。彼は気付くのに遅れ、今にも狼型の魔獣に腕へ噛み付かれそうになっていた。


 そこへ俺が割り込む。


 剣を盾に牙を防ぎ、脇腹へ手袋を外したキースがぶん殴った。


「ユウキ様! 次は左に!」


「ああ!」


 キースは全体を見てくれて、俺に手薄な場所を教えてくれる。


 そこへ走り、割り込み、キースが攻撃を加える。なかなか息が合って良い感じだ。いや、キースが合わせてくれているのかな?


 何とかフォローを続けていると、城壁にいた騎士が叫んだ。


「完全体の動きが止まりました!」


 叫びを聞いて、俺は視線を向ける。


 確かに亀の魔獣はバリケードの前で止まっていた。巨体で動きが遅いからバリケードを突破できないとか?


 そんな甘い考えを抱いていたが……。


「ア"アアア!」


 亀が首を伸ばし、大口を開けて雄叫びを上げる。


 すると噴出孔から黒いオーラが噴き出し、甲羅の上で大きな黒い玉を作り出した。


 ゾクリと嫌な予感が俺を襲う。まさか!


「クソッ!」


 自分の感じた予感を信じ、俺は騎士達よりも前に駆ける。


 最前線で剣を地面に突き刺し、浄化結界を発動させた。


「ア"アアア!」


 再び雄叫びを上げた亀は黒い玉をバリケードに向けて発射。攻撃力の塊となった黒い玉はバリケードを吹き飛ばして、一直線に俺達へと向かって来る。


「あッ、ガッ!?」


 黒い玉を結界で受け止めた。受け止めて分かったが、やはりこれは完全体が使う毒の塊だ。


 こんな凝縮された毒を受ければひとたまりもないだろう。


「く、クソッ……!」


 更に、汚染地で戦ったワーウルフ、王都で戦った蛾の魔獣が放つモノよりも圧が強い。


 力をセーブするなど出来るはずもなく、全力で結界を使わなければ防げないと悟る。


「は、は、はぁ、はぁ……」


 ありったけの力を使い、なんとか玉を霧散させた。


 しかし、俺の目の前には再び黒い玉をチャージする亀の姿が。


「ユウキ、逃げろ!」


「ユウキ様!」


 全力で結界を使ったからか、足が動かない。剣を持つ腕は震え、その場から逃れる事など出来そうになかった。


 焦りと混乱からか、俺は「英雄が毒を受けたらどうなるんだ?」などと無駄な考えを思い浮べる。


 万事休すか。ここで俺の人生は終了か。


 負の考えが過ると――


「あれは!」


 俺の様子を見ていたエルフが叫んだ。


 ポワ、ポワ、ポワ……と俺の周りに光の玉が浮かぶ。その中には精霊と呼ばれていた強い光を放つ玉も浮かんでいた。


 強く光を放つ玉が俺の目の前に飛来し、強烈な光を発して辺りを照らした。


 俺は咄嗟に目を瞑る。光が収まったと同時に、何か気配を感じた。


 目の前に誰かいる。そう思いながら目を開けると――


「おどれェ……。どこのシマのモンじゃああいッ!!」


 目の前には背中に入れ墨を入れたヤベェ人が立っていた。


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