46 休息日:天使の膝
本日休息日。
というか、炎剣フラウロスを創造した日以降、半強制的な休暇を設けられたと言ってもいい。
ブラック企業で社畜生活が長かったからか、俺は休みを取るという行為自体を疎かにしていたようだ。
アリアちゃん、王様、キース、ジャック爺さん、副団長のマウロさん。4名による指導が入り、俺は週に1度だけ剣を振ってはいけない日が出来た。
最初は軽い感じで言われていたのだが、暇だったので訓練場で剣を振っているところをマウロさんに見つかった。
「英雄様。休む事も重要ですよ」
マウロさんにそう言われ、即アリアちゃんとキースにも報告がいった。
「ユウキ様。この世界には週に1度、必ず休まないといけない法がありまして」
と、キースに法律を説かれ、
「私が一緒にいないとダメなようですね」
ニッコリと笑ったアリアちゃんが俺に付き合ってくれる事になった。
と、いう訳で俺は休日を得たのだが。
まず、前のように1人では街に出れない。
組織に狙われている事もあって、護衛を必ず付けるようにと。主に御庭番の人が俺を影から見守ってくれているようだ。
因みにギルドまで行く際はいつも馬車通勤。
おかげでギルドの人達から、俺はどこぞの貴族のお坊ちゃんだと思われている様子。
1人で街へ出られない。護衛という監視がある。という事は――エロ本を買いに行けない。
俺は絶望した。
せっかくの異世界。異種族がいる世界に来たというのに。
俺は絶望した。もう前に見たエロ本の記憶が薄まっている。もっと目に焼き付けるべきだった。
「休日って何すれば良いの?」
俺はキースに問う。
休日って何すれば良いんだ。日本にいた時は何をしてたっけ。寝てただけじゃなかったっけ。
「日頃の疲れを癒すべきではないでしょうか? 訓練といえど、精神的な疲労は蓄積されるでしょう」
「異世界に来ても俺は寝て過ごすのか……」
なんて事だ。何も変わってねえ。
「ユウキ様、城の中庭へ行きましょう」
絶望している俺に提案をしてきたのはアリアちゃんだった。
向かう途中で別の仕事があるというキースと別れ、アリアちゃんと共に城の中庭へ。
「天国、再び」
俺はそこでアリアちゃんに膝枕してもらった。
中庭には既にレジャーシートみたいな物が敷かれ、アリアちゃんはそこに座ると膝を叩きながら「どうぞ」と言ったからだ。
経緯なんてどうでも良い。もうエロ本なんてどうでもいい。
「ふふ。疲れは癒されますか?」
膝の上に乗った俺の頭を優しく撫でる天使様。天国だ。ここは天国である。
「……チッ!」
「う、うん」
たった一つ、傍に控えるロザリーさんが鬼の形相で俺を見ている事を除けば。
「いつも頑張ってますからね。今日はゆっくりして下さいね」
そう言って、膝の上にある俺の頭を撫でる彼女。
アリアちゃん、君はママだったのか。
このままじゃ俺の中にある何かが目覚めそうだ。
危険を感じた俺は話題を変えつつも、上体を起こした。
「そういえば、魔獣憑きの件だけど……」
「ん? 魔獣憑きの件ですか?」
「うん。どうすれば良いかなって。俺はあまり気にしないけど、この世界の人達はよく思ってないんだよね?」
「そうですね……。残念ですが、この国でも差別の対象になっています。私達もどうにかしようと思っていますが……」
俺は確認するように現状を問う。
魔獣という脅威が跋扈する世界で、魔獣と同じような力や体の一部が変化してしまう事は脅威である魔獣を連想させてしまうのだろう。
問題は見た目なのだろうか。変化する部分を治せば収まるのだろうか。
「一度、お父様が国で保護しようとした事があるんです。国内で呼びかけたのですが、誰一人来ませんでした」
「来なかった?」
「はい。領地を任せている貴族や文官に保護するよう任せたのですが、誰一人として名乗りを挙げず、保護しようとしても逃げてしまった、と。今思えば、キースのような扱いを受けていて彼らは他人を信じていないのかもしれません」
キースも昔は魔獣の囮として使われていたと聞いた。
魔獣憑きなんぞ死んでも良いと他人から思われる。酷い話だ。彼も「自分は運が良かった」と言っていた。
世界にいる魔獣憑きの人達が、キースと同じ境遇だったとしたら……確かに他人を信用しようとは思わないだろう。
「うーん……。例えば魔獣憑きの人達を保護して、英雄の元で働いてもらうってどう?」
「ユウキ様の元で?」
「うん。キースも魔獣憑きだけど、俺の執事になったよね。でも、城で迫害を受けているって報告は聞いてない。それって城にいる人達が、何かあれば俺が責任を取るって思ってるんじゃない?」
キースは魔獣憑きだ。最初に城へ連れて来た時に変化した体の一部を目撃した人も多い。
だが、今は迫害を受けていない。手袋で力を抑えているおかげもあるかもしれないが、他のメイドさんや執事の人と普通に話している姿もよく見る。
「責任?」
「そう。もしも何かあれば俺のせい。もしもキースが暴走したら魔剣で倒せる。そう思ってる人は多いんじゃない?」
見た目が変化していないという事もあるかもしれないが、キースを管理しているのは英雄である俺だという安心感もあるのではないだろうか。
魔獣に対抗する手段で最大の効果を発揮するのは英雄の力。英雄の剣は魔獣に対して絶大な効果を与える。英雄が作る聖水もそうだ。
俺の自惚れでなければだが、最終手段にして最大の攻撃手段が近くにあるというのは安心感に繋がっているのでは? と俺は考えた。
この安心感というヤツは、俺が強くなれば強くなるほど増していくだろう。強くなり、魔獣を駆除すれば信用度も増していく。
そうすれば英雄としての信頼もドン。あの英雄が傍にいるなら……と思ってくれる。と、いいな。
まだ弱っちいから願望だけどね。
「確かにそう思っている者は多いでしょう」
俺の言葉を肯定したのは控えていたロザリーさんだった。
「彼は魔導具で見た目は我々と変わりません。礼儀正しくよく働いています。ですが、潜在的には魔獣憑きであると思っている者が多いはずです。それでも異を唱えないのは英雄様と王族の方々が彼を保護したという事実を知っているからでしょう」
最終的に責任を取るのは誰なのか。
最悪の事態になった時に騒動を治めるのは誰なのか。真っ先に対処すべき者が誰なのか。
「もし、彼が暴れれば王族が指揮を執り、英雄様が魔剣で事を収める。それを皆、理解しているのですよ」
それが明確化され、目に見えているから「もし」が起きても行動が予測できる。それは一般人にとって大きな安心感となるのではないか。
「責任の追及先を知っていて、自分達は範囲外というのもあるのでしょうけどね」
悪い言い方をすればロザリーさんの言う通りだ。
何があっても自分達に非は無い。それも一種の安心感と言えるのではないだろうか。
「そうそう。魔導具で見た目は抑えられるんだもの。最終的には責任を誰が持つかってなると思うんだよね。だから、キースのように俺が雇用主になれば少しは良くなるかなって」
歴代英雄が積み上げた信頼と実績。そして安心感。なんたって英雄は正義の象徴だ。他人に嫌悪感を抱く魔獣憑きの人達も英雄なら信用してくれるかもしれない。
これが考えた末に出した結論だった。
「魔獣憑きの人がキースのように善良とは限りませんよ?」
上からアリアちゃんが言葉を漏らした。俺は体を起こし、アリアちゃんの顔を見る。
「そうだったとしても、善良じゃなくなった理由があるはず。魔獣憑きの人達に限らずね。まずは話を聞いて、判断すべきかなって思うよ」
キースだってナリンキーや組織に加担していたが、理由があった。
何らかの事情があるかもしれない。それを判断するのが人と法律だろう。俺はそう思う。
「……貴方は、優しいですね」
「ん?」
アリアちゃんが顔を伏せがちに小声で何かを言ったが聞き取れない。
首を傾げていると、彼女は顔を上げて笑顔を浮かべた。
「任せて下さい。私も協力しますからね! 最善の手を探しましょう!」
「ありがとう」
彼女は笑顔で言いながら、俺の手を取った。
やわらけえ。やわらけえ。天使様のおてて、やわらけえ。
「でも! まずは休む事です! 働きすぎはよくありません! さぁ、さぁ!」
「お、おう?」
俺は再びアリアちゃんの膝へと誘われてしまった。
「……チッ!!」




