第77話 俺の初戦とミルの戦いのようです
赤象族のフェレトが銀狼族のフェルトと似ていて分かりにくかったので、フェレトからレイファンに変更しました。
本戦はトーナメント形式で行われる。トーナメント戦なので優勝する為には四回勝たなければならない。そのため誰と当たるのかが優勝への鍵になりうる。だがそこは完全に運だ。
「では各選手は引いた番号を係の人に申告してください!」
そう言われ自分が引いた番号を各々伝えに行く。
全員申告が終わり、大きな紙が張り出された。その紙には各番号順に名前が書き込まれていた。
その結果はこうなっていた。
1、ロウリ・コーン
2、アリフ
3、ミル
4、レイファン
5、グリーズ
6、ラビ
7、レン
8、レオン
9、フェルト
10、ゼロ
11、ヤドック
12、リン
13、トミー
14、ロニ
15、ジュリ
16、スゥ
これを見て、俺の初戦の相手はアリフであると言うことが分かった。
ただ、ロウリ・コーンだけはほんとにやめて……。来場者の人達からざわめきが出てきてるから……。
……さて、気を取り直して次の戦いに備えねばな。確かアリフは聖国の冒険者だったはず。戦い方も何も知らないので未知数だからな。万全を期してかかった方がいいだろう。
「では初戦のロウリ・コーン選手と、アリフ選手のお二人以外は控え室にお戻りください」
俺とアリフ以外の皆が動き出す。ゼロ達はリングから降りる前に俺に一言頑張れと言ってくれた。期待に添える戦いをしたい。
そして、リング上には俺とアリフだけが残った。
今から本戦が始まる。まずはこれに勝って、優勝に一歩近づこう。
「では本戦の初戦、ロウリ・コーン選手対アリフ選手です!!」
会場が少しの緊張に包まれる。
俺とアリフは二十メートル程の間を空けて向かい合う。
「では試合開始!!」
本戦で初めてのゴングがなる。俺は刀を、アリフは剣を互いに構える。
俺は様子を見ようとただ武器を構えただけだったが、アリフは雄叫びを上げながら俺に突っ込んできた。
「う、うおぉぉぉ!!」
アリフは勢いをつけたまま俺に斬りかかってきた。俺の左肩から右足の付け根にかけて斬る袈裟斬りをしてくるのが、動きから察知できた。
その為、俺は刀でその剣を受け止めて少し強めに弾いた。いや、弾いたつもりだった。
アリフは俺が剣を弾くとそのまま凄い勢いで場外へと飛んでいって壁に衝突してしまった。
え?何事?俺そんなに力込めてた?めっちゃ飛んでいったんだけど……。
アリフは場外に出たせいで失格。必然的に俺の勝利となった。
えぇ……。なんか釈然としない……。こんな勝ち方してもなあ。
観客達はぽかんとしている者から俺に対して羨望の眼差しを向ける者、罵倒を飛ばしてくる者もいた。
いや俺もこんな勝ち方をするはずじゃなかったんだがな。だがまあ初戦は勝ったんだ。とりあえず喜んでおこう。
こうして俺の初戦は勝利で終わった。
◇◆◇◆◇
ーside:ミルー
やっぱり彼は凄い。観客は分かっていないだろうが本戦に出場した選手全員はどれだけ凄いことなのか分かっている。
アリフという男は仮にでも本戦まで来れる程の実力があった。だけど彼はそれを軽く捻り潰した。驚かないはずがない。
初戦を終えた彼がリング上から戻ってきた。少し納得のいかない顔をしていたけど勝てて良かったと私達に言った。
次はあたしの番。この戦いに勝つと次は彼と戦える。あたしは彼と戦いたい。だからこの戦いは意地でも勝つ。
「あたし勝ってくる」
私はそう宣言してからリング上へ向かった。
リングには既にあたしの対戦相手、レイファンがいた。彼は赤象族で頭がキレると解説者の人が言っていた。
赤象族は六種族の内のひと種族。簡単には勝てないと思う。
あたしは気合を入れなおした。
「続いては、ミル選手対レイファン選手の対決です!!先程は衝撃的でありましたが、今回はどんな戦いが見れるのでしょうか!!」
「ミル選手はいかにレイファン選手の策を封じ込めるか、逆にレイファン選手は自分の策にミル選手をいかに嵌めていくかが勝利への鍵となるだろう」
あたしには策なんて何一つない。あるのは絶対に勝つという執念だけ。どれだけの策が練られていようと諦めない。
「では二回戦目、試合開始!!」
その合図と共にあたしは牽制のつもりで氷の針を飛ばした。しかし、やはりというべきか、それは完全に対処されてしまった。
「君はミルと言ったな。予選も見ていたがどうやら君は魔法に長けているようだ。しかし、それだけでは私を倒す事は不可能だ」
「そんなのやってみないとわからない」
あたしは自分の出せる最高の魔法を放った。それは深淵魔法。勇者との戦いの後に新しく取得した魔法。これは相手の精神までも闇に沈める。
深淵魔法の発動は対象にそのまま与えるのでタイムラグは殆どない。
「ぐっ……!私の中に何かが……!」
「これであたしの勝ち」
あたしは自分の勝利を確信した。最高の魔法を油断している時に出すことが出来たのだ。負けるはずがない。
だがあたしのその油断が仇となった。
「言っただろう……!魔法だけで倒すのは無理だと!お返しだ!」
レイファンは深淵魔法から抜け出した。そして、そっくりそのままあたしに深淵魔法を返してきた。
勝利を確信していたあたしはまさかこんなことになるなんて思いもしていなかった。
深淵魔法にかかり、精神が闇に落ちていく。頭の中で悪魔が諦めろと、もう勝てないのだからと囁いている感覚に陥る。
「人の忠告は素直に聞くものだ。……君を倒す為の策をいくつか練っていたのだが無駄になったようだ」
レイファンが語りかけてくる間も、あたしの精神が蝕まれていき、悪魔が直接殺しにくる幻覚まで見え始めた。
肌に感じる死という絶望。勇者と戦って死にかけたあの時以来の感覚。
そうだ。死に際に、皆を安心させるくらい強くなるとそう誓った。ここで負けたらこの誓いを守る事が出来なくなる気がする。
何がなんでも勝たなければ。自分自身に誓ったこの誓いを守る為にも。
その時、私の胸の奥が熱くなった。
今ならいける気がする。勝つ。この戦いに絶対。
「む、今君に何が起きた」
「何もない。ただ忘れてたことを思い出しただけ」
いつの間にか深淵魔法の効果は切れていた。
仕切り直しだ。次は油断も驕りも何もしない。絶対に勝つ。
「その目……。少し危険だな。早めにやらなければな」
あたしは短剣を取り出した。使える物は全て使う。利用できるものは利用していく。
「土魔法!土壁!さらに炎魔法!業火!」
レイファンはそう唱えてあたしを土壁内に閉じ込め、その中に炎を発生させた。炎が土壁内の酸素を奪って、息が出来なくなるのを狙ってのことだった。
だけどこんなはあたしに効かない。土壁に囲まれた瞬間に結界魔法を張った。
「魔力転化。ベース暴風」
短剣に風の属性を付加させて、その風を薄く長くする。乱回転する暴風の形を整える。そうすることで切れ味が増す。
そして、土壁を切りつける。いとも容易く壊れてくれた。
あたしはそのままレイファンに突撃する。
土埃が立ち込める中から、突如出てきたあたしにレイファンは少し驚いた後、冷静に武器を構え迎え撃ってきた。
レイファンの武器はハンマーだ。重量感のあるハンマーを軽々と持ち上げ、体の一部であるかのように扱っている。
あたしは魔力転化した状態で何度も斬りつけていたがレイファンには全て躱された。
レイファンはその躱している合間にも攻撃の機会を伺っていて、絶妙なタイミングで攻撃を仕掛けてくる。
私はかするくらいぎりぎりで躱して反撃するがそれもまた躱されてしまう。
「君の動きは単調故に読みやすい。しかし、その薄く伸ばしているその技……そんな技があったとはね」
レイファンは余裕の表情で、あたしにそんな事を言ってくる。
バカにされたあたしは魔力転化のベースを雷に変え、さらに予知予測のスキルを使うことにした。
予知予測のスキルは今まで上手く扱えなかったために使ってこなかったが、この大会の為に練習してきた。
「もう終わらせる……!」
あたしは短剣を投げるモーションに入った。
案の定、レイファンはそれを察知して回避行動を取る。
だがあたしの目にはどこに回避するのか見える。だからそこめがけて短剣を振りかざした。
振りかざしたのと同時に短剣に蓄積していた雷が放たれ、レイファンに吸い込まれるように当たって、貫通していった。
「がはっ!……ま、まさか当てられてしまうとは……!危険だ、これは危険だ、危険すぎる……!」
傷を負ったレイファンの様子が少しずつおかしくなっていく。
「負け?負ける?負けてしまう?馬鹿な馬鹿なありえない!ありえるわけがない!私は最高で至高で究極の人間なのだ!」
レイファンの姿がどんどん変わっていく。体が大きくなり、鼻が伸び、手足が象のように太くどっしりとしたものになっていく。
「許さん許さん許さん!」
そして、そこに現れたのは、完全に象となったレイファンだった。鋭くとがった牙に、全身を包む毛、そして、なんと言っても巨大な体躯。
あ、あたしの何倍も大きい……!
「お前なぞ私が捻り潰す」
レイファンは巨大な体躯に見合わず素早い動きであたしを踏み潰そうとしてくる。
あたしは踏み潰されないように距離を取ろうときたが、レイファンが地面を踏む衝撃で大きな地震が起き、まともに動けなかった。
ならばと、あたしは雷を全身に転化させて飛び上がった。雷速さで飛んだあたしをレイファンは見失った。
レイファンよりも高く飛び上がったあたしは、象とかしたレイファンの脳天に向けて雷の放出を図った。
「必殺!雷電!」
短剣から雷を投げるのとは比にならないほどの電撃を脳天に浴びせた。
電撃を食らって、体毛に火までついたレイファンは、その場に倒れた。
レイファンは徐々に人の姿へと戻り、完全に人に戻った時は泡を吹いて気絶していた。
勝った……!勝てたんだ!
「勝者、ミル選手!!」
あたしは司会者のその言葉を聞いてその場で気絶した。
◇◆◇◆◇
ーside:主人公ー
ミルが勝った!
初めの方はミルが劣勢だったのは見ていて分かった。だが途中からミルの目が明確な目的のために勝つというものになっていた。
よく頑張ったと思う。勝利が確定した時には魔力切れで、気絶してしまっていたし。
気絶したミルは係りの人に担架で運ばれ、救護室のベッドの上で寝ている。
本戦の戦いは予選とは比べ物にはならない。
俺も気合を入れなければ。
こうして俺とミルの初戦が終わった。