最終話 異世界に転生したので楽しく過ごすようです
タクマ達が元の世界に戻って行った。それだけで少しの寂しさがある。
「行っちゃったねー……」
肩を落として元気なく言うゼロ。
「タクマ達は元々、元の世界に戻るために戦ってきてたからな。こうなるのは必然だったわけだが、やっぱり居なくなると寂しいよなあ」
「まあそうね。私達を忘れてるって考えたら尚のことね」
「あいつらの事だ。記憶は無くなっても心でとか言うんじゃね? あいつら勇者だし」
記憶は戻らないらしいけど、何となくタクマ達ならそんな感じになってそうな気がする。
タクマ達の記憶は転生陣が発動した時点で、脳から吸い出して霧散させているって魔王様から聞いた。
俺には良く分からないが、医療関係が更に躍進を遂げると魔王様が興奮していたから、相当なものなのだと思う。
「さーて! このままどこか行くかなー!」
「主様にはまだお仕事がありますよ?」
「……さーて! このままずっとどこか行くかなー!」
「主様には、シャール王女様とエルシャ様との結婚というお仕事がありますよ?」
「……行かなきゃダメ?」
「駄目です。私達も結婚させて貰いたいですから」
「ちょっと待った。その話初めて聞いたんだが?」
「初めて言いましたから」
「それって明らかに違う意図的――」
「いいえ」
「で、でも――」
「いいえ」
「だから――」
「いいえ」
「……もうそれでいいです」
レンの気迫に負けた俺。情けないと思うが、あれに勝つとか無理な話だ。
「しかしな、結婚したいって言うが全員が全員式を挙げる訳じゃないんだよな? な?」
「いえ、恐らく全員かと」
「……何人だ?」
「私、ゼロ様、リン様、ミル様、ニーナ様、詩織様、シロ様、シャール王女様、エルシャ様の計九人ですね」
「俺は逃げる!」
「あっ! 誰か主様を取り押さえてください!」
俺には九人とか無理だ! 第一、結婚って人生で一回挙げれば充分だろ! なんでこんなにしないといけないんだ!
心の中で悪態を吐きながら魔王城を抜け出す。
「こら護琉! 逃げるなんて酷いでしょ!」
「くっ詩織か! いくらお前でも俺は逃げる! 九回も式を挙げたら俺は死ぬ!」
詩織から逃げる為に転移で遠くに行く。
「もう! 断るならちゃんと断わりなさい!」
「断るのは無理だったから逃げてるんだよ!」
転移した先に詩織が転移してくるの繰り返し。
あの戦争の後、詩織は女神としての力を失ってただの人間と同等の存在になった。
その事もあり、今まで神の制約があったものが綺麗さっぱりなくなって、今ではこうして俺達と共に行動している。
女神も第二の人生を楽しむそうだ。神の力が少し使えるから生活には苦労しない。というか、自分で言うのもなんだが、戦争後に英雄などと担ぎ上げられ、金なら有り余るほどある。
俺の仲間ぐらいなら簡単に養えるのだ。超優良物件と言ってもいいくらい。
ただ、俺としては英雄と呼ばれるのは勘弁して欲しい。
事あるごとにどこかの誰かが英雄が来たぞとか言って俺の元に人が集まってくるのだ。
そんな状態で、王から全国回れと言われた俺の絶望といったら世界が破滅するんじゃないかって程だった。
「はい、捕まえた! 捕まったんだから大人してなさいよ?」
「くっ……どうしてこんなに肝心な時に力が使えないんだ……」
「護琉のスキルって特殊だからね。本当に重要な時しか使えないんだと思うよ?」
「今この時は重要な時ではないのか……」
「自分の気の持ちようだから、護琉は案外嫌だって思ってないんじゃないの?」
「なん……だと……」
衝撃の事実が発覚した。
どうやら俺は皆と結婚式を挙げたいらしい。
「俺ってこんなに節操なかったっけ……?」
「まぁ天然でそういうとこあるよね。地球の時はそんな事なかったのにね」
「自分の事は良く分からん……」
自分の知らなかった事実に項垂れる。天然って……自分じゃそんな事してたつもりなかったんだが……。
「おっ、皆来たよ」
「とうとう地獄への入口を開いてしまったか……」
「何を言ってるのかしらこの男は」
「この人の事だからどうでもいいことだと思う」
「で、でも地獄ってどういう事なんでしょうか?」
「リン! それ以上突っ込むな! 俺の命がやばい!」
「へぇー。なんで命がやばくなるのか聞いてもいい?」
「フェイ? な、なんで獣神化してるんだ?」
「いやーなんか私達が悪魔みたいなこと言ってたから」
「それは言い掛かりだと思うぞ! 俺は別にお前達の事を悪魔とは思ってない! ただ地獄への案内に――はっ! これは誘導尋問! してやられたかっ!」
「なるほど。主様は私達の事をその様に見てたんですか」
「シロも地獄の杏仁豆腐? なんか美味しそう!」
「シロさん、案内人ですよ。マモルさんは私達が怖いみたいです」
「えー全然そんな事ないのに」
よし! 皆の視線が他を向いている今のうちに逃げだ――
「そうとしても無駄よ? 私が思考読めるの忘れた訳じゃないわよね?」
「くっ……八方塞がりか……」
「何を世界の終わりみたいな顔をしてるのよ。この世界はこれからなのよ? あなたが世界の中心になってね」
「俺はそんな事望んでないんだがなぁ」
「あなたが望んでなくても、世界が望んでるの。だからあなたには私達と結婚する義務があるのよ」
「ちょっとまて、それは何かおかしい」
「主様は子供どれくらい欲しいのですか? やはり一人につき三人くらいですか?」
「レンよ。勝手に飛躍した話をするのはお前の悪い癖だと思うぞ。良く考えてみろ。もし全員と結婚した場合に全員との子供が三人もいたらどれくらいの数になると思ってるんだ。既に結婚してる二人に合わせて、プラス九人。計十一人との子供とか優に三十を超えるぞ?」
「主様なら大丈夫です」
「なんで言い切れるんだよ……」
「主様だからです」
俺だと大丈夫らしい。何故なのかさっぱり分からない。レンの頭の中では全て順調にいくようだ。
そしていつの間にか皆は俺との子供の話を始めてる。気が早いったらない。
なんというか、こういうのは男としては嬉しいのかもしれないが、この先の事を考えると色々やばい。
流石に俺が色々ともたないはずだ。世間一般的に言っても俺はただの一般人。特別なのは異世界から来たという少数派という事だけ。
だからこそ色々と無理なのだ。
「この際皆が結婚したその日の夜に全員でしましょうか」
「は、恥ずかしくない?」
「夫婦になるんだから恥ずかしがってもいつかはやる事になるのよ? 今のうちに慣れればいいわ」
「そ、それもそうね。じゃあ今日中に全員結婚を済ませてしまえば……」
「今日の夜にやる事になるのよ」
なんか不穏な話が聞こえてきた。全員でやるとか何とか。
夜にやる……? 多分枕投げだな。絶対そうだ。間違いない。
「じゃあ全員でセッ――」
「それ以上は言うな! せっかく考えないようにしてるんだから!」
「別にいいじゃない。減るもんじゃないのだし」
「俺の寿命が減るわ! ちょっとは俺の身体の事を考えてものを言おうか!」
「もしもの時は復活魔法とか色々使うわよ。心配しなくてもいいわ」
「そんなの心配してくださいって言ってるようなもんなんだが……」
「まぁそんな事はどうでもいいのよ。取り敢えず今日は結婚式の日なんだから大人しくしてなさい」
俺は力で取り押さえられる。女性に勝てないのは何故なのか。このままじゃあ俺の家系は男が弱くなってしまう……。
「あら、やっぱりなんだかんだ言って私達との先を考えてくれてるのね」
「んな! こういう思考は読むんじゃない!」
今後産まれてくる男の子には済まないが、俺の家系は男が弱くなるのはほぼ確定だ。
だが、知ってて欲しい。俺が弱いんじゃなくて、皆が強いだけだって事をな。
こんな状況だったが、俺は未来の自分を憂いながら、今この瞬間が楽しければそれでいいかなどと考えていた。
いつかこの日も笑い話に出来る日が来るだろう。そうなれば嬉しいと思う。
まだ来ない明日を想いながらそんなことを思った。
◇◆◇◆◇
「あっ! もうそろそろ時間だよー! シャールとエルシャが待ってるー!」
「もうそんな時間なのね。じゃあ行くわよ」
「嫌だぁぁ!!」
「子供みたいにごねても無駄よ」
「うわぁーー!!」
護琉は子供みたいにじたばたしてる。
そういう所が本気で嫌がってる訳じゃないってことを護琉は考えてないんだと思う。
「じゃあ行くわよ」
「なんでこんな事になるんだぁ! 俺はただ楽しく過ごしたいだけなのにぃ!」
「そんなの結婚後でも出来るわ」
「それは楽しくじゃなくてしあわ――って! また誘導尋問かっ! 恥ずかしいこと言うところだったわ! 気が抜けねぇな!」
護琉も少なからずこの先が幸せになる事を予感してるみたいだった。
自分では最後まで言ってないつもりでも、私達からすればそれは言ったと同義だ。
彼がそういうなんて嬉しいと皆思っているはず。私だってそうだ。
「俺はこんな事をするためにこの世界に転生した訳じゃないのに……」
「はいはい分かったから行くわよ」
そうして私達はまだ見ぬ未来へ進み始めた。
ただ護琉だけはちょっと違う。未来へと進むのと同時に、したい事があるみたいだった。
この先、どんな事が待ってるか。何が起こるのか。それが楽しみだって言った。
せっかく異世界に転生したんだからもっと魔法を極めたいとか、知らない場所に行って遊びたいとか、そんな事も言ってる。
どうやら護琉は――異世界に転生したので楽しく過ごすようです。
いつまでも彼が楽しく過ごす事が出来る、そんな日が続きますように――。
一応の完結です。
今までお付き合い頂いてありがとうございます。
最初は見切り発車でしたが、自分の中ではまあまあの出来になったのではと思っています。
もしかしたら、護琉達の後日談の様なものを書くことがあるかもしれません。その時はまたちょっとずつ更新します。
よろしければ「ねこと一緒に転生しちゃった!?」という作品も読んでくださると嬉しいです。
それでは、またいつかお会い出来る事を、特に「ねこと一緒に転生しちゃった!?」でお会い出来る事を願って。