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83 エルフの街


 3日の準備期間を経て、俺達はエルフの森へと出発した。


 行程としては既に2日目。最近行っていた魔獣狩りのおかげか、道中で魔獣に遭遇する事はなく順調な旅路だ。


 2日も掛けて馬車移動なので普通は退屈しそうなものだが、今の俺には特に不満は無い。


 なんたって馬車の中には愛しい恋人が一緒だ。隣に座りながらお喋りをしたり、外国の写真が添付された旅行ガイドブック的な本をネタに盛り上がったり。


 時より手を握り合ったりとキャッキャウフフである。因みに今回の旅にはキースとロザリーさんも同行しているが別の馬車に乗っている。


 ロザリーさんがこの馬車に乗っていたら視線だけで射殺されてただろうな。


「2人ともよく飽きんな……」


 そんな俺達を呆れたように見るのが対面に座っているエリスさん。


「いつもいつもイチャイチャとしおって」


 私の若い頃はここまで堂々としていなかった、と言葉を漏らす。


 俺も図太くなったもんよ。彼女の身内の前でイチャイチャしてんだからな。


「うふふ。一緒にいるだけで楽しいです」


 ぎゅっと俺の手を握りながら笑うアリアちゃん。


「ね~」


「ね~」


 もう俺達はバカップル全開だった。だが、これが良い。浮かれて何が悪いんだ!


「……まぁ、良い。もう着く頃だろうしな」


 エリスさんは窓の外に視線を移す。既に外の景色は森の中に入っており、草木が生い茂る景色が映し出されてから数時間。


 彼女が「もうすぐ」と言ったように、タイミング良く馬車が停車した。


 コンコン、とドアがノックされて返事を返すと騎士がドアを開ける。


「エリス様。惑わしの入り口に到着しました」


「うむ」


 彼の言葉に誘われ、エリスさんが外に出て行った。


 俺達は一緒になって外に出て、エルフの暮らす領域に入る為の手段を見学する事に。


「エルフが暮らす街に続く道は偽装されておる。昔に色々あったからな」


 奴隷商に捕まったりと暗い歴史があったからだろう。


 通称、エルフの森と呼ばれる領域とその中心にある街へと続く道は特殊な魔法によって隠蔽されており、限られた者しか街へ辿り着く事が出来ない。


 知らない者、強引に向かおうとする者は『森に囚われる』と呼ばれる行為、所謂迷い道に誘導されて方角も分からぬ場所で延々と彷徨うそうで。


「これも久しぶりだ」


 エリスさんは首のペンダントをローブの下から引っ張りだすと、前方へ向けて差し出す。


 すると何も無い空間に鍵穴が現れた。


「はい、がっちゃんこ」


 ペンダントをスライドすると鍵が出現。それを鍵穴に差し込んで軽く捻る。


 出現した鍵穴がスッと消えて行くと、目の前にあった景色がガラリと変わった。


「すげえ! 道が現れた!」


 そう、木で埋め尽くされていた景色がボヤけると現れたは森を貫く整備された街道。


「これの道を使わんと街には行けんのだ。絶対に一人で来ようとするな。森に囚われたら最後、エルフに見つけて貰うまでは死ぬまで出れぬ」


 なにそれこわい。


 エルフさん、部外者に対して本気じゃんね。まぁ、悪党に捕まってた過去を思えば当然か。


「さて、ここまで来れば残り僅かだ。1時間もしないうちに着くだろう」


 さっさと向かおうと、エリスさんが俺達を馬車に押し込んだ。


 彼女の言う通り、出現した道を行くと街まではそう時間は掛からない。


 窓から身を乗り出して先を見れば、一際巨大な木と街の壁が見えた。


「うわ、すげえ」


 街は植物と一体化している、と言えば良いだろうか。


 街を囲む壁にはツタが絡まり、街の中には壁よりも背の高い木が多く生えているようだ。


 エリオス王国一行が街の入場門に到着すると、対応してくれたのは勿論エルフの人。


 周囲に視線を向ければエルフしかいない。人間の姿が珍しいのか、それともエリオス王国王家の紋章を掲げた馬車に乗っているからか、皆がこちらに視線を向けていた。


 スムーズに受付が終わり、遂に街の中へ。


 街の中はもっと凄かった。


 木造の家もあればレンガの家もあるが、特に目を引くのは木をくりぬいて作ったと思われる家だろう。


 ファンタジーに登場するエルフの定番。あれが現実にあった。感動だ。


 馬車が進むメインストリート沿いには細い木が生えており、その木の枝には光る花が咲く。


 アリアちゃん曰く、光る花は街灯代わりのようで夜になると街を照らすそうだ。きっと夜は幻想的な景色になるんだろう。


「そんなにエルフの街が面白いか?」


 俺の反応を見たエリスさんは笑みを浮かべながら問う。


「ええ。エリオス王都か国境の街しか見た事なかったですし。元の世界にあったファンタジー小説のようですね」


 この世界で俺が見た場所と言えば未だ2か所のみ。外国へ旅行に来た気分と言えばいいのか、普段とは違う雰囲気にワクワクしてしまう。


「ルーベンス王国にも来いと言われておっただろ。あそこも良い街だぞ」


「水の都と呼ばれていて、すごく綺麗な街並みですよ」


「行くのが楽しみですね」


 外の世界を見て周るというのも楽しそうだ。


 英雄としての仕事も大事であるが、この世界に来て楽しみの1つを見つけた気がした。


「あれ?」


 街の様子を馬車の中から見ていると、一軒の店が掲げるノボリに目がいった。


『タピオカミルクティーあります』


 なんでタピオカ……?


 進んで行く先にも同様のノボリを掲げる商店らしき店が数件。


「流行りなのか……?」


「どうしました?」


 疑問に思っているとアリアちゃんが声を掛けてきた。


 ノボリの件を問うと、


「エルフの街で流行っているのかもしれませんね。王都ではティラミスが流行っているそうですよ。今度、一緒に行きましょう」


「いいね!」


 さりげなくデートの約束を交わしていると、対面にいたエリスさんはノボリを見ながら微妙な顔を浮かべていた。


 街の景色を楽しんでいると、奥にあった大きな建物に到着して馬車が停車。


 外に出ると大きな四角い建物の前にエルフ達がずらりと並んでいた。


「ようこそ、エリオス王国ご一行。我々は君達を歓迎しよう」


 並んでいたエルフ達の中心にいた人物はどこかエリスさんに面影が似ている。


 彼女と同じ長い金髪であるが、少々目が鋭い。彼女は口角を少しだけ上げて、


「エリス。久しいな」


「うむ。姉上も変わらず元気そうだ」


 久々に再開した姉妹は握手を交わす。


 エリスさんと握手を終えると、アリアちゃんへと歩み寄って彼女の頭を撫でる。


「アリアも大きくなった」


「はい。ルイス()()()


 アリアちゃんの言葉に俺は「ん?」と一瞬だけ引っ掛かったが、正体はわからない。


 ルイスさんはひたすらアリアちゃんの頭をナデナデした後、彼女の顔が俺へと向けられた。


「貴方が英雄か?」


「はい、そうです。原平勇気と申します」


「会えて光栄だ。私はエリスの姉、ルイス。気軽にルイスお姉さんと呼べ」


「あ、ありがとうございます。ルイス……さん」


「ルイスお姉さんだ。私は老いていない。エルフであるが、まだキャピキャピだ」


 日本の巫女服みたいな服装を着て、いかにも『偉いぞ!』と主張しておきながらキャピキャピとはこれいかに。


「は、はぁ、わかりました。ルイスお姉さん」


「よし」


 やり取りが終わると、なぜか俺も頭を撫でられた。この人、謎すぎる……。


「エルフの女は年齢に敏感だ。特にエルフの街では美意識ブームが流行って長い」


 かれこれ200年は美に対するブームが続いているという。


 3代目英雄が作った小顔ローラーが街に入荷してからは小顔ブームが続いているそうで。


 100年以上欠かさず小顔ローラーを使っている女子エルフがいるという。


 エルフってすげえ。そう思った。


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