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42 ギルドへ


 午前中の訓練を終えて、ジャックは副団長の執務室を訪れると副団長マウロに要件を伝えた。


「マウロ。午後の訓練は任せるぞ」


 有事に備えて騎士団の育成に注力するジャックが訓練の指揮を任せるというのは珍しい事だ。


 マウロが副団長に就任してから一度も無かった事である。


「それはよろしいですが、どうなさったのですか?」


 部下であれば、上司の命令に頷くのが最善だろう。だが、マウロは好奇心が勝った。


「英雄殿と共にハンターギルドへ行って来る」


 この答えは予想していなかった。マウロの頭には再び疑問符が浮かぶ。


 訳が分からんといった感想が顔に出ているマウロにジャックは小さく笑うと、


「英雄殿に別の視点を教えようと思ってな。あそこならば騎士とは違う猛者がいくらでもいよう」


「はぁ……。確かにハンターギルドなら騎士とは違う強さを持った者もおりましょう。ですが、荒くれ者揃いですよ? そんな場所に英雄様を?」


「うむ。品の良い戦い方以外も見せねばな。……魔獣との戦いも、人との戦いも、綺麗な戦いだけとは言えぬだろう?」


 ジャックの言葉にマウロはピンときた。


 御庭番からの報告書に『英雄が人との戦いで躊躇いを見せた』という部分だ。


 英雄は平和な世界からやって来たと聞く。


 この世界は人の命が軽い。


 エリオス国内でも盗賊、山賊に堕ちる者もいれば、国が変われば隠れて禁止されている極悪非道な奴隷商すらも未だ行う者がいる世界だ。


 この世界は魔獣による被害が多い。だが、それらに隠れて悪を働く者もいるのが現実。綺麗な世界では決してない。


 対し、それらに対抗するのが騎士団の使命であるが、魔獣狩りで金銭を稼ぐフットワークの軽いハンターも悪党と対峙する。


 むしろ、対人戦の頻度で言えばハンターの方が多いかもしれない。


 ハンターが狩った魔獣の素材を掠め盗ろうと狙う悪党も多いからだ。ハンターを捕まえて外国に売ろうとする者もいるくらいだ。


 まぁ、ハンターの場合はそれらを捕まえればギルドからボーナスが出るのだが。


 このボーナスが出るというのが今回、ジャックがユウキをギルドへ連れて行くと決めた要だろう。


 つまり、ハンターの中には人間相手を無力化、もしくは殺す方法をよく知る者が多い。


 平和な世界からやって来て、人との戦闘など知らない英雄にとって教えるのは適任と言えよう。


「騎士団はあまり狙われんからな。特に大きな組織の標的にされるなど稀だ」


 対し、この世界で騎士団を狙う悪党などほとんどいない。なぜなら騎士団のバックは国だから。


 団員が殺されれば国が動く。


 悪党を捕まえても騎士団にはボーナスなど存在しない。


 という事は、騎士団は仲間が狙われれば全力で潰しに掛かる。騎士団を動かす国もメンツがあるので容赦しない。


 それに、エリオス騎士団の剣は突き詰めると『殺しの剣』である。


 エリオス剣術を開発した2代目英雄は剣の達人であったが、当時の時代背景もあって『魔獣からも人からも負けぬ剣を』と力でねじ伏せる剣を開発したという経緯もある。


 エリオス剣術。それは国を守る為、主である王を守る為。害を成す者を全て払う、躊躇い無き剣だと言えよう。


「まぁ、確かにハンターは騎士団とは違いますが……。彼らの戦い方を見せるのですか?」


「見せるだけではない。体験させる」


 英雄の育成に熱を入れるジャックからとは思えぬ発言にマウロは少々驚いた。


「……良いのですか? 陛下のご許可は?」


「もう既に取った」


「…………」


 行動力には感服するが、それよりも不安の方が大きい。


「見せて、体験させて、どう考えるのか。それに、投げ出すとは思えぬ」


 ジャックは今まで見て来た英雄の姿勢を思い出す。


 召喚されてまだ数か月。だというのに、何度も危機に陥って来た。


 しかし、どれも跳ね返し、何度も立ち向かったではないか。


 この世界で英雄をしていく以上、ずっと付き纏うであろう根本的な問題に対しても、きっと抗うはずだと信じていた。


「訓練は任せるぞ」


「……わかりました」


 ジャックはもう一度、要件を伝えてその場を後にした。



-----



 午後になったらジャック爺さんと共にハンターギルドへと赴いた。

 

 ハンターギルドは王都東区の大通り沿い。


 大きさ的には2階建ての建物だが、大きな看板が設置されている事もあって大きく見えてしまう。


「さぁ、行きましょう」


 建物の前で看板を見上げていた俺に声を掛けて、爺さんは入り口のスイングドアへと歩いて行く。


 俺はいつもの訓練用に装着している革の胸当て。対し、ジャック爺さんは騎士団の制服。


 爺さんが随分と目立つ。大通りを行く人々もジャック爺さんの姿を見て「何かあるのか?」と言いたげな表情を浮かべていた。


 ギィ、と音を立てて中に入れば、注目度はもっと増える。


 建物の中に入ると真っ先に目が行くのが、事務所のような場所。カウンターがあって、その向こう側にはギルドの制服を着た女性が2名ほど並ぶ。


 そして、顔を横に向ければ長椅子やらテーブルやらが並んだ待機所のような場所。


(酒場が併設されている訳じゃないのか)


 少々意外だったのが、ギルドと酒場が併設されている定番な作りじゃないようだ。


 待機所は待機所として、屈強な男女が椅子に座っているだけだった。


 ともあれ、ギルド内にいたハンター達は勿論の事、ギルドの受付嬢らしきお姉ちゃん達もカウンター越しに視線を向ける。


「おい。ありゃ、騎士団長だ」


「炎剣のジャックか。なんでギルドに?」


「この前の事件絡みじゃねえか?」


 視線を向けつつも、ヒソヒソと呟かれる話声。声の主はどれもハンター達な様子。


 数メートル先にいる受付嬢のお姉ちゃん達は、入って来たのがジャック爺さんと解るなり緊張した顔でピンと背筋を伸ばしていた。


 見ただけでわかる受付嬢の緊張感。見ているだけで腹が痛くなりそうだ。


 だが、彼女達の緊張は無駄になる。


「ジャック、来たか」


 カウンターの奥からやって来たのは、これまた爺さんに負けず劣らず筋肉ムキムキの厳つい老人。


 見た目的には爺さんと同い年くらいだろうか。白髪交じりの短髪とカイゼル髭がチャームポイント。


 でも、あの丸太のような腕でぶん殴られたらワンパンされる。見える範囲だけでも体中傷だらけだし、ヤバイ。 


「ガウル。忙しいところ、すまんな」


「構わん。して、そちらが」


 爺さんにガウルと呼ばれた老人は鋭い目つきで俺を見た。


「そうだ。英雄殿、こちらはハンターギルド王都本部のギルド長であるガウルです」


「よろしくお願いします、英雄様」


「ど、どうも、原平 ユウキです……」 


 俺が英雄だという事はまだ秘密。故にコソコソと小声で自己紹介。


 ズイっと厳つい顔を寄せられた。めっちゃこええ。


「ガウル、準備は?」


「出来ているぞ。こっちだ」


 自己紹介を終えると、ガウルさんが俺達をギルドの奥へと案内した。


 連れて行かれたのはギルド裏にあった訓練場。


 真ん中の訓練場をぐるっと囲む背の低い壁があり、全体像からすれば小さな格闘場のような作りだった。


 いや、格闘場というよりも闘牛と戦う場所に似ているだろうか。


「お、来たね」


 訓練場に行くと、中央には女性が一人。


 ビキニアーマーを着た女性だ。ただし『ザ・アマゾネス』といった感じで筋肉モリモリの女性である。


 爺さん達に負けないくらい、ボディビルダーみたいな人。やばい。ビキニアーマー着てるのにエロさなんて全く無い。


「この子がそうなのかい?」


 ズイッと再び顔を寄せられる俺。溢れ出るアマゾネス感にチビりそう。


「スレイ、無礼だぞ」


 俺の顔を覗き込むアマゾネスな姉御に地を這うような低い声を出すガウルさん。


「あ、いえ、お気にせず……」


 俺はビビりまくっていた。


 爺さん、助けて。


「私はスレイ。あんたの教官だ」


 教官? なんぞそれ? と爺さんに顔を向けると、


「英雄殿。ハンターの戦い方は騎士とは違います。魔獣も相手すれば()とも戦う。騎士訓練だけでは見えぬ事も見えましょう。学べる事も多いはずです」


 そう言った。目がマジだった。


「じゃ、自力を見せてもらおうか」


 俺は姉御に腕を引かれ、有無を言わさずアマゾネスな姉御と戦う事になった。


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