49 汚染地へ 村に到着と道中の推測
「では、村長。よろしくお願いします」
「ええ。お任せ下さい。騎士様、何卒よろしくお願いします」
汚染地のある山の近くにある村に到着し、そこを拠点とさせてもらえるようマウロさんが村長さんと家の中で話し合っていた。
たった今出てきて、挨拶を終えている事から交渉は上手くいったのだろう。
「村の使用許可が出た! 騎士団、速やかに準備を開始せよ!」
マウロさんが指示を出すと騎士団は決められた手順に則って拠点作りを開始。
空き家を数件借りて宿にしつつ、物資を積んでいた馬車を村の中に停車して運び込む。
同時に村を守る人員の配置などを隊長格と話し、調査組と防衛組で分けるようだ。
エリスさんが率いる魔導師隊も調査に向かう準備を進めだした。
「英雄様とエリス様はこちらの家を使って下さい」
マウロさんは俺とエリスさんに空き家2軒を使ってくれ、と指し示す。
「良いんですか? 俺はテントでも構いませんが……」
「いえ、英雄様は浄化の仕事もありますから。ゆっくり休んで頂かないと」
「聖水では対処出来ないかもしれん。そうなれば剣で浄化してもらわねばならん。浄化も魔力を使う。精神的負荷が蓄積すれば浄化できんからな」
俺が思っている以上に浄化作業は大変なのかもしれない。
2人に強く言われ、俺は素直に甘える事にした。
「皆の準備が整ったら調査へ向かうぞ」
「はい」
というわけで、みんなの準備も終わって調査開始。
編成はマウロさんを含めた騎士団2班の10人とスレイさん。エリスさんが率いる魔導師隊が2班の10人。
俺とキースを含めて23人で現地へ向かう。
山の麓までは徒歩で1時間程度。ただ、木々が生い茂っているので視界は悪いとの情報アリ。
確かに視界が悪い。背の高い木がいっぱいで、森に近い。魔獣がいつ出てきてもおかしくないだろう。
騎士団を先頭に歩いていると、隣を歩くエリスさんに汚染地について聞く事にした。
「汚染地ってどんな感じなんですか?」
「ふむ。お主はどれくらい知っておる?」
「アリアちゃんの授業で聞いた事だと、人にとっては毒沼みたいな感じで動物がそこに近づくと魔獣になる、と」
実際に見た事はないが、人が汚染地に近づくと嫌悪感のようなモノを感じると聞いた。
ただならぬ気配というか、近寄り難いというか。とにかく「よくないモノ」と強く感じるらしい。
「そうだな。大体それで合っておる。汚染地に人が踏み込むと世界喰らいの残滓に侵食される。人が侵食されると死に至る、というのが通説だ」
魔獣を生み出す原因となり、人を殺す沼。確かに浄化せねばならぬだろう。
「汚染地の大きさも、世界喰らいの肉片によってまちまちだ。昔、2代目と3代目がいた時代では直径1キロほどの大きさもある汚染地が存在した」
肉片の大きさで汚染される大きさも変わるが、エリスさんが言った巨大な汚染地は目立つ。既に2代目と3代目が浄化済みだそうな。
特別目立つ大きな汚染地は浄化済みであるが、あまり目立たない小さなモノは各地に点在しているそうだ。
特に人気の無い場所にあるものは発見が遅れてしまうとエリスさんは言う。
「魔獣研究学では汚染地の大きさを細かく分類しているが、騎士団やハンターに伝えているのは大・中・小と簡易化した情報だ。学者じゃない者に、細かく説明しても頭が追い付かんだろうからな」
まぁ、確かに簡易化した方が報告は楽だろう。
報告を受けた魔導師は報告された分類の1つ上まで想定しつつ、準備にあたるらしいが。
「汚染地には魔獣が寄り付くのだ。誘われるようにな。魔獣はそこで縄張り争いをしつつ、生き残った魔獣は汚染地の力を吸って体を徐々に変異させる。そして、完全体となるのだ」
昔は世界喰らいが直接生み出した魔獣で溢れていた。でも、それは初代英雄や2代目が駆逐した。
今残っているのは魔獣同士が繁殖し合って出来た個体。謂わば、不完全な魔獣だという。
不完全な魔獣は汚染地にある世界喰らいの力を吸い上げ、当時と同じ状態――完全なる魔獣へ変異する。
これが『完全体』へと『変異』すると言われている理由だ。
俺は話しを聞いていて、最初に浮かんだ疑問を問う事にした。
「あれ? 死んじゃうなら、キースは?」
俺の斜め前を歩くキースの背中を見つつも疑問を口にした。
前を向きながら話を聞いていたであろうキースが振り返り、
「私は汚染地を右手で触れました。触れた瞬間に激痛が走り、すぐに飛び退きました。激痛を感じる右手には汚染地に漂う黒いモヤが腕に巻き付いていて……。でも、死にはしませんでしたね」
「すぐに引けば死なずにキースのようになるという報告も受けておる。だが、死ぬ者が多いのがほとんどだ」
エリスさんも実際にあったという報告を付け加えた。
死ぬ人と死なない人。この違いは何だろう? と考えていると1つ推測が浮かぶ。
「適合か免疫……?」
「ん? なんだ?」
俺の呟きをエリスさんが拾う。
「いや、死なない人も稀にいるんですよね? キースみたいに。もしかして、キースは世界喰らいの毒に免疫か、毒に適合する体を持った人なんじゃ? だから右手が変異するだけで済んだとか?」
侵食されて死ぬならキースも死んでなきゃおかしいだろう。
逆にキースのような存在がいるのに死ぬ人が出るのもおかしい。
2つの事例があるならば、生き残ったキースの体には免疫のようなモノがあるのじゃないだろうか?
「免疫か。それは……調べてなかったな」
エリスさんは俺の話を聞いて深く頷いた。
「調べなかった?」
「うむ。魔獣憑きは忌み嫌われておる。故に隠れて暮らす者がほとんどだ。国で保護しようにも本人達が名乗りでなかった。人数も少ない。故に調べる機会が無かった、と言うべきか」
「そうですね。ほとんどはスラム街の奥で引きこもっているか、山に籠るか、じゃないでしょうか?」
昔のキースのように騎士団に見つかった存在の方が特異だそうで。
ほとんどは人気の無い場所で隠れてひっそりと暮らしているか、人気の無い場所故に魔獣に殺さてしまう。
もしくはスラム街のような場所で一生を終えるか。どちらからしい。
「しかし、盲点だったかもしれんな。免疫と適合か。これが正しければ魔獣憑きという存在の意義が変わるぞ」
なるほどな、と言葉を漏らすエリスさんはキースの顔を興味深そうに見た。
これは研究者の目だ。
「だからってキースを実験台にしないで下さいよ? エリスさん、研究の事になると突っ走るから……」
「そんな非人道的な事せんわ!」
エリスさんにケツを蹴られた。
ナイスキック。




