表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/113

82 魔力水


 エヴァン達が帰国してから1週間。


 充実している。元の世界にいた頃では考えられない程に充実した毎日を過ごしている。


 訓練して、恋人と食事して、お喋りして。


 3日に1度のペースで王都の外で騎士やハンター達と共に魔獣を狩る。


 また別の日はエリスさんに呼ばれて聖水を作ったり、魔剣や浄化結界などの事について考察したり。


 かなり充実していた。そう、エリスさん率いる魔導師達に魔力水の存在が知られるまでは。


「お主、とんでもない物を作りおったな」


 現在、なぜか俺は技術部で正座させれていた。目の前には腕を組みながら俺を見下ろすエリスさん。


 傍らには俺の作り出した魔力水を解析する魔導師達。


「なぜ、言わなかったのだ! いち早く教えるべきであった!」


 エリスさんが叫ぶ。地団駄を踏みながら言葉を続けた。


「こんな面白そうな物を隠しておるとは! アリアの件よりも早くに言うべきであったぞ!?」


 孫の件より研究かよォ! とツッコミたい。でも言えば話が長くなるだろう。だから止めておいた。


「もう! おばあ様! ワガママを言わないで下さい!」


 そう言ってアリアちゃんが俺の腕を引き上げた。むにゅりと潰れる胸の感覚。やばい。


「おい、ひょっとこ顔になってないで作った経緯を話さんか」


 へへぇ! と俺はひょっとこ顔のまま頷く。


「元々、魔法でおいしい水を作れないかと試行錯誤した結果なんですよね。炭酸水が作れるなら、ポーションみたいなのも作れないかなって」


 だって同じ水分じゃん。そう考えるじゃん?


「それで作れる方がおかしい」


 エリスさんは俺の作り出した炭酸ジュースを飲みながら言った。


「でも、凄いですよね。瞬時に魔力が回復する水なんて」


「それどころか、本人の総量を超えて魔力を譲渡するなんてあり得んわ!」


 つまり、俺が100の魔力を込めた魔力水を作ったとしよう。


 それを魔力総量50の人が飲むと、一時的に魔力総量が150になる。


 完全な魔力ブースト。そんな物はこの世に無く、俺が作り出した魔力水というのが世界初だそうで。


「筆頭。解析結果が出ました」


 ケインさんがレシートのような長い紙を持ってエリスさんに渡す。


 ふむふむ、と読んでいくエリスさんであるが次第に顔が険しくなっていく。


「純粋な魔力が水に浸透……」


 ブツブツと言いながら体を震わせ、終いにはレシートを床に叩きつけた。


「薬師の夢がそう簡単に作られてたまるかぁ!」


 アリアちゃん曰く、この世の薬師――ポーションを作り出す事に長けたエルフやエルフ技術を学んだ者達が完成を夢見る薬こそが『魔力水』なのだと言う。


 アカデミーで薬関係を学ぶ者達は日夜研究を重ね、人の魔力総量を増幅させるポーション作りに励んでいるとか。


「へえ~」


 そうなんだー。と俺が頷いていると、エリスさんが目を血走らせて俺の肩をガクガクと揺する。


「へえ、ではないわ! さっさと作り方を教えんか! 実践せよ! 実践!!」


「わかった! わかりましたァ!」


 という訳で実践へ。


 俺は王城で働く魔導師全員に囲まれる中、床にそこら辺にあったコップを置いてケツを向けた。


「まず大事なのはイメージ。エリスさんが言うようにイメージが大事です」


「そうだろう? そうだろう?」


 説明の途中、これ以上機嫌が悪くなられても嫌なので露骨にヨイショする事にした。


「自分の中にある魔力を水魔法に浸み込ませるイメージ。体の中に流れる魔力を感じながら、水魔法へ伝える感じでしょうか。因みに、魔力量の調整は出来てません。あくまでも感覚でやってます」


 魔力水に込める量はいつもバラバラ。例えば魔力量100の魔力水を作りたいと思っても、明確に100の魔力を込める調整は未だ出来てない。


 これに関しては集中力も必要とし、細かな魔力操作まで追いついていないのが現状だ。


「ふぅ――!」


 俺は極限までに集中し、水魔法を発動。ケツの前に魔法陣が生まれた。


 そして、コップの上に落ちる魔法陣。魔法陣からはチョロチョロ~と水が出てコップへ落ちる。


 相変わらず量の調節ができないので零れてしまった。


「ああ! 勿体無い!」


 エリスさんが慌てて別のコップを持って溢れる水を掬い取ろうとした。


「こんな感じですね」


 おおー、と感嘆の声を上げる魔導師達。


「魔法陣を移動させるのもオカシイですけど、そこは置いておいて。確かに即時回復する魔力ポーションと言うべきでしょうか」


「魔法陣の色が違いましたよね? 水魔法となると水色ですが、濃い青でした」


 各々がディスカッションや考察を始める中で、俺は輪から外れてソファーに座る。


 ふう、魔力水作りは疲れるぜ。


「お疲れ様でした」


 ニコリと笑って冷たい水を差しだしてくれるのが我が愛しき彼女。たまんねえ。


 大学時代に彼女を見せつけていたリア充共に見せつけてやりたいぜ。俺の彼女はロイヤルだぞ? ロイヤル。


「凄い汗ですよ」


 アリアちゃんがハンカチで額を拭いてくれた。


「あれ作るの凄い疲れるんだ。集中しないとダメだし」


「恐らく英雄様の魔力を直接浸透させているからでしょうね。魔力を一気に使うのと同じではないでしょうか」


 俺がそう零すと、話を聞いていたケインさんが加わった。


 一気にドカンと体から抜けるから疲労感も強い。そう考察したケインさんであったが、確かにその通りだろう。


「ぬわああ! できん! できん!」


 実践編を見てエリスさんも試したようであるが、ただの水しか作れなかったようだ。


 他の方々も試してみたが作れる人は誰もいない。


「やっぱりポーションとは異なる物なのではないでしょうか?」


「ぐぬぬ、そうか、そうかもしれぬ、だが、だが……」


 ポーションじゃないから薬師が夢見るブツじゃない。そう考えれば割り切れるかもしれない。


 しかし、エリスさんは納得できないのか下唇を噛み締めながら王族が浮かべちゃいけない顔をしていた。


「こうなったら薬師のアプローチで同じ物を作るしかなかろう……!」


 結局エリスさんの考えは正道に戻った。


「エルフの森に行く!」


 全魔導師から何言ってるんですか、みたいな雰囲気が流れた。


 しかし、エリスさんは諦めない。


「お主等は知らんだろうが、エルフの森で魔獣の出現率が上がっているそうでな。アルフォンスへ相談が来ていた」


 それって一大事じゃね?


 エルフの森で魔獣が溢れたらポーションの材料が取れないんじゃない?


 そんな事を思っていると、俺が思ってしまったからだろうか。王様が技術部へやって来た。


「エルフの森で魔獣が頻繁に姿を現すようでな。ユウキも調査隊と共に同行してくれないだろうか?」


 アリアちゃんと恋人になって以降、フレンドリーに名を呼んでくれるようになった王様。いや、お、お義父さんとよ、呼ぶべきか?


 それは置いておいて。何とタイムリーな案件か。それを聞いたエリスさんの目がキラリと光る。


「私も行くぞ!」


 普段なら止めそうな王様であるが今回は「有難い」とばかりに頷く。


「助かります。森までの道はエルフでないとダメですし。族長からもたまには里帰りしろと言われているでしょう?」


「族長?」


 族長と言えばエルフの長的な?


「母上はエリオス王家に嫁ぐ前はエルフ族の長の娘という身分でな。族長家の次女なのだ。母上の姉、長女が今の族長をしている」


 エルフという種が奴隷商人やらに捕まり、好き勝手されてしまう時代があった。


 それ故にエルフは人間や他の種族を信用しないで引き籠っていたそうだが、シティガールに憧れていたエリスさんは単身で当時のエリオス王国へ旅に出る。


 王都に到着すると悪党に騙されそうになったが、彼女を救ったのが2代目の英雄。


 彼と知り合い、将来的に夫となる当時の王様と出会った。その後、彼女はエリオス王家に嫁いでエルフと人間が信頼し合う架け橋となったそうだ。


 現在、エリオス王国がエルフの森からポーションの材料と技術提供をして貰えるのもエリスさんのおかげだと王様が説明してくれた。


「エリスさんすげえ!」


「はっはっは! もっと褒めよ!」


 俺は全力でヨイショした。


「伯母上がアリアにも会いたいと申していたが……」


「随分と会っていませんからね。私も一緒に行って良いですか?」


 言っておきながら王様は少し悩む。だが、頷いて了承した。


「伯母上にもユウキを紹介してきなさい」


 エルフの森はエリオス王国から南東。魔鉄道は通っておらず、馬車で2日の距離だそうで。


 マウロさん率いる騎士団が護衛しながら向かう事になった。


 大事なお姫様を危険な場所に連れてっても良いのか、と疑問に思ったが口にする前に王様が腕を組みながら言った。


「アリアも学園を卒業すれば公務中心の生活になる。慣れておかねばな」


 なるほど。


 次代への引継ぎも考えなきゃいけないのか。


 確かに王族となれば引き籠ってはいられず、外交的な事もしなきゃいけないのだろう。


「全力で守りますよ」


「頼む、ユウキ。君がいれば安心だ」


 任せて下さいよォ!


 俺はトン、と自分の胸を叩いて頷いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ