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20 魔法技術部


 午前中の訓練が終わり、アリアちゃんとの昼食という至高のひと時を堪能した俺は城の廊下を歩いていた。


 目指すは城の2階東側にある宮廷魔導師達がいる『魔法技術部』と呼ばれている場所だ。


 目的は2つ。


 1つは戦闘中に使う魔法のアドバイスを貰うため。


 俺はケツから魔法が出るが、対峙している相手にケツを向けて撃つには隙がありすぎる。むしろ、隙しかない。


 よって、何か打開策を聞こうという訳だ。


 ケツからホーミング弾みたいなの出せる魔法があれば便利だな、と思っているが果たしてあるだろうか。


 2つ目は英雄としての仕事。


 英雄は強力な魔獣を駆除し、平和を守るのも勿論の事であるが、ただひたすらに出現した魔獣を駆除するだけじゃない。


 魔獣が生まれる素となる『世界喰らいの肉片』は大陸中にまだ散らばっている。


 世界喰らいの肉片は大地に溶け、汚染地を作る。その汚染された地に踏み込んだ動物が世界喰らいの力に侵されて魔獣に変化するといった具合で魔獣が生まれる。


 これは初代英雄が世界喰らいを倒した直後では、判明していなかった事実である。


 世界喰らいが初代英雄に倒され、残っていた魔獣も討伐した……と当時の人々はそう思っていた。安心しきっていた。


 だが、侵食されて魔獣となった動物は動物の生存本能も兼ね備えていて繁殖行為を行った。繁殖を行えばもちろん、数が増える。


 過去の討伐戦を逃れた魔獣は人のいない森の奥やら山奥やらで繁殖を続け、気付けば爆発的に増えてしまっていたというのが今の現状。


 魔獣が繁殖するという事実に加えて、未だ大陸に散らばっている肉片の存在が魔獣を生む汚染地となるという事実が分かったのは初代英雄が死んだ後の事。


 この2つの事実が魔獣を生み出して終わりが見えていない状況だ。だからこそ、英雄召喚という儀式が続いている。


 という訳で、英雄の仕事は魔獣を討伐する事。それと世界喰らいの肉片を浄化するというのも英雄の勤め。 


 俺の2代前までは大陸にいる魔獣を倒し、肉片や汚染地を見つけたら英雄が現場に赴いて聖剣で浄化をするというのが一連のプロセスであった。


 だが、現代では魔法技術が進んで聖剣を特殊な溶液に漬け置きして『聖水』を作る技術を確立する事に成功。


 小さな肉片とまだ範囲が狭い汚染地であれば、英雄が直接赴かなくとも聖水で浄化できるようになったという。


 もちろん、聖水じゃ浄化できない物は英雄が現場に出向かなければならないのだが。


 まだ訓練を繰り返して身体能力の向上を図る俺は魔獣討伐へ自発的に行う力は無い。


 だが、この聖水を作る手伝いはできる。

 

 というか、俺が手伝うしかない。出来る事があるというのは素晴らしい。喜んで手伝いたい。


 数日前に聖水のストックが心許なくなってきたので製作を手伝ってほしいとも言われていたし、ついでにアドバイスも受けようという訳だ。


 時より廊下を歩いている執事さんやメイドさんに魔法技術部への道を聞きつつ、遂に目的地へ到達。


 ドアの前にはしっかりと『魔法技術部』と書かれたプレートが付けられていた。


 ノックして反応を待つと、


「はい」


 ガチャリとドアが開いた先には眼鏡を掛けた女性が一人。彼女は俺の顔を見るなり頭を下げた。 


「英雄様、ようこそ起こし下さいました」


「あ、どうも。聖水を作る手伝いをしに来ました」


 そう言いながら俺もペコリと頭を下げる。


「はい。聞き及んでおります。どうぞ、中へ」


 室内に入るとドアの近くに執務机が置かれ、奥へと続く扉が1枚。まるで貸しオフィスの受付みたいだ。


 不思議そうにしていると、女性は表情を崩さずに口を開いた。


「秘匿する情報が多いので。中に入るには受付の案内が無ければ立ち入れないようになっているんです」


 俺はなるほど、と頷いた。


 魔法技術は国ごとに秘匿している技術がある。エリオスならばポーションの精製技術がそれにあたるだろう。


 外部に漏れないよう、しっかりと管理されているようだ。


 この先に何があるのか。俺はゴクリと喉を鳴らし、少し緊張する。

 

「奥に責任者がおりますので」


 眼鏡の女性に導かれ、ドアの先へ行くと広い部屋があった。


 赤い絨毯が床に敷かれ、端っこには簡易的な給湯設備。中央には応接用らしき机と椅子。何とも殺風景である。


「こちらは応接室です。秘匿技術が多いので」


 なるほど、厳重だ。本命に近づく為にワンクッションどころかツークッションも置くのか。 


 それだけ価値がある物が多いのだろう。緊張感が無駄に長い。


 俺は目線だけでトイレという文字を探った。


 眼鏡の女性はそれに気づく事なく、部屋の右側にあったドアへ近づいてノックする。


「筆頭。英雄様が来られました」


「入るがよい」


 ノックし、声をかけると中から聞こえたのはまたしても女性の声。


 眼鏡の女性がドアを開け、どうぞと中へ入るよう手で示した。


 俺が緊張しながら中へ入ると、そこには声の通り女性が1人。


「よく来た。英雄よ」


 声の主はとびきりの美女だ。


 もうマジで美女としか言いようがない。


 窓から差し込む陽の光を受けてキラキラ光る長い金髪。宝石のような青い瞳。そして、長い髪からちょこんと出る長い耳。


 そう、声の主は美人なエルフさんであった。


 彼女は座っていたのであろうソファーの前に立ち、ナイトドレスのようなドチャクソエロい服装で俺を出迎えた。


 なんという事だ。組まれた腕の上に胸が乗ってやがる。しかもスケスケだ。胸の大半もヘソもスケスケだ。


 あまりのエロさにケツの中身をぶちまけそうになった。


「ユウキといいます。聖水を作る手伝いに来ました」


 俺がガン見したい気持ちを抑え、ケツに力を入れながらペコリと頭を下げる。


 2秒程度頭を下げ、再び顔を上げるとエルフさんは驚くような表情を浮かべて俺を見ているではないか。


「ふむ。なるほど。聞いていた通り、礼儀のなった若者のようだな」


 小さな声でそう呟いた。


 もしや煽情的な恰好を見せ、俺がハーレムを形成できるようなイケメンだと勘違いしていないか試したのだろうか。 


 危ない。


 最近はアリアちゃんが好意的に接してくれるから勘違いしそうになっていたが、毎日寝る前に戒めておいて正解だったようだ。


 背中に冷たいモノが流れるのを感じていると、彼女はソファーにかけてあったローブを羽織る。


「私が魔法技術部の長であり、宮廷魔導師筆頭。エリスだ。よろしく頼むぞ、ユウキ」


 ローブを羽織ったエリスさんはまるで魔女のようだ。トンガリ帽子を被ったら完璧だな。


 差し出された手を握り、握手をして挨拶を終える。


「さて、聖水を作る手伝いだが……英雄の剣をこの鍋に漬けておけばよい」


 エリスさんは部屋の隅にあった大きな鍋――魔女が「ヒヒヒ」と言いながらかき混ぜているイメージにぴったりな大鍋を指差した。


 大鍋の脇には大量の本が積み重なり、よくよく部屋の中を見れば本やら書類やら服やらが散乱している汚部屋である。


 鍋の反対側には本棚がびっちりと並び、なぜかブラジャーが本棚から飛び出していたりと、とんでもねえ有様だ。


「分かりました」


 と、汚部屋の状況は置いておいて。


 まずは剣を出さねばなるまい。


 俺は足をガニ股で開き、ケツに力を込めた。


「フンッ!」


 ズズズ、とケツの前に浮かんだ魔法陣から飛び出す剣の柄。


 俺はそれを掴むと少々前に歩き、次は掌で剣の刃を挟みながらスッスッとスライドさせるように剣を取り出していく。


 これは1人でケツから剣を取り出すべく、最近編み出した技だ。


「本当にケツから剣を出しおった。不思議だのう……」


 ほんと、不思議ですよね。


 夢の中で女神に会って問いただしたけど、設定ミスとか言われたんスよ。


「しかし、今代の聖剣は白ではなく黒なのか」


 やっぱり引っ掛かりますよね。俺は素直に白状した。


「実は俺の剣は聖剣じゃなく魔剣らしくて……」


「ふむ。魔剣……か。ケツから出るからか?」


 はい。その通りです、と言う前にエリスさんが大鍋を指差した。


「まぁ、試してみればよい。その鍋に入れてみよ。さ、はよう試すぞ!」


 俺が全てを白状する前に背中を押されて急かされてしまう。


 大鍋の前に立ち、中を覗けば真っ青な液体が満ちていた。


「その中に剣を入れ、色が白になれば完成だ。大体、1時間くらいは漬けておかねばならぬ」


「わかりました。入れますね」


 俺はゆっくりと剣を鍋に沈める。刃の先が鍋の底に当たったのを確認し、持ち手を鍋のフチに立て掛けた。


「あとは1時間待つだけだ。剣を回収せねばならんからな。終わるまで私が話し相手になってやろう」


 それは有難い。俺はここぞとばかりに戦闘魔法の件でアドバイスをして欲しいと願った。


「ふむ。戦闘に使う魔法か」


「ええ。その、魔法も尻から出るんですよ」


「なるほど。相手にケツを向けては狙いが定まらんな」


 なるほど、と頷くエリスさん。話が早くて助かるぜ!


「いくつか見繕っても良いが、まずはお主の魔力総量はいくつだ? それが分からぬと何とも言えんよ」


 確かにそうだ。総量で扱える魔法のボーダーラインが決まる。総量が極端に低いのに中級魔法を使おうとすると、最悪ぶっ倒れるらしいので注意が必要だ。


 だが、ふと思い出す。


 俺はこの世界に来てから総量を測った事が無いんじゃ?


 まずは体力作りをして基礎能力を上げてから、身体能力強化の魔法に取りかかろうという計画で、その時に測りましょう、となっていたような……。


 初級なら使っても平気、と言われていたが土鎧マン魔法は初級魔法だったのだろうか。


 そう思い返すと途端に怖くなってきた。

 

 とにかく、総量を測った事が無いと正直に告げる。


「そうであったか。では、今から計測しよう。ケイン! ケインはおるか! 総量計測器を持って来てくれ!」


 エリスさんは部屋のドアを開けて、ケインと名を叫ぶ。


 奥から「わかりましたー!」と声が聞こえ、しばらくしてやって来たのは俺に初めて魔法を教えてくれたケーブの男性。


 そういえば、彼の名はケインだったなと思っていると、ケインさんはにこやかに挨拶してくれた。


「筆頭。持ってきましたよ」


「うむ。では、計測を始めるぞ」


 こうしてドキドキ魔法総量計測タイムの準備が整った。 


 だが、これが悲しき事件の始まりだったのだ……。


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