番外編第2話 権利をめぐって争うそうです
勇者との戦いが終わって、ミルが魔王を呼んだ直後。彼は気絶するかのように眠ってしまった。
「マスター寝ちゃったねー」
「あれだけ深い傷を負ってたんですもの仕方ないわ」
「その傷塞がってきてる……」
「主様には自己再生のスキルがあるみたいですのでそれが発動しているのでしょう」
「あるじさま大丈夫かな……」
「きっと大丈夫よ。何せこの人だもの」
少女達が眠っている彼を囲んで話していると魔王がやってきた。
事情は勇者のタクマが知っていたようで率先して話をしている。
事情を聞いた魔王は先に勇者達を魔王城に送って、次に少女達と一緒に魔王城へ戻った。そして、魔王城に着くと魔王は少女達の方を見て言った。
「君達には辛い戦いだったろう?充分に休んで、傷を癒すといい。部屋は昨日使ったところを使ってくれて構わないよ」
「……ありがとうパパ」
「私は何もしてないよ。……じゃあ私は勇者の方に行かないといけないからまた後で」
そう言って魔王は勇者の方へ向かった。残された少女達は今からどうするかを話し始める。
「い、今からどうするの……?」
「あたし疲れた」
「そうね……。魔王が言ってたように部屋に戻って休んだ方がいいかもしれないわね」
「主様の事もありますし、その方がよろしいかと」
「じゃみんなでマスターの部屋に行こー!」
少女達は協力して眠っている彼を部屋に運んだ。そして、彼をベッドに寝かせようとした時、少女達はある事に気づいてしまった。
「マスターの服血だらけだよ?そのままでいいの?」
「確かにこのままではいけませんね」
「じゃ、じゃあどうすればいいの……?」
「そんなの1つしかないじゃないの」
「彼の着替え……!」
「マスターの服を脱がせるのー?」
「そうよ。問題は誰が脱がせるかだけど……」
「あたしやる」「私がやります」「やるー!」「わ、わたしが……」
「物の見事に被ったわね」
「そういうジュリ様はどうなのですか?」
「もちろん面白そうだから私もやるわ」
そして、少女達の雰囲気が少しずつピリピリとしてくる。
「あたしが一番早くやるって言ったしあたしでいいと思う」
「でもマスターの血に気づいたのわたしだよー?」
「ですが私がやった方がミル様やゼロ様より何事もなくいけると思います」
「「むっ!」」
「わた、わたひがぬがしぇる!」
「リン?あなたあまりにも興奮しすぎて舌が回ってないわよ?」
「わたひがやりゅ……」
「……リンはもうダメね。私の声が届いてない」
「わたひがやりゅー!」
「あ!リンちゃんが抜けがけしたー!」
「はっ!リン様を見ておくのを忘れてしまってました!」
「リンを抑えないと……!」
少女達は眠っている彼に気を配る様子もなく騒ぎ立てる。その中でジュリが何かを閃いた様だった。
「皆で脱がせるところを分担したらいいんじゃないかしら?」
ジュリのその一言は少女達に大きな衝撃を与えた。確かにそれならば全員が彼の着替えをさせることができる。
「でもこれも問題があるのよね……。誰がどこを脱がせるかっていう……」
「「「「パンツ!」」」」
ゼロ、レン、ミル、リンがの4人が一斉にそう言った。
「皆がっつりいくわね……。さすがの私も驚いたわ……」
「これはもう戦うしかない……!」
「そうですね。誰が主様のパンツを脱がせる権利を得るか勝負です!」
「あ、あるじさまのパンツは譲らない……!」
「楽しそー!わたし絶対勝つのー!」
「それ面白そうね。私もやろっと!」
そうして彼を部屋に置いたまま、彼のパンツをめぐっての戦いが始まる。
「でも、勝負って何するつもり?あんまり激しいことは出来ないわよ?」
「やっぱりここは大食いで……」
「それだとミル様の勝ちが見えています。公平な勝負を望みます」
「だ、だったらレース……とか?」
「レースもミルが強いから公平とは言えないんじゃないかしら?」
「じゃあどうするのー?」
「……私にいい考えがあるわ」
そういったジュリに皆が耳を傾ける。
「私が元いた世界ではトランプというものがあったわ。そのトランプを作って、大富豪をするわよ」
「トランプ?大富豪?なにそれー?」
「今から説明するわ」
そして、ジュリはトランプとはなにか、大富豪とはなにか。そして、大富豪のルールを説明した。今回は初めての人が多いのでローカルルールは八切と11戻し、革命だけだ。
「これならちゃんと順位が決まるしいいでしょ?」
少女達は頷き、早速トランプ造りに取り掛かる。厚紙とペンがあれば出来るので大した時間は取らない。
トランプ造りは彼の部屋ではなく机のある部屋で行った。さすがに厚紙は無かったので代用品として樹木魔法で出した薄い木の板を使う事にした。
そして、出来上がったトランプを使って大富豪を始める。順番は時計回りに、
ジュリ→レン→ゼロ→ミル→リン→ジュリ
になった。
ゲーム序盤は順調に回っていた。そして、中盤になり勝負が動きだした。
手札はジュリとレンが5枚、リンとゼロが4枚、そしてミルが9枚。どう見てもミルが劣勢だ。
「八切……!からの11戻し…!」
「うぅ……弱いのほとんど出しちゃってる……。9で……」
「甘いわね。3を出せば私のターンよ。……正直処理に困ってた奴だったからよかったわ。じゃ一回流して7」
「私の番ですね。私は10を」
「じゃたわたし13!」
「あたしは2」
「ここでまた一回流れね」
またミルから始まる。
「4を2枚出し」
「うー……パスします」
「10を2枚だすわ。これで私はあと1枚」
「私はパスします」
「わたしもパスなのー」
「1を2枚……!私の手札はこれで2枚」
ミルが出してから、全員がパスをした。
「これで私の勝ち……!八切からの5!」
一番最初に上がったのはミル。
「手札を貯めてた甲斐があった…!」
「まさかミルがはじめに上がるなんて思ってなかったわ」
「むぅ……。ミルちゃん勝負になると強い……」
「……あとは上がった順で彼の好きな所を脱がせることにしましょうか」
それからはジュリ、レン、ゼロ、リンの順で上がった。
「これでパンツはあたしのもの……!」
「ものじゃなくて権利よ。それだとただの変態になるわよ?」
「ん。そうともいう」
勝負の終わった少女達は彼の部屋に向かった。そして、彼の部屋に入った少女達はある光景を見て唖然としてしまった。
そこには既に着替えが終わり、ベッド上に寝かされている彼と、その隣に彼の着ていた服を持った魔王がいたのだ。
「おや?君達どうしたんだい?」
「パパ?その手に持ってるのは……?」
「ああ、これは彼の服だよ。血まみれだったから私が着替えさせたんだ。こんなの私にとったら簡単な事だからね。…………な、なんで君達はそんなに殺気だっているのかな……?」
「パパ……。ちょっとそこから動かないで」
「……ミル?なんだいその握り拳は?どうしてそれが私に向けられてるんだい?」
「ちょっとお仕置き。……てい!」
「ちょっまっ…グフッ!」
ミルの軽快な声とは裏腹に、正確に鳩尾を狙った鋭いパンチがクリーンヒットした。
「うわぁ。魔王さまいたそー!」
「まぁこれくらいにしておいてあげましょう。あんまりやりすぎると魔王様がかわいそうです」
「せっかくいいチャンスだったのになぁ……」
「さ、彼ももう着替えちゃったし、私達も休みましょうか」
少女達はその場にうずくまる魔王を放置して自分達の部屋に戻っていったのだった。