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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第5章 武道会そして陰謀
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第88話 ジュリが全力を出すようです

ーside:ジュリー


 私達は彼より遅れて会場に着いた。


 私は彼の次の試合に参加するため、観客席に行く皆と別れ、一人控え室に行った。


 その時には彼とレオンの試合は佳境に差し掛かっていた。レオンは彼に攻撃を仕掛けながら少しずつ獣化をする。


 レオンが完全に獣化したのも束の間、彼は酷くやられてしまった。見ただけでも痛々しい様子だった。


 だが彼は立ち上がった。それからは私には何が起こったのか分からなかった。彼が速すぎて目視できなかったからだ。


 気付けばレオンの四肢はどこかに飛んでいって、お腹に大きな穴が開いていた。


 私は彼の強さに震え上がった。強すぎて怖いくらいに。


 彼は勝利宣言の後、頭を抱えたまま気絶した。


 担架に運ばれて行く彼はずっと苦しそうな表情をしていた。相当無茶をしたのだろう。


「本当無茶ばかり……。大丈夫なのかしら……?」


 私が心配していると、運ばれていく彼とすれ違いにリングに上がる者がいた。


 それは私の次の試合相手、フェルトだ。


「さーて!私の次の相手は誰かな?」


 フェルトは遠くを見るように手を目の上に付けリング上を見渡す。


「んー、まだ来てないっぽい。早く来ないかな?」


 リング上に相手を見つけられず、少しがっかりしたようにフェルトが言った。


 彼女が待っているからという訳では無いが、私はリングへ向かった。


 私がリングに登るとフェルトが反応を示した。


「おっ!君は確か王国の王女の人!」


「ジュリよ、よろしく」


「私も帝国の王女ってことになってるから、王女対決だ!」


「ということはお父様が帝王なのかしら?」


「そうそう!やっぱり王女ってめんどくさいよねー。勉強とか礼儀とか厳しいんだもん」


 こんなのが王女とは。……私も人のこと言えなかったわ。


「準決勝二回戦目、両者出揃った様だあ!!決勝に進出するのはフェルト選手なのか、それともジュリエット選手なのか!!この試合は目が離せない!!」


 司会が会場を盛り上げ始めた。その時、フェルトが私に向かって挑発をしかけてきた。


「全力でかかってきてね。じゃないと私楽しくないから」


「言われなくても全力で戦うわよ。あなたが強いのはもう分かりきっているからなおのことね」


「それならいいの。今回も楽しめそう!」


 私達がそんなやり取りをしている間に試合開始の合図が掛かろうとしていた。


「それでは準決勝ジュリエット選手対フェルト選手の対決……試合開始!!」


 私は細剣を地面に刺し精霊魔法を唱える。


 土の精霊に問いかけ土塊から細剣と同じ形状のものを六本制作する。


 さらに、火、水、風、土、光、闇の各精霊に土塊で出来た細剣に宿ってもらい、それぞれの属性を帯びさせて独立した動きをしてもらう。


 さらに私が持っている細剣には守護精霊に宿ってもらい守りを固める。


 これで出来たのが、勇者戦で見たアイカの劣化版の宙に浮く武器だ。


「なにそれ、すごい!そんなことも出来ちゃうんだ!」


 私はフェルトそっちのけで更に魔法を発動していく。


 召喚魔法を発動させ、ホーリーナイトを二体召喚。その上に私とそのナイトに出来うる限りの支援魔法を掛けていく。


「フェルト、待たせたわね」


「面白かったからいいよ!さあ、始めよう!」


 フェルトが構えの体制に入る。私の周りには六本の宙に浮く細剣、左右には最大強化のナイト。それらに指示を出して私も構える。


 最初に動いたのは私のナイト達だ。


 ナイト達は命令した通り、フェルトを挟むように動き、攻撃を繰り出す。


 フェルトはそれを難なく避けるが、私にはどこにどう避けようとするのかが読める。


 その場所に六本の細剣を向かわせる。


 フェルトはそれを見て驚き、なんとか躱そうとするが躱しきれず数本かの細剣が腕や足をかすっていく。


 私もそこに突撃して、フェルトの動き全てを加味した上で急所を狙い細剣を突き出す。


 狙うは首。大量に出血させダウンさせる。


 フェルトはそこまでの一連の流れをみて流石にやばいと思ったのだろう、能力の一部の制限を解くようだ。


「ブースト1、速度制限解除!」


 フェルトがそう言うのと同時に、動きが俊敏になりその場から離脱し、私の攻撃を避けた。


「今のはちょっと危なかったよ。使うつもり無かったのにブーストしちゃったし」


「まだまだいくわよ」


「なら私からも仕掛けようかな」


 来る!そう私が思った時、ナイトの一体が場外まで殴り飛ばされた。


 私はその間に守護精霊に頼み、私の周りに守護結界を張ってもらった。


 そして、フェルトがまた一体のナイトを殴り飛ばす。ナイト達は所詮召喚した魔物のようなものだ。私のように思考が読めるわけでもないから負けてしまうのも無理はない。


「よし、邪魔だった奴は倒した。後はあの六本の武器を壊せば」


 私は六本の細剣で六方向からフェルトに囲み、同時に高速で飛ばした。


 フェルトはそれを見てニヤリと笑い、一瞬のうちで六本の細剣を真っ二つに折ってしまった。


「まあまあ面白かった。でもやっぱりまだまだかな」


 フェルトが私にそう言った。そして、私に突っ込んでくる。


 とてつもない速さで突っ込んできて、その状態で突き出した拳は守護結界を破り、私まで届いた。


 殴れたのは鳩尾だった。肺から空気が全て抜け、息ができなくなる。そして、殴られた衝撃で地面を転がり、リングの端で止まる。


 ぐっ……!苦しい……痛い……。まさか守護結界が破られるなんて思ってもみなかった……。


 これだけやってもまだフェルトには及ばないっていうの?まだ足りないっていうの?


 私は自分の無力さに落胆した。そして、諦めてしまいそうになった。


 その時だった。私の奥底から問いかけられた気がした。あの時助けてもらった命を捨てようとした時と同じように諦めるのかと。


 そして私は思い出した。何の為に力を求め、何の為に強くなろうとしたのか。


 それは全て仲間の為だ。仲間を傷つけないため、仲間を死なせないため、その為に強くなろうと決心をした。


 なら、まだ戦えるこの状況で諦める訳にはいかない。


 だけど今までのままじゃ駄目。またやられるだけ。今よりももっと力を。仲間の為に強くならなければ!


 その時私の奥底が大きく揺らぎ、何かを感じた。


「こ、こんなのじゃ、私はまだやられないわ……!」


「また……またこの感じ……。一体何が起きたの?一昨日のあの子も、昨日のあの子も、全く同じような事が起きてた……。この子達は一体……?」


 私は何かを呟いているフェルトを傍目に、細剣を再度地面に刺し、細剣を制作。


「サモン、フレイムナイト、アクアナイト、ウィンドナイト、ガイアナイト、ホーリーナイト、ダークナイト」


 各一体ずつナイトを召喚。さらに、精霊魔法によって、精霊に話しかける。


 そうしてフレイムナイトにはサラマンダーが、アクアナイトにはウンディーネが、ウィンドナイトにはシルフが、ガイアナイトにはノームが、ホーリーナイトにはウィル・オ・ウィスプが、ダークナイトにはシェイドがそれぞれ宿る。


 それによって各ナイト達の姿が派手なものになる。だが、それだけではない。


 精霊をその身に宿したことでナイト達の能力が格段に上がった。更に土塊から作った細剣を持たせ、それにも精霊の力を宿らせた。


 これによりエレメンツナイトが完成。


 その上完成したエレメンツナイトに支援魔法を掛ける。


「ナイト達よ、お行きなさい」


 ナイトは私の言葉を聞き届け、フェルトに襲いかかる。


 格段に上がった能力のおかげで速さや力はわずもがな判断力も高いものになった。


 それによりナイト達は一糸乱れぬ連携を見せ、フェルトを追い込む。


「なんなのこれ……!さっきまでとは全く別物……!」


 フェルトは必死で避け続ける。もし掠りでもすれば、精霊の力で増幅した各能力により、炎で焼かれたり、風に切られたり、闇に飲まれたりということになる。


「使うつもりはなかったんだけど……ブースト2

、筋力制限解除!」


 フェルトがそう唱えて地面を殴る。その衝撃は凄まじいもので、リングにヒビを入れ、大きな地震を引き起こした。だが代償に、地面を殴った手が逝ってしまっていた。


 しかし、フェルトにはそれだけで充分だったようだ。地震によって体制を崩したナイト達を蹴り飛ばし、同じくバランスを崩した私に向かってくる。


 私は向かってくるフェルトに極光魔法を放った。


 それは極太で高熱のレーザーそのものだった。


 フェルトは危険を察知したのか回避行動を取ったがレーザーの速度に対応出来ず、逝かなかった方の片腕をもっていった。


「腕が駄目なら足で!」


 そう言ってなおもフェルトは向かってくる。


 もう一発極光魔法を放とうとしたが、間に合わず、フェルトの蹴りを食らってしまった。


 リングの端にいた私はフェルトの蹴りを食らい場外へと落ちていく。


 エレメンツナイト達が私を助けようと走ってくるが、それは全てフェルトに妨げられた。


 そして、私は場外に出た。


「準決勝二回戦目はフェルト選手の勝利だあ!!」


 私は負けた。最後の詰めが甘かった。私自身も動くべきだった。だがそれは後の祭り、今更言っても仕方がない。


「あなたとの勝負、楽しかったわ」


 フェルトが私に一言告げて、腕の修復に救護室へ向った。


 私も負けてしまったが、妙な達成感の様なものを感じた。だが、それでも負けは負け。悔しい気持ちもある。


 私はそんな複雑な心持ちで、試合を終えた。

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