13 夢か天国か
「英雄殿! クソッ!」
騎士団長ジャックは必死になって己の腕を動かした。
強化魔法を施されたクリムゾンベアーをこれだけの被害で倒せたのは、目の前で地面と一体化する英雄がいてくれたからだ。
己の足が攻撃の圧で壊れようと、腕が壊れようと、素晴らしいアイディアで魔法を駆使して耐えきった英雄。
彼を正直に評するならば、英雄としても戦士としても半人前。剣術もまだまだ、魔法も初級しか使えない。命を奪う、という行為すらも今日体験したばかり。
だというのに。だというのに、この若者は耐えてみせた。
既に精魂尽き果て、全身に巡る痛みで気絶している英雄を救うべく、ジャックは必死に彼の体に纏う土を剥がしていく。
「死なせはせぬ!」
年老いた自分が死ぬならばまだしも、こんなにも輝かしい若者を殺してなるものか。
この青年は必ず世界を救う。初代英雄に引けを取らぬ、偉大な英雄になるはずだという確信がジャックの心の中に芽生えていた。
ようやく土を剥がし終えると、気絶したユウキは前のめりになって倒れそうになるがジャックが受け止める。
一目見ただけで酷い有様だ。
足の骨は折れ、折れた骨が肉から飛び出して大量の血が噴き出している。
腕も土の鎧が無くなると曲がらない方向へ曲がっていた。腕は激しく内出血しているのか、既に皮膚は紫色に染まっていた。
こんな状態でよくぞ耐えたと称賛したい。
だが、それよりも早く処置しなければ彼は死んでしまうだろう。
「誰か! ポーションを! 馬車の中にあったポーションを取ってくれ!」
ジャックはユウキの体を支え、地面に寝かせながら叫ぶ。
腰を抜かしていた新米の騎士達が吹き飛ばされた2台の馬車へ駆け寄り、荷台の中や地面に散乱した荷物を漁るが――
「だ、団長……。ポ、ポーションが……」
新米の騎士が見つけたポーションの瓶を見せる。
「クソッ!!」
吹き飛ばされた影響で荷台に積んであったポーションの瓶は破損。中身が全て漏れ出てしまっていた。
「ユウキ様! ユウキ様!」
駆け寄ってきたアリアはユウキのボロボロな体に縋りつく。
瞳には涙を溜め、お願い、お願い、と何度も呟いた。
彼女の瞳から零れた涙がユウキの頬に落ちる。
すると――パァァァと彼の尻が強く輝いたではないか。
「な、何事だ!?」
突如、人のケツが発光すれば騎士団長だって驚くだろう。
しかし、ただホタルゴッコのように発光しただけじゃない。これは奇跡だ。
ユウキの尻からプリッと一つの物体が生まれ、ユウキの尻が少々浮いた。
決して漏れたのではない。
生まれたのだ。他者と絆を結び、武器を創造する。英雄としての能力の発現。
「こ、これは……」
アリアがユウキの尻の下にある虹色の水晶玉が嵌め込まれた物体を手にすると、彼女の脳裏に電流が走る。
「これは、魔導具……!」
英雄のケツから生まれたるはアリア専用の魔導具。一般的には魔水晶と呼ばれるタイプにカテゴライズされる魔導具だ。
生み出された魔水晶の銘は『癒しの宝玉・ブエル』
これを使えば、この世界でも使い手が限られていると言われる治癒魔法が使える、とアリアの脳裏に過る。
「ユウキ様……! 貴方は、貴方は私が……!」
彼女は涙を拭い、癒しの宝玉を両手で持ってユウキの体の上に乗せながら祈る。
すると水晶から漏れ出た虹色の光がユウキの体を包み込み、折れていた手足が逆再生のようにどんどんと治っていくではないか。
「おお……!」
「き、奇跡! 奇跡だ!」
見守っていた新米騎士達は驚愕と安堵の声を上げる。
やがて光が収まるとユウキの体は元通りに回復していた。
「これで大丈夫……なはずです。傷ついた騎士も癒しましょう」
「ええ。姫様、お任せ致しますぞ!」
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俺は夢を見ていた。
なぜ、夢だと分かるのかって?
だって目の前には絶世の美女と確実に言い切れる女の人が立っていたからだ。
白い僧衣みたいなのを着て、胸なんてはちきれんばかりにでかい。そう、俺は巨乳好きだ。今まで隠していたがな。
だが、夢の中にこんな美女が登場するとは。ついに俺は夢の中でも童貞をこじらせたのだろうか?
『英雄よ。世界を救うのです……』
絶世の美女は厳かな雰囲気を醸し出しながらそう言った。めっちゃ後光が光ってる。すごい。神秘感パない。
でもさぁ。世界を救えって言われてもさぁ。俺ってケツから魔法出るんだよ? おかしくない?
『それは眷属が設定をミスったからです……』
おい、待て、どういう事だ。
俺は夢だと分かっていながらも夢の中に出て来た美女に問いかけた。
いや、問いかけざるを得ない。なんだ設定ミスって。どうミスったらケツから剣と魔法が出るんだよ!
『世界を救うのです。彼の友である貴方は、彼が選んだ貴方であるならば、この先に訪れる危機から世界を救えるでしょう……』
待てやボケェェ!
先に何でケツから出るのか詳細を話せやァァァ!!
可能ならば普通にしてくれェェェ!!
『それは……もう無理です……。英雄よ、世界を頼みます……』
無理って……。諦めんなよォ!!
頼むよ! 諦めんな! ケツから出るって英雄というか、存在そのものがもうギャグじゃん!!
しかし、俺の必死の叫び空しく『たのみます、たのみます、たのみます』とエコーさせながら美女は去って行った。
待って! 待ってよぉぉぉ!!
「……ハッ!?」
「ユウキ様!? 目が覚めたのですね!?」
夢の世界から現実に舞い戻ったらしい俺の目の前には大天使アリアちゃんの顔面ドアップが。
なんてことだ。美しい。顔の半分が乳で見えていない。
俺は起き上がろうと体を動かすが、頭に柔らかな感触を感じた。
「ダメです。体が癒えたとはいえ、まだこのままで」
俺が感じた柔らかな感触はなんとアリアちゃんの手だった。彼女が俺の頭を優しく抑え、柔らかなクッションに着地させる。
待てよ、と視線を巡らせれば俺はアリアちゃんに膝枕されている状態じゃないか。
しかもアリアちゃんに膝枕してもらった場合は大きなお胸によって彼女のお顔が半分しか見えない。
すごい、これは新発見だ。
俺は膝枕界のコロンブスだ。
「なるほどな」
「うん?」
「ここがマジの天国か」
大天使アリア様のお膝に寝かされ、頭を優しく撫でられる。
これが天国でなければ何なのか。
「ふふ。ユウキ様ったら大げさです」
デュフフ。アリアちゃんの笑顔、可愛い。半分しか見えてないけど。デュフフ。
俺の顔はきっと気持ち悪い程の歪みを見せているだろう。だが、無理だ。耐えられない。
一生に一度あるか無いかの異性による膝枕イベント。ここで堪能しなきゃ男が廃るってもんよ。
「顔キモ……」
濡れたタオルを持って来てくれたロザリーさんが、俺の顔を拭きながら俺にしか聞こえないであろうボリュームで呟いた。
わかってるから。本当に言うのはやめて。




