第十二話:「少しだけ、過去のことをお話しましょう」
蒼疾「作者も以前、脈絡のない文章だといわれたことがありますが………」伊万里「そうなんですか?」蒼疾「ええ、ちなみに、今だって脈絡のない文章のままなんですよ」伊万里「先生、脈絡の意味わかって使ってます?」蒼疾「さぁ?」伊万里「………」
第十二話
「先生、前回言っていた先生みたいに命の危険にさらされるって先生に何があったんですか?」
場所はいつもの教室……足利伊万里がHRが終わる手前に手を上げて発言したのである。
「あいかわらずそういったことは聞き逃さない性格なんですね?」
「まぁ、わからないところがあったら気持ち悪いですから」
ひとつため息をついて蒼疾はクラス中をじろーっと見ていた。
「……では、せっかく民主主義の国ですので多数決で決めましょう」
「多数決?」
首をかしげる篠原岬に蒼疾はまたひとつため息をついた。
「…この話を採用するか、否かで決めたいと思います。ああ、もちろん私はあげる前から否のほうに票を投じておきますから……くだらない話を聞きたい人は手を挙げてください」
クラス全員が手を上げていた。
「……賛成一致ですよ?」
勝ち誇ったかのように篠原岬が手を上げて発言。
「……はぁ、あなたがたはなんて暇人なんでしょうか?先生が嘆いてしまいそうです」
「後で存分に嘆いてください、私でよければ慰めてあげますよ?」
篠原岬はそういって笑う。足利伊万里も急いで手を上げて発言をしたのだった。
「あ、先生……もちろん私も慰めてあげますから」
「慰めるぐらいなら過去をつくじってほしくはないのですが……いいでしょう、先生の身に何が起きたのかを……」
――――――
「あれはまだ先生が高校三年生の終わりを迎える一歩手前だったと思います……そうですね、冬休みぐらいでしょうか?まだ進路は決まっていませんでした」
そういってため息をつく。
「……知っている方はいないと思いますが、先生これでも昔は女子にもてていました」
まぁ、そうでしょうねという声が上がったがそれを無視するような形で蒼疾は続ける。
「日に日にエスカレートしていく女子たちの誘惑……風呂に入ってきたり、ベッドにもぐりこまれることもしばしば……実は先生、親とかあっちの都合とかで三人の女子生徒が先生の家に下宿していたんですよ」
おおっと言う声が上がる。
「先生、高校でさっそく三人相手にやっていたんですか!?」
香椎民である。
「いえ、そういったことは一切なかった……それが問題でしてね、危なく理性が飛び去りそうになったことも数回あったんですけど嫉妬がすごかったんですよ」
そういって手の傷を見せる。
「先生、それは?」
「包丁です」
「……え?」
腕まくりを戻してため息をついた。
「……約束というものは恐ろしいものでしてね、そういった関係で一度相手が半裸になって先生といっしょに寝ようとしたんですよ。そしたらその日は別の方と……」
「寝る約束があったとか?」
「いえ、断じてそういった約束ではなく花火に行く約束をしていたのです」
「なるほど」
憂鬱そうにため息をついて蒼疾は続ける。
「相手からみたら約束破ってほかの女と寝てる!って見えたそうで……」
「じっさいそうなんですよね?」
「ちがいますよ、まぁ、それでいきなり引っ込んで殺してやる!って言われました。あのときが一番命の危険にさらされていたときじゃないんでしょうかね〜」
いやぁ、まいったまいったとそういった蒼疾に対してこの先生も苦労してきたんだなぁと生徒の半分が思って残り半分が先生が悪いから仕方ないだろうなぁと考える。
「でも、人間というのはなれると恐ろしいもので今後そういった猟奇的なことがあってもあまり動じなくなってしまいましてね、最終的にはわき腹とか太ももとかにもいろいろと刺さりました」
「……やりすぎですよね?」
「コメディーの域、超えてますよ?」
クラス中からそんな声が聞こえるのだが蒼疾はため息をついたのだった。
「そんなのわかっていますよ」
「ならなんでドロドロのラヴ劇場を終わらせなかったんですか?そんな危ない女性とは別れるべきですよ!」
足利伊万里が憤慨した調子でそういった。
「……きっとあの三人とかその他にもう目の前に現れないでくれって言ったら先生確実にここにはいなかったでしょうね……」
ふっと笑って出席簿を閉じる。
「でも、今はその人たちとは一緒じゃないんですよね?」
「まぁ、そうですね……先生、実は誘拐されているんですよ」
「へ?」
クラス中が驚いていた。そりゃそうだ。
「見知らぬ人に誘拐されて、脅迫されながらこの家を出るって文字を書いておけって言われましてね……それ書いた後もちょっとまた騒動に巻き込まれたんですよ。それで、戻ってきたら教師になれたといっていいでしょう」
「話が読めませんが?」
「読まなくて結構です……どうせ言ったところで誰一人として信じてくれないでしょうしあまりべらべら他人に話すことでもありませんからね」
それだけ言ってこれで話はおしまいだといわんばかりの顔をする。しかし、足利伊万里はいまだ聞きたそうな顔をしていて蒼疾のほうを見ていた。
「それで、実際のところ先生は昔の方々といまだに会われていたりするんですか?」
首を振って蒼疾は否定のしぐさ。
「いいえ、そんな恐ろしいことをしませんよ?私を誘拐した人は意外といい人でしてね、私の行方をかく乱させてくれていますし……改めて思えば包丁で刺されるのはNGですね。そんな猟奇的ラブコメを誰も望んでいるとは思えません…まぁ、誰かが望んでいればさっそくこの物語は破綻しかねない事態に陥りますけどね」
「そういった怖いことを言わないでくださいよ」
「ともかく、これで話は終わりです……」
――――――
職員室、蒼疾は自分の机に座って一息ついていた。そして、家から持ってきた一枚の写真を眺める。
それを別の教師が見つけてたずねてくる。
「先生、そちらの写真の方、先生の彼女ですか?」
中年男性の教師で顔がニヤニヤしている。まぁ、これぐらいのレベルなら普通だ。担任と比べるにはランクが落ちると頭で考えながら蒼疾は首を振っていた。
「いいえ、違いますよ。この人は私の恩師であり、命の恩人です」
「そうですかどのような方なんですか?」
しばしの間蒼疾は考える仕草をして答えた。
「実につかみどころのない先生でした。そうですね、腹黒くて人を騙すのが好きな性格でしたが………他人の痛みをすぐに察知できるそんな人でしたよ」
「変わった方なんですねぇ」
そういって中年教師が去って行き、蒼疾は窓の外を眺めながらポツリと呟いた。
「………確かに、変わってましたね………今、生きているんでしょうか」