第74話 予選の七組目と八組目のようです
「はぁ。全く予選前からひと騒動起きそうになるとはなあ。俺の巻き込まれ体質も困ったものだ」
俺は一言呟く。さすがにあんな事がほいほい起きてたら俺でも辛い。平穏な日々を過ごしたいぜ。
「さて!予選第七組目が今始まろうとしています!!六組目の戦いを観客達は固唾を呑んで観ていた!!七組目はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!!」
今回はそんなに激しくはならないと思う。戦うのは俺じゃなくてシロだしな。
「シロ?おきてるか?」
「ウニャー」
「今起きたのか。まあいいシロ出番だぞ」
「ニャ」
シロは俺の頭の上で指示が出るまで待機している。あとはゴングがなればシロが動き回るだけだ。
「予選も終盤!!予選第七組目!!試合開始!!」
「よし。始まったな。シロお前の毒牙でやってしまえ。毒牙を使いたくないなら首を引っ掻いたりしてもいいぞ。とにかく倒してこい!」
「ニャー!」
ふぅ。発破をかけるのって案外難しいのな。でもとりあえずシロは無音で走り回ってるし、安心だ。
俺はシロの動きをしっかりと目で追った。シロはすれ違いざまに首の肉を噛みちぎったり、鋭く尖った爪で引っ掻いたりしている。
素早くて小さいのに無音で近付くのは効果が絶大なようで、誰もシロの存在を認知できていない。
これはシロの無双が始まってしまったようだな。俺の出番は無いみたいだし。目立たつ事は無いだろう。
「なんだなんだー!!誰も何もしていないのに次々に選手達が倒れていくぞぉ!!このリング上には何かが潜んでいるのかぁ!!」
「……!見えた!あれはマウスネコか!という事はこのリング上には魔物使いが潜んでいる!」
あちゃー。エルシャさんにバレた。どうしよう。バレたままシロに頑張ってもらうのもリスクが高いからなあ。シロが殺られたら俺、殺り返しちゃいそう。それも恐怖を刻み込んで。
俺はシロに念話で、戻って来るように言った。そりゃ誰でもペットが殺されるのは嫌だからな。
シロは俺が戻って来るように言ったらすぐに戻ってきた。さすがに血塗れの状態で抱えることは出来ないので、浄化魔法で綺麗にしてあげる。
シロが倒した数はざっと十五くらいか。まだ半分くらい残ってるな。どうやって倒そう。あんまり目立ちたくないんだが。
俺が残りをどうするか考えているとエルシャさんが会場に響き渡るほどの声を上げた。
「あー!!君はあの時の!!やっぱりそうだった!」
エルシャさんは俺を指差し確認をするように言った。他の選手は指をさされた俺を見る。
うん。まぁこうなるだろうと思ってた。しかも完全に目立ってしまったし。まあそれならそれで仕方がないか。
俺は開き直ってエルシャさんに向かって笑顔で手を振る。そして、エルシャさんにもらった未だに付けているイヤリングを指さす。
するとエルシャさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「解説のエルシャさん?どうされました?彼とはどんな繋がりが?」
「い、いえなんでも。色々ありまして」
んー。今は気にしてても仕方がないか。とりあえずぱぱっと終わらせよう。
じゃ、久しぶりに使うぜ、あのスキル。多分帝都に入ってまだ一回も使ってない。
その名も威圧!100%でやると制御不能になるからとりあえず半分で。……威圧!!
俺はリング上にいる選手に半分くらいの力で威圧をかけた。するとほとんどがその場で気を失い、戦闘不能に陥った。
「今いきなり何が起こったんだぁ!!選手の殆どが気絶しているぞぉ!!」
「これは彼の威圧だ。直に受けた私は分かる。……あれは酷かった」
エルシャさんまだ引きずってた!ごめんなさい!あれはちょっとした脅しだったんです!
「エルシャさん。威圧とはここまでの威力があるのですか?」
「人によってまちまちだ。威圧はその人の強さそのものをぶつけているだけだからな」
まあそういうことだ。だが俺はまだ半分の力しか出してないぞ。俺を含め残り5人。
俺の威圧に耐えた4人は足腰がぶるぶる震えている。耐えただけ凄いものなのだが、それ故に恐怖を感じてしまったか。
俺は楽にしてやろうと思い、さっきより少し強めの威圧をかけた。するとどうだろう。一人だけ耐えた者がいたのだ。
「ここで試合終了だぁ!!残ったのは圧倒的な強さを見せたロウリ・コーンと、必死で耐えた王都の冒険者ヤドックだぁ!!」
はっ!そう言えば俺ロウリ・コーンって名前だった!やめて!はずかしくて死んじゃう!
しかし、俺の耳は良すぎる嫌いがある。自然と入ってくるのだ。観客達の呟きが。
以下俺が聞いた呟きの一部だ。
「ロウリ・コーンって偽名よね?」
「ああ、多分ロリコンってことだぜ」
「ロリコンだと!?おい!そのロリコン魔物使いじゃなかったか!?」
「な、なんだよ急に。確かに魔物使いだったけどよ」
「俺は王都から来たんだが道行く街で噂されてたんだ。幼女を引き連れた魔物使いが街を救ったってな」
「おいおいなんだよそりゃ」
「それにだ。そのロリコンは王都の王女と結婚し、ある街を苦しめてた領主を断罪、世界の敵だったジャイアントアダマントタートルを一撃で殺ったっていう正義の味方らしいぞ」
「そんなの正義の味方なわけないじゃない!ロリコンよ!犯罪者よ!」
「いや、ロリコンは犯罪者じゃない。ただ幼女を見守る者がロリコンなんだ。死んでも手は出さない、それがロリコンの掟だ。それをあいつは実践してんだよ。世界の平和を守りながらな」
「なんてことだ……。この世界にはこんな正義の味方もいるのか。俺、今日からロリコンになるよ」
とまあこんな感じである。ツッコミどころが多くてツッコミしきれないがひとつだけ。
ロリコンロリコン言ってんじゃねぇよ!俺ロリコンじゃないから!それと、なにロリコン布教してんだよ!やめとけ!
俺は観客席にいる女神を睨んでからリングを降りた。睨んだ時に観た女神の大笑いした顔を覚えとこう。あいつにはお仕置きが必要だ。
「続いては予選最後の組!第八組目です!!」
おっと、リングにいすぎたか。早く戻らないと。
控え室に戻っている最中にレンとすれ違った。レンは一言一瞬で終らせますと言ってリング上に上がった。
えっ。何するの怖いんだけど。
俺は一抹の恐怖を抱えながら八組目の戦いを観戦する。
「今日最後の戦いだぁ!!予選第八組目!!今回の武道会はレベルが高い!!第八組目も魅せてくれるのか!!では第八組目、試合開始!!」
俺は開始直後からレンの行動に注意してみていた。
開始早々レンは宙に浮き始めた。飛行のスキルを使っているのだろう。そして、ある程度登ったところで静止し、ある魔法を呟いた。
「連続魔法。聖光」
レンは下にいる選手に向けて一つも外すことなく光の柱を当てていく。
光の速さは目に追えないため、避けようと思っても避けることが出来ない。しかも連続魔法だ。次の魔法が発動するタイムラグがない。誰かに当たったのを見てから行動しても時すでに遅し。
確かにレンの言った通り、一瞬で終わってしまった……。
「いきなり!!いきなり終わってしまったぁ!!またしても少女だ!!今大会は少女が強い!!」
「むっ。少女以外にもう一人生き残っている奴がいる」
あ、確かに……ってロニさん!?あの人の結果魔法が何重にもなってる!!もしかしてそれで耐えたのか!
「片翼の翼のロニか。あいつは魔法の使い方は天才的だからな。当然と言ったら当然かもしれん」
「という事は……!!第八組目生き残ったのは瞬殺の少女レンと、片翼の翼のロニだぁ!!この二人には本戦出場の権利が与えられる!!」
これで出揃ったわけか。それで肝心の本戦はいつだ?明日?
「これにて予選は終了だぁ!!観客の皆は楽しんだだかぁ!!」
「「「うおぉぉおお!!」」」
「本戦は明日からだ!!明日もよろしく頼むぜぇ!!」
「「「わあぁぁぁああ!!」」」
どうやら本戦は明日のようだ。まあ妥当だろうな。
レンは司会の人が観客達に話しかけている時に控え室の方に戻ってきていた。今思えば、俺のパーティメンバーの大会参加者は全員本戦出場したわけだ。
えっ。なにそれ今思えばやばい。こんな状態で街に出たらどうなるか。先が見えてしまう。
「ねえねえマスター。宿に戻ろー」
「あ、ああそうだなゼロ。皆で戻るか」
俺が腹を括っていざ控え室から出ようとした時、この控え室に大慌てで入ってくる人がいた。
「ここにロウリ!ロウリ・コーンはいるか!」
ははは!ロウリ・コーンって誰だよ。……知ってるよ。俺だろ。
「ここにいますけど……。それとロウリ・コーンは偽名なのであんまり呼ばないで!」
「あ、ああすまない」
「ん?あ、エルシャさんじゃないですか」
自暴自棄になっててエルシャさんだって気づかなかった。
「少し時間いい?話たいことがある!」
俺はエルシャさんのその言葉にただただ唖然とするだけだった。




