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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第5章 武道会そして陰謀
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第82話 俺とミルの輪舞のようです

「ミル!もっと早く走らないと遅れるぞ!」


「分かってる……!」


「間に合えよ……!」


 俺とミルが何を急いでいるかというと、次の試合の為である。


 一番最初に起きた俺が時間を確認した時に試合開始十分前だった。


 まさかの寝坊。前の日の夜が心地よかったからって寝坊するなんて……。


 俺は焦りながら急ぎ皆を起こし、初戦のミルと俺だけ先にこうやって向かっているという訳である。皆は後から追ってくる事になっている。


 着替えとかその他諸々してたらもう開始五分前だ。正直なところ、間に合うかギリギリである。


「ミル!最終手段だ!俺に掴まれ!」


「ん……!」


「転移!」


 久しぶりに転移で移動する。高いところに上がってから一気に会場まで転移する。


 ちょっと強引ではあるが、致し方ないだろう。


「な、なんとか間に合ったか?」


「早くリングに行かないと……」


「ああそうだな……!」


 俺とミルは走った。それはもう全力で。そのおかげでなんとか試合に間に合うことは出来た。


 そして、俺とミルはリングに上がる。走ってきたおかげで準備体操も必要なさそうだしな。


 これから俺とミルは今までにないくらいに本気の戦いをする事になるだろうし、ミルも一切手を抜いて来ないだろう。


「ミル、お前体力は大丈夫なのか?」


「あれくらいどうって事無い。心配無用」


「そうか。ならいい」


 話しながら準備体操をしている当たり、言葉通り、心配は無用のようだ。


「準々決勝、一回戦!ロウリ・コーン選手対ミル選手!!昨日、圧倒的な力の差を見せたロウリ・コーン選手にミル選手はどう対処していくのかが見物だぁ!!」


「この戦い、見離すことは出来ないだろうな。ここまで勝ち残ってきた強者の戦いなのだから当然だと言えるが、何せロウリ・コーンの実力が未知であるからな」


 俺の解説をするエルシャさん。ん?そういえば昨日解説者で見かけてないような……。


「なるほど!!今後の為にもって事ですね!!……そういえばエルシャさん、昨日は何か用事でもあったんですか?」


「え、えっと、ちょっと色々あってな……。だ、だが、今日からまたしっかり解説させてもらう」


 色々とはやっぱりあれですかね?俺が告白されたやつ。俺はちらっとエルシャさんの方をみた。すると、気まずい事に目が合ってしまった。


 目が合うとすぐに目をそらして顔が赤くなるエルシャさん。なんかすごく可愛く見えるな。言葉には出さんが……。


「それでは準々決勝、一回戦目を始める!!」


 その声と共に戦闘という事実を認識し、俺とミルに緊張が走る。


「試合開始!!」


 試合開始直後、ミルが魔力転化を始める。ベースは雷のようだ。


 既にミルは短剣も抜いており、初めから全力で戦うつもりの様だ。


 俺もそれに応えるべく、刀を抜き構える。


「雷投」


 ミルは雷を投げてくる。てか、その攻撃名前なんてあったっけ!?


 俺は思考加速をして雷の速さに対処して、前に転がるようにして雷を躱す。だが、顔を上げると既に二投目の雷が俺の顔の目の前にあった。まるで俺がそこ来るのを知っていたかのように。


 俺は首を傾げギリギリで躱す。雷が頬を掠り一瞬にして肉が焼ける。


 ぐっ。流れがミルに向かっている……。


「ミル……やるな」


「まだまだこれから」


 ミルは短剣を持っている右手ではなく、空いていた左手を空へ掲げる。


 空には無数の水球が浮かび始める。更にその水球は形を変えまるで槍のように先端が鋭く尖っていく。


 殺傷能力を高めた水か……!その上雷を投げられたら感電してしまう危険が!ここは全て迎撃するしかない!


 俺も同じく空に手を掲げ火球を創造し、槍のように形作る。


 そして、俺とミル同時に腕を振り下ろす。


 宙に浮いていた水槍は俺に狙いを定め、炎槍はその水槍一つに狙いを定めて、飛んでいく。


 視界を埋める程の攻撃がお互いにぶつかり合い、水槍を炎槍が蒸発させていく。


 俺とミルの周囲に熱気が立ち込め始める。さらに、水蒸気によって視界も悪くなっていく。


 するといきなり目の前から雷が飛んできた。俺はそれを横に逸れるとこで躱す。


 そこで俺は自分の失態に気付いた。周囲を見渡すとリングが凍っており、冷気が漂い始めている。


 水分を十分に含んだ暖かい空気が冷やされれば、それは霧となり視界を覆う。


 俺の視界は完全に塞がれた。俺にある完全感知にには反応はあるが何をしてくるのかが分からなくなった。


「ならば!」


 見えないのなら近づけばいいだけだ!


 俺は感知に反応している場所に転移をする。


 するとミルはそこに来るのが分かっていたかのように短剣を振りかざしてくる。


 咄嗟に刀ガードしたがそれがいけなかった。するなら回避するしかなかったのだ。


 ミルの攻撃を受け止めた俺は、刀を伝って雷撃を食らう。


「ぐわあぁぁあ!!」


 俺は刀を取り落とし、まだ痺れる体を動かしてその場から離れる。


 ぐっ。手のひらが焼かれてしまったか。だがまあそれは自己再生でどうにかなる。問題は視界が悪い事なのだが……。


 そうだ、風魔法を使えば!


 俺が風魔法を使おうとすると、そこに雷が飛んでくる。


 あくまでもこの状態を継続させるつもりか……。ならば!


 俺はミルの周囲を全力で走り回る事にした。俊敏強化のスキルをフル活用し回る事で風を起こし、霧を払うのだ。


 やはりそれを阻止するためにミルは土壁や樹木、結界を俺の前に発生させ妨害を加えてくる。


 だがそんなのは俺には無意味だ。殴り飛ばせば何も問題はない。


 俺は走っている間に雷魔法や氷魔法など様々な遠距離攻撃を放ったが、それ全てが迎撃もしくは躱された。


 そうしている間に霧は晴れていき、視界に何の問題もなくなった。


「ミルお前、俺の行動の先を読んでいるだろ?」


「答える義理はない」


 まあそうだよな。だが、仮にそうだと仮定すれば少し厄介だ。


 刀は手元にない。魔法も駄目。あとは拳で戦うしかないのだが、先を読まれるときつい。仮に俺が思考を読んだとしてもその先の行動を読んでくるだろう。


 その上ミルは雷に転化している。速さもそれに準じた速さだ。


 俺も転化をするしかないか。


「魔力転化!ベース雷!」


 俺の体が雷の性質、形状を帯びていく。


「ミル行くぞ!」


「ん!」


 俺はミルを殴りにかかる。動きを先に読んだミルが俺の攻撃を横に逸れて回避、さらに蹴りを繰り出してくる。


 俺もその蹴りに蹴りで対応する。だが、ミルの蹴りは途中で曲がり、俺にヒットする。


 負けじと俺は殴る蹴るの乱舞を繰り返す。ミルは俺の乱舞を躱し隙を見て反撃をしてくる。


 俺もミルの攻撃を回避、乱舞を繰り返す。


 リング上を二人で駆け回り、互いに攻撃を受け、攻撃を加える。


 その戦いの中、ミルは心底楽しそうに笑っていた。


「ミルお前気付いているか。自分が笑っていることを」


「そういうあなたも笑ってる」


 言われるまで気づかなかった。だが、こんなに楽しい戦いはいつぶりだろうか。もしかしたら、この世界に来て初めてかもしれない。


 そう考えるともっともっと楽しく感じてきた。ミルも同じ様で、戦いの激しさを増していく。


 ミルとの戦いはさながら輪舞を踊っているようで、心が昂っていく。


 二人だけの時間、二人だけの空間、二人だけの世界……、そんなものを感じる。


 だがそれはいつか終わるもの。だから俺が終わらせる!


「ミル、もう終わりだ。決着をつける」


「あたしだって……!」


 俺はスキルをフルで使う。身体強化系スキル、攻撃強化系スキルはもちろんのこと、戦闘補助系スキルも使えるものは全て。


「威圧!!」


 俺は威圧を全開にした。制御は効かないが、それでもいい。でなければ今のミルを怯ませることはできないのだから。


「うっ……」


 俺は怯んだ隙にミルを掴み、場外へと投げた。俺には流石に痛い思いをさせる気にはならなかった。


 ミルは宙に浮いているあいだに風魔法を使って浮こうとしていた。しかし、俺は思考を読んでいてそれを知っている。


 雷を飛ばし、風魔法を阻止する。


 だがミルは諦めていない。土魔法で、空中に足場を作ろうとしたり、樹木魔法でリングから樹木を伸ばしてその上に立とうとたりしようとしていた。


 だが俺がそれを良しとしない。全て防いだ。


 そして、遂にミルは場外へと落ちた。


 しばらくの沈黙の内、司会者が声を張り上げる。


「準々決勝第一回戦!!ロウリ・コーン選手の勝利だぁ!!一体何が起こっていたというのでしょうかぁ!!」


「私ですら、ギリギリ目で終えるレベルの戦いだった。ハイレベルの戦い過ぎて驚いているくらいだ。ただあの二人は戦っている間ずっと笑っていたのが印象に残っている」


 エルシャさんは俺とミルの戦いをそういった。やっぱり笑っているのを見られていたようだ。


 俺は自分の勝ちで終わった戦いの後、場外へに落ちたミルを見てみた。すると悔しそうであったが清々しい表情をしていたのが分かった。


 俺はミルの元に歩み寄る。


「お疲れミル」


「ん。楽しかった」


「ああそうだな」


「次は負けない……!」


 ミルは俺にそう宣言して満足そうに気絶していった。


 魔力切れか。正直俺もギリギリだ。救護室に向かうか。


 こうして俺とミルの戦いは終わった。

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