第七話:「次回は家庭訪問です」
七海「お母さん、お父さん七海はなんとか生き延びる事が出来そうです」奈々恵「何々?どうしたの?」七海「もとはといえば奈々恵さんが悪いんですよ?」奈々恵「知らないわね〜……ところで菜々子先輩、みなくなったわね?」七海「そうですね、どうしたんでしょう?」
第七話
帰りのHR。蒼疾はいつものように教壇に立って書類を配り始める。その表情は億劫そうで『誰か手伝ってくれる人いないかなぁ』といったものだったが生徒たちはあさっての方向を向いて誰一人として蒼疾と目を合わせようとしていなかった。慣れてきたものである。
「家庭……訪問?」
いつもだったら真っ先に教師の手伝いをしたりする足利伊万里がそうつぶやく。彼女は渡されたプリントを細部までじっくりと読むといった珍しい女子高生なのでこういったときだけは教師の手伝いなどをしなかった。
「ええ、そうです」
「でも、一年生のときに行いましたけど?」
そうです、やりましたよいまさら何をどうするんですか!という声がいろいろなところから聞こえてくる。うるさそうに手で制して教壇でため息をひとつついた。
「すでに決定事項。今年から毎年一度は行われるそうです。昨今、家庭内の事情……まぁ、だいぶ違いますが親との仲のよさや自宅での学習時間、どういった職業につきたいかでしょうが、そういったものを教師が詳しく知っておくことで後の進路などに使用するというのが目的だそうです」
「そうなんですか?」
足利伊万里がいまだにプリントを見ながらそうつぶやく。
「そうなんです、なので、来週から行いますので各自しっかりと保護者の方々に説明をしてどのような時間帯に来てほしいか希望を取ってきておいてください。ああ、ちなみにあなたたちの中には期限を越えてもだらだらと期限を引き延ばしてくれるとか甘い考えを持っている人がいそうなので……」
「せ、先生!何であたしを見る!?」
舞錐好が顔を真っ赤にして両手を机にたたきつけていた。
「一番信用なりませんからね」
「……ひどい!」
「まぁ、謝ってほしいのなら明日の朝一番に先生のところにいつがいいか教えに来てくださいよ……ああ、保護者がいないという人は明日いってきてくださいね。時間帯は何時でもかまいませんから」
その答えに対して一人の生徒が手を上げる。
「本当に何時でもいいんですかぁ?」
先ほど蒼疾に見られた舞錐好が冗談を思いついたといった調子で手を上げる。
「ええ、何時でも……それが本当に舞錐さんにとってお暇な時間帯であればね」
近くの生徒が舞錐の口をふさごうとするがふさぐ前に彼女は口を開けてにこりとした表情で大声を出していた。
「じゃ、深夜三時に来て♪約束だから♪」
「ええ、わかりました……ほかの方は舞錐さんを真似せずにきちんと親と話し合って決めてください。実質は三者面談、または四者面談、ご兄弟や親戚などを混ぜた複数面談も考えられますが」
いや、考えられて四者面談まで(教師、両親、生徒)が最高だろうと考えたのだが口に出さないでおいた。なにせ、蒼疾はいろいろと突っ込んでくるからである。早く終わらないかなと思っている生徒が大半であった。
「じゃ、ペットもオーケー?」
しかし、やたら今日は食いつきのいい舞錐好は手を上げながら質問を開始。ほかの生徒たちははらはらしながらそれを見守っているが、足利伊万里は勝手な想像をいろいろとしていてそれどころではなかった。
「ええ、もちろん。大丈夫ですよ」
「隣の家のおばさんも?」
「あなたが希望するならば、ああ、もちろん隣の家のおばさんがその時間帯に起きているのならばかまいません」
冷静にそう答え、周りの生徒たちを見渡す。
「無論、あなた方も舞錐さんのようなことをしでかしてもかまいませんよ……」
その言葉が舞錐好以外全員『責任は自分で取れ、俺は知らんぞ』に聞こえていた。
「実に有意義な時間を舞錐さんの家では過ごせそうですね……」
いや〜な笑みを顔面に貼り付けて蒼疾はニヤニヤとしている。何かしら騒動が起きそうだなぁとたいていの生徒たちが思っており、さらにその内訳としては絶対に舞錐さんの後にはとばっちりがきそうなので自分の順番を置くのはやめておこうと決めていて残りは見に行ってみたいと思っていた。
「じゃ、今日はこれにて放課とします。くれぐれもこの書類はキチンと渡しておいてください」
「はい」
それだけ言ってクラスはいつものように騒がしくなっていた。
「先生」
足利伊万里が何か決心したような表情をしていた。
「来週の月曜日、学校終わってすぐで大丈夫だってお母さんからメールがきました」
そういってシンプルなストラップがつけられたケータイを蒼疾に見せる。内容を確認してうなずく。
「おやおや、もうお決めになられのですね……さすがにまじめです」
「えっと、家の場所とかわかりますか?」
「場所ですか?大丈夫ですよ。この前すべて調べておきましたから」
「そうですか、それなら大丈夫ですね」
それでは失礼しますと足利伊万里は去っていったのだった。
「先生!」
「今度はあなたですか……なんですか、舞錐さん。最近出番が減ったからといってやたらに手を上げたりしないでください。気がつけば敬語さえ使わなくなっているじゃないですか」
「あ、わかる?」
ため息をひとつだけ、蒼疾はつく。
「日本語を読める方ならば外国人の方でさえわかりますよ。さらに言うならしっかりと語学について学んでいらっしゃるので最近は日本人より外国人の方のほうがちゃんとした日本語を話せるのですよ」
「しらなかったなぁ……あ、そんなことより言った時間に絶対にきてよね!」
「ええ、それはもちろんです。楽しみにしておきますよ」
手帳を確認しながら蒼疾はため息をついた。どうやらこのままの成績では親との喧嘩が期待できそうであると決め付ける。
「しかし、最近はしっかりと授業を聞いているそうなので先生としてはほっとしましたよ」
「まぁ、一応は」
「その調子でがんばれとは言いませんが一進一退を繰り返してください」
「わかった、がんばるよ!」
じゃ、さよなら〜と手を振って去っていく。
「やれやれ、実に家庭訪問が楽しみです」
それだけ蒼疾は言い残すと自らも教室を後にしたのだった。