第45話 俺VS少女達のようです
馬車に揺られて約4日。
俺達はその間何をしていたのかというと、寄ってくる魔物を倒したり、第2回レース大会を開いたりだ。
これを見る限りまぁまぁ退屈しないようにやってきたみたいに見えるだろう。
だがしかし。魔物なんて日に1回来るくらいで、レースなんて4日の内の1日しかしていないのだ。
これを退屈と言わずしてなんというのか。
そして、その退屈を感じる皆はどうなるのか。
こうなります。
「マスター!わたしと戦ってー!」
「だからさっきから言ってるだろ?なぜ俺と戦うんだ?他にもいるだろう?」
「…わたしたちと戦ってー!」
「ちょっと待ちなさい。その言い方だと俺対皆みたいになるじゃん」
「それ楽しそうね。私も参加させて貰うわ。ちょうどいい、暇つ…体の運動にもなるしね」
「ジュリお前今、暇つぶしって言おうとしたろ?」
「…いえそんなことないわ」
「今の間はなんだ…。目を逸らしても無駄だよ!」
「あたしも参加する…。暇つぶしになるし…!」
「ミルは完全に暇つぶしって言っちゃったよ!」
「それじゃあ、リン様。私も参加しましょうか」
「うん!わたし達の実力も分かるしね!」
「えぇ…。これって戦うのもう確定なの…」
どうですかね?この身勝手ぶり。
いや、まぁ他の人に迷惑がかかってる訳じゃないからいいんだけどね…。
こいつら俺の意見なんてちっとも聞かないんだぜ…。
もうちょっと俺に優しくてもいいと思います。
「それじゃ今から戦いましょうか?」
唐突に今から戦うと言い出したジュリ。
「えっ?今からって?馬車はどうするんだよ?」
「先に進んで貰って構わないと思うわ。なにかあればあなたの感知に引っかかるだろうし、戻ってくるにも転移をすればいけるでしょ?」
「……確かに出来ないことはないな…」
「今からやる…!」
そう言ってミルは馬車から飛び降りた。
って、気がはえーよ!まだ馬車止まってないじゃん!止まってもらってからでもよくね!?
俺の叫びは届かず、ミルのあとに続いて皆が飛び降りていく。
はぁ…。しょうがない…。馭者の人に事情説明して先に行ってて貰うか…。
俺は今までのやり取りを掻い摘んで説明して、とりあえずOKを貰った。
そして俺も馬車から飛び降りる。
………。既に俺の体は走行中の馬車から飛び降りても何ともないくらいになってしまったのか…。
俺も強くなったなぁ。
「ミャ?」
「シロは俺の服の中にはいっておくか?」
「ミャ!」
「よしよし。ほれ。おいで」
俺がシロと話していると、少女5人が横に並んでこっちにやって来た。
「マスターおそいー!」
「しょうがないだろ?馭者の人にも説明しとかないといけないんだから。寧ろお前達達が速すぎなんだよ」
「そんなことはどうでもいいから始めましょう?」
「早くやりたい…!」
「どうしてこうお前達は脳筋なのだ…」
レンとリンを見てみろよ…。ふたりは仲睦まじく話し合ってるぞ?
「……私が転移した時に…………そしてそこで……」
「……なるほど…そこでわたしが…………」
おぅ…。こいつら念入りに作戦を練っていただけだったわ…。
はぁ…。皆やる気なのか…。じゃあ俺もちょっとだけやる気を出すか…。
「よし!じゃあ俺はここから動かないから、いつでも好きな時にかかってこい!」
少女達5人が一斉に殺気立つ。
こわっ!?なんでそんなに殺気立ってんだよ!?俺を殺す気か!?
「ちょ、ちょっと皆さん?とど、どうして殺気立ってるのかな?」
「主様にはこれぐらいでも足りないくらいですよ」
「えぇ…。殺気をぶつけてきてまだ足りないとか…!?」
突如、後ろから殺気が襲ってきた。
俺は咄嗟にしゃがんで、後ろから来る攻撃を避けた。
上を見るとちょうど俺の胸があった所にゼロの拳があった。
今のは転移で背後に回ったのか。俺が話しているスキを突くとはやるな。
ゼロは攻撃が当たらなかったと分かると、すぐに転移で離れていった。
状況判断もちゃんと出来てるな。感心感心。もしそのままだったら俺が拳を掴んで投げ飛ばしてた。
すると感知に左右ひとりずつ引っかかった。この反応はレンとリンだな。
ちゃんと殺気を消せている。それにふたり同時に左右からとは考えたな。
俺はふたりの攻撃を見切り、突き出されたふたつの拳を体を捻って躱かわし、その拳を掴む。
「いい攻撃だが、まだまだだな!」
俺は掴んだ拳を引っ張ってレンとリンの頭同士をぶつけた。
うわぁ痛そう。って俺がやったんだけどね。
「あなた容赦ないわね」
「まぁ戦いだからなぁ。負けたくないし」
「そうね。それじゃここからが本番かしら?この話しているうちに支援魔法も皆にかけ終わったし。皆もいくわよ?」
「ん」「うん!」「はい」「がんばります!」
皆の雰囲気が変わったな。これは俺ももうちょっと本気出した方がいい気がする。
「じゃあ俺も動くとしますか」
俺がそう宣言するのと同時に、ジュリが召喚魔法でホーリーナイトを4体呼び出す。
更にミルが結界魔法で、俺とホーリーナイト4体を囲み逃げれないようにする。
ホーリーナイトは上、下、前、後ろの4方向から俺を狙って攻撃してくる。俺はどうにか躱していくが時々掠ってしまう。
さすがに4対1はきついか…!躱すだけじゃなく攻撃を仕掛けていけば…!
俺は前から攻撃を仕掛けてくるホーリーナイトの攻撃を躱しスキを見て殴り、1体消滅させる。同じように2体消したところで、結界内に魔法が放たれた。
これは氷魔法と暴風魔法か…!支援魔法で規模が大きくなってるのに、それを連続で放ってくるとは…!
さすがに魔法を避けるのは厳しいのでこちらも魔法を使っていくことにする。
俺は全力の火炎魔法を自分の周りに纏い、氷と風から身を守る。俺には炎無効があるので熱くはない。
「これでもダメ…」
「私達の全力の魔法がいとも容易く防がれるとは…」
「まだ諦めるの早いわ。私の支援魔法で皆はさっきのホーリーナイトの3倍以上のステータスにはなっているはず。全員で接近戦を仕掛けるわよ!」
さっきのホーリーナイトですらちょっと危なかったんだけど?俺大丈夫かなぁ。
俺を囲んでいた結界が消えると同時に全員が突っ込んで来た。
速い…!さっきまでのようにやってるとこっちがやられる…!
俺は思考加速を使う。そのおかげで皆の動きが少し遅くみえる。
思考加速は自分の動きも遅く感じるので、その分の速度をあげる。
そして真っ先に突っ込んで来たレンを捕まえようとした時に姿が消えた。そしてレンの影になって見えていなかったところから、リンが槍になって飛んで来ていた。
俺はすぐさま転移を使い、リンの射線上から逃れる。
するとジュリは俺の思考を読んでいたのか、俺の転移先で構えていた。
ジュリは既に攻撃のモーションに入っている。
これはさすがに躱すことはできそうにないと感じた俺はジュリの攻撃をガードした。
この一瞬、俺の動きが止まり、そのスキをみたミルがアイスランスの様な物を俺の頭目掛けて放ってきた。
俺は攻撃を受けた反動で動けなかったので、同じアイスランスを作って相殺した。
するとゼロがスライムになった状態で俺の足元に転移してきて、俺の足と地面にくっついて取れなくしてきた。
これで俺は身動きが取れなくなった訳か…。よく考えたものだ。俺じゃなかったらこれで勝ってたな。
動けなくなった俺に、ゼロ以外のみんなが一斉に攻撃を仕掛けてくる。
俺もこれで終わりにするか…!
とっておきの技!威圧!!!
俺は8割程度の威圧を皆にぶつけた。すると皆の動きが止まる。俺はその間に、固定が緩くなったゼロが抜けだし、ゼロを捕まえ、そこから俊敏強化をフルに使い、ひとりずつ捕まえた。
「これで俺の勝ちだな」
「威圧なんて卑怯よ…」
「くやしい…」
「マスターの威圧強いのー…」
「主様にはどうやっても勝てる気がしません…」
「い、威圧こわかった…」
まぁ。最初からこれすれば勝てたんだけど、それじゃ皆の実力が確認出来ないからな。
「皆も強いと思うがなぁ。特に支援魔法掛けた後とか。ジュリに殴られた時とかめっちゃ痛かったんだが」
「それでも平気そうだったじゃないの…」
「でも他の冒険者とかなら余裕で倒せるだろ」
「…弱いやつを倒しても意味ない…」
「お、おぅ。そうか…」
なんともまぁ向上心のあることで。
「まぁ俺を倒せるように頑張れよ?」
「いつか勝つ…!」
「マスターに勝てるくらい強くなるのー!」
「そうですね。主様だけに負担をかける訳にはいきませんし」
「…レンちゃん…!…それは内緒…!」
「そうでした。すいません」
「次こそは皆で勝ちましょうね」
ジュリの言葉に強く頷く少女達。
俺が負ける時はボロボロになってるんじゃないだろうか…。そんなのはいやだなぁ…。俺も頑張ろ…。
「ミャア」
「シロは大丈夫だったか?」
「ミャ!」
「大丈夫そうだな。よかったよかった」
シロはまた俺の頭の上に乗った。
「よし!それじゃ戦闘も終わったし馬車に戻るぞ!」
「うん!」「はい」「ん」「分かったわ」「はい!」
こうして俺対少女達の戦いは終わった。