新人寮
『中学生投手最速記録を大幅に塗り替えた天才野球少年、黒羽優さんとその幼馴染み白川結愛さんが現在行方不明になっています。両者の自宅では遺書が見つかっており、自殺の可能性が高く警察が捜査を進めています』
俺はテレビから流れる俺と結愛の失踪ニュースを眺めていた。それを見て、日常と切り離されたのだと改めて感じた。あの一件はけして夢ではなかったと――。
俺は辺りを見渡す。そこは白い綺麗な部屋であった。あるのはテレビ、今まで俺が寝ていたベッド、小さな鏡、そして歯ブラシなどの最低限の生活用品。そして俺を追いかけていた黒服たちと同じ、黒いスーツが置かれていた。
「……窓は無いが、出入口は普通の扉。ってことは監禁されたわけではないのか?」
俺はゆっくり立ち上がると、自分の体を確認する。昨日まで体に付着していた泥や、汗をかいた後の不快感がなくなっていることを確認する。おそらく誰かが俺の体を拭いたのだろう。
俺はそう結論づけると、黒いスーツに手を伸ばす。俺が意識を失っている時に採寸したのか、黒いスーツのサイズはピッタリだった。
「黒羽くん、起きているかい?」
まるで見計らったようなタイミングで、扉が開く。そこには相変わらず立派な髭を生やした佐倉の姿があった。
「あぁ、今起きたとこ」
「ふむ、スーツのサイズは丁度いいようだね。それにしてもやはり細身で身長が高いと、スーツがよく似合う! 赤坂くんとは大違いだ!」
「確かにあいつのは七五三に見える」
「はっはっは! それは赤坂くんに言っちゃいかんよ? 彼自身も気にしているみたいだからね。さて、早速で悪いが、一緒についてきてくれ」
「拒否権は?」
「無論ないな」
「だよなー。はぁー、了解。佐倉総隊長様」
俺は精一杯の嫌味を込めて言ったつもりだが、佐倉は全く気にした様子はなく、すぐに部屋を出ていく。俺は少し残念に思いつつ、佐倉の後について行く。
「……ここは一体どこなんだ?」
高級マンションのような綺麗な廊下。それが長く伸びている。そして一定の間隔で、俺の出た部屋にあった物と同じ扉が並んでいる。たが廊下に窓は一切見当たらない。普通のマンションにしてはあまりにも不自然すぎる。
「その左目を使えばいいのではないか?」
「あんたが言わなかったら使うよ。だけど透視は使うと頭が痛くなるから、できるだけ使いたくない」
「そうか。黒羽くん、君はすでに我々の仲間だ。そんな君に負担はかけたくない。いいだろう、少し話そう。ここは横浜にある拠点の一つだ。我々組織の新人寮だと思ってくれればいい。これ以上の詳しい話は……」
そう言って佐倉は指を指す。そこにはエレベーターが見えていた。
「全員が集まった時に話そう。二度手間になるからな」
「ん? 全員?」
全員――つまりそれは俺以外にも、新たにこの組織に加わった者がいると言う事になる。俺と同じく日常を捨て、非日常の始まりを告げる者たちが――。