ではこのまま二人で
宮殿までの道中。
馬車の中で聞いたアレン様の話は、ゲームの特典につける小話くらい、価値あるものだった。
アレン様の騎士見習い時代の話。公爵家次期当主で何を学んだのか。妹のレネとのエピソード。つまりは彼の成長の思い出話を聞くことができたのだ! 最初は筋力がなく、真剣を持ち上げるだけでも一苦労だったこと。今の愛馬とは、仔馬の頃からの付き合いであること。公爵家で所有する鉱山へ行き、妹とトロッコで遊び、父親から雷を落とされたこと、などなどだ。
完璧なイメージが強いアレン様だったが、深く知ると、人間味に溢れている。親近感がさらに増し、雲の上の方と拝む気持ちが、揺らぎそうになっていた。
「もう到着ですね。このままナタリー嬢と、ずっとおしゃべりしたいところですが……。マルティネス侯爵令嬢とジョシュ殿下がお待ちでしょうから、参りましょうか」
アレン様のさりげない言葉に、最後の最後で腰砕けになる。
「ナタリー嬢?」
「し、失礼しました! こちらの馬車、乗り心地が大変素晴らしく。つい、降りたくない気持ちになってしました」
「ではこのまま二人で、セルリアン・レイクまで行きますか?」
セルリアン・レイク!?
そこは王都から馬車では、五時間近くかかるという。
ただ、風光明媚で恋人たちが泊りがけで向かう場所と聞いているが……。
ともかく再度のドキッとする言葉に、全身から力が抜けそうになるのを堪え、なんとか馬車から降りた。深呼吸を繰り返し、鼓動を静め、気持ちを落ち着かせる。
アレン様にエスコートされ、歩き始めたまさにその時。
「ナタリーお嬢様!」
ロゼッタの声に、アレン様と二人立ち止まり、振り返ると……。
明るいイエロー、ライムグリーン、リーフグリーンの生地が重なりあい、そこにビジューが散りばめられた、まさに目が覚めるような素敵なドレス姿のロゼッタが、そこにいた! 身頃のリーフ模様の繊細な刺繍は、さすが『ロイヤル・エレガンス』という感じだった。
オリーブブラウンの髪には、パールが散りばめられている。首元には、ダイヤモンドがあしらわれたパールのネックレス。
もうロゼッタは、いずれかの令嬢にしか見えない!
エスコートするルグスは、白い儀礼用の軍服を着ている。飾緒や飾りボタン、サッシュなどはゴールドで、こちらもビシッと決まっている!
さらに!
二人の後ろに続くのは、バートンとドロシー!
バートンは深緑色のフロックコートで、ドロシーはとても個性的なドレスを着ている。スカートを飾るのは縦のフリル。しかも虹をイメージしたかのような、七色使い。髪には生花の飾りをつけており、とても素敵だった。
ロゼッタ達は、ルグスの馬車に四人で乗り、宮殿へやってきたようだ。
別行動のデグランは、どうしているのかしら?
チラッ、チラッとエントランスを見るが、デグランが乗っているかもしれないあの貴婦人の馬車は……見当たらない。
「では会場へ向かいましょうか」
アレン様の声掛けに皆、移動を開始する。
王家の私的なパーティーということで、会場は、なんと宮殿を抜けたさらにその先にある王宮!
王宮なんて普段入ることができないので、ロゼッタは「足が震えます、ルグス様!」と珍しく声を震わせている。バートンとドロシーは、右手と右足が同時に出る、極度の緊張状態。
「ここですね」
ついに到着したそこは、冬の陽射しがたっぷり届く黄金のホール!
白亜の大理石の床は、綺麗に磨きこまれ、陽光を受け、輝いている。さらにホール内を飾る装飾品は、全てゴールド。あちこちに生けられた生花、壁にかけられた大きなタペストリー。天井画に広がる主の世界と、豪華なシャンデリア。
ここに到着した人々は、まずこのゴージャスな空間に圧倒されている。
そこで「あれ?」と思う。
招待客は、王立サンフラワー学園の生徒ということだが、大人の姿もちらほら。
どうやら家族を同伴者にしている生徒が多いようだ。
でもそれは……納得。
王家の私的なパーティーに招かれる栄誉なんて、経験できるか、できないかだろう。つまりは一生に一度のチャンス。親御さんも来たがって当然だった。
そこでホールの一角に、オーケストラが揃い、優雅に音楽を奏で始めた。
アレン様やルグスを見つけ、生徒達が声をかける。アレン様は、剣術の特別授業は実施していたようで、令息が彼の周りに集まる。ルグスは儀礼用の軍服を着用しているので、男女問わず、彼を取り囲む。
そうなると私とロゼッタは身を寄せ合い、この様子を見守ることになった。
「やっぱり副団長様の人気は、すごいですねー」
「そうね。ルグス様だって、沢山の学生に囲まれているわ。騎士団の騎士は憧れよね……」
そんな風に話している間にも、続々と人が入って来る。
デグランと貴婦人はまだなのかしら?
つい気になって、出入口となっている扉の方を見てしまう。
あ!
本日一番会いたくない、ウッドハウス侯爵令嬢を見つけてしまった。
意識していたわけではないが、彼女は昼間にも関わらず、かなり光沢のあるサテン生地の真紅のドレスを着ている。しかもイブニングドレス並みに露出も多い。そのボディで露出があり、その色のドレスだとつい、目が向いてしまう。
そしてそんな彼女の周りには、相応の令嬢と令息が集まっている。
ちなみにアレン様から断られたので、代わりに父親が彼女をエスコートしていた。
不意に響く、ファンファーレ。
オーケストラの演奏が止み、ざわざわとしていた会話も収まる。
いよいよパーティーが始まるようだ。
隣室につながる扉が開き、そこから国王陛下夫妻、そしてジョシュとニコールが入って来た。
国王は白い毛皮のついた赤いマントに、沢山の宝石が埋め込まれた王冠を被っている。王妃は深みのある落ち着いたワイン色のドレスで、ティアラがその頭上で輝きを放っていた。
ジョシュは自身の瞳にあわせた、明度の低いエメラルドグリーンのフロックコート。ニコールはジョシュにあわせ、明るいエメラルドグリーンのドレスを着ている。
ニコールが身に着けている宝飾品は、アメジストと統一されており、それは彼女によく似合っていた。ジョシュの深緑色のタイにも、ライラックモチーフのアメジストの宝飾品が飾られている。ニコールを意識したさりげないお洒落に、二人の関係性の良さが伝わって来た。
国王は簡単に挨拶をして、王妃が今日の趣旨を説明する。さらにジョシュがニコールとの結婚式を、再来年の春に執り行うと発表した。これはまだ、公にされていないのことだったので、皆、驚き拍手喝采。すぐに情報はニュースペーパーの本社に届けられ、号外が発行されるだろう。
「それでは最初のダンスは、ジョシュとニコールにお願いしよう。隣室には特別な料理も用意してある。皆、ダンスを楽しむがいい。もし喉が渇き、お腹が空いたら、隣室へ向かうように」
国王のこの言葉を合図に、最初のダンスが始まった。


















