キツイお灸
「……そのさ、もし月曜日、良かったら、俺と……食事でもしないか?」
食事? 父親に会いに行って、一緒に食事をしたりしないのかしら?
あ、でも具合が悪いのよね。そうなると食事どころではないのかもしれない。そう思ったが、デグランは別の理由を私に打ち明ける。
「親父のお見舞い終わったら、俺、きっと誰かと話したくなるだろうなぁーと思って」
……! なるほど。そいうことね。それはそうだろう。実際に会ってみた父親がどんな人であろうと、デグランに大きな影響を与えるはず。何より病気なのだ。やつれた姿でいきなり対面では、悲しい気持ちになるかもしれない。その悲しい気持ちを誰かに吐露したいと思っても、不思議ではない。
でもその相手は私でいいのかしら? バートンやロゼッタじゃなくてもいいのかしら?
その点を確認しようと口を開きかけたが、その前にデグランが話し始めた。それは私が即答しないので、なんだか慌てた様子だった。そうなると私は口を挟むことはできない。
「その、そんな重い話をするつもりはないから、安心してくれよ。いつもこのノリだろう。それに、えーと。ほら、月曜日! バートンもロゼッタも仕事だしさ。それでナタリーお嬢さんを誘うなんて、都合がいい話だけど……」
そこでデグランは自身のアッシュブラウンの髪をかきあげる。
「俺ってさ、店休の時は、よく無国籍料理や隣国の料理を出す店に足を運んでいるんだよ。味付けとか、使っているスパイスが珍しいから、勉強になるんだ。それも兼ねて、ど、どうだろう……か」
デグランにしては珍しく、語尾の声が小さくなっている。私は重い話でもなんでも、聞くつもりでいるのに。そんなに気を使い、慌てなくてもいいのに!
それにしても店休の時、デグランは料理の勉強のために時間を使っていたのね。
真面目で勤勉だなぁ。でも趣味と実益も兼ねている感じなのかな。
「デグラン様、月曜日。お食事、ぜひ行きましょう。私はどんな話でも聞くつもりです。これでも恋愛相談カフェのオーナーですからね。傾聴に関しては自信があります。いいアドバイスをできるかは分かりませんが……」
そこでこんなことを尋ねてみる。
「お父様のお屋敷には馬車で行きますよね? 私、ついて行きましょうか?」
「え」
これにはデグランが目を丸くしている。
それはそうよね。子どもじゃないんだから。付き添いは不要のはず。でも……。
「お父様のお見舞い。どんな形で終わるか分かりません。ですがきっと、訪問が終わり、馬車の中に戻った時こそ、いろいろな感情を放出したくなると思うんです。よって私、御者の方と一緒に待機するので。同行しましょうか?」
「ナタリーお嬢さん……」
デグランが感無量という表情になっている。泣きそうになるのを堪え、そして「ぜひそうしてもらえると助かる!」と微笑んだ。
「では私の同行は決定ということで。我が家の馬車を出しますね」
「それは助かるな!」
こうして思いがけず、デグランが父親に会いに行くのに、同行することが決まった。
その後の営業と土日は……とても忙しかった。
日曜日には悪役令嬢ニコールが来店、ちょこっとその後についても、聞くことができた。
ニコールの婚約者であり、ヒロインの攻略対象であるジョシュ。
彼はセーラから「ニコールのような令嬢を目指し、強い女性なりたい」と言われ、目が覚めたのだという。
この国で、ニコールほど才女であり、ジョシュのことを慕い、彼を支えるために強くなろうとしている女性はいなかった。もしこの枠をセーラが目指して頑張っても、きっと二番手にすらなれないだろう。そしてジョシュ自身、自分を支えるため、懸命に学ぶニコールに心惹かれていた時のことを、思い出したと言うのだ。
結果として、元サヤに戻ったと言う。
ただし。
国王陛下夫妻は、ジョシュにキツイお灸を据えている。
そもそも王族の婚約は、そう簡単に反故にできるものではない。それを安易な考えで、なんとかしようとしていたことは、「けしからん」と雷が落とされた。今度、ニコールと婚約破棄するなどと言おうものなら、王族から抹消し、北方の地へ追放する――とまで言われ、ジョシュは真っ青。
「ニコール、僕は心を入れ替え、君だけを全身全霊で愛するから。神に誓う。学園生活を送っていた時の僕は、まるで狐につままれていたみたいだったよ。本当にごめんなさい」
そうひれ伏す勢いで謝罪したという。
思うに、ここは乙女ゲームの世界。ジョシュもヒロインであるセーラにロックオンされ、自然とゲームのシナリオに沿う行動をとってしまったのかもしれない。セーラが今、ジョシュへの関心がなくなったことで、シナリオの強制力の呪縛から、解き放たれたのかもしれなかった。
何はともあれ、ニコールとジョシュはこれで大丈夫だろう。
セーラの動向は気になるが、まずはデグランだ。
デグランと父親の再会。それを見守ろう!














