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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第11章 過去そして護るべきもの
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第187話 過去その一、のようです

 俺は堕ちた女神となったシオリを見つめていた。


 何故こんな事に……。


 奇跡とも呼べる再会をしていたというのにどうして……。


 元に戻ってくれるならとそう願う。


「シオリ……」


 自分はこんなに弱々しい声を出すのかと思ってしまった。


 彼女がまた居なくなった事で、あの後と同じ様な状態になっているのかもしれない。


 酷い喪失感にかられていると、堕女神が俺を捉えた。


『ここに絶望の一方手前のニンゲンがいるではないか。お前を初めとし、この世界に絶望を振りまくとしよう』


 そう宣言した堕女神は、俺に手をかざした。


「シオリッ!」


 俺の呼び掛けも虚しく、堕女神の手から黒い光が漏れる。


記憶の迷宮(メモリーラビリンス)


 その呟きで暗黒の光が俺に降り注ぐ。


「ああぁ、あああぁぁああぁああ!!!」


 極めて深い絶望と、抜け出す事の出来そうのない恐怖に叫び声をあげた。


 身体が震え、立つことが困難になる。


 膝を着くと意識が朦朧とし始め、目が霞む。


 そして俺は昏倒し、絶望の海へ放り出されたのだった。



◇◆◇◆◇



「――っ! これはっ!」


「主様の以心伝心と共有!?」


「これは一体……? 知らない誰かの光景が頭に浮かぶ様だけど……」


「パパ、これはあの人のスキルの効果。自分の考えを相手に伝えるもの」


「彼はそんな事が出来るのか……」


「でもこれは……」


 今まで彼の以心伝心と共有のスキルを受けていた者達は困惑した様な顔を見せる。


 その様子を見て不思議に思う人達がいた。フェルトとレオンの二人だった。


「ねぇ、お姉ちゃん。どうしたの?」


「私達も含めて皆に見えている光景がおかしいの」


「そうなの?」


「今までこのスキルで伝わってくるのは、彼の考えている事とそれに伴う感情だけだった」


「じゃあこの光景は……」


「うん。私達も初めての経験よ」


「お、おい。これなんだよ。なんでこんなに悲しみに溢れてんだよ」


「私達にも分からない」


 彼の過去について知っているものは、長く付き添っていた少女達にも、彼と深い関わりがあった者達にも、誰一人としていなかった。


『な、なんだこれはっ! なぜニンゲン風情が我にスキルを使えるんだ!』


 彼の見せる光景は堕女神にも見えていた。堕女神の言う様に、絶望を司る堕女神にはニンゲンのスキルは通用しない。


 しかし、事実として堕女神へスキルが通っている。


 堕女神の中にシオリの心が残っているのか、それとも彼のシオリを思う心が神の理をも超えたのか、あるいはその両方。


 その奇跡が堕女神へ過去を見せる事になっていた。


 そして、彼の記憶を見ている者達はその光景に見入る。深い絶望と抜け出せぬ悲しみのその物語に。



◇◆◇◆◇



「遊びに行こー!」


「うん! 今日もいつもの公園でいいの?」


「そう! 早く行こー!」


 しおりちゃんはそう言って僕に背中を向けて走っていく。


 僕よりも足が早いしおりちゃんはどんどん先に行ってしまう。


「待ってよー! しおりちゃーん!」


「もぉー、まもるは遅いなー」


「しおりちゃんが速いの!」


「しょーがないなー。ほらゆっくり行ってあげるから」


 しおりちゃんは僕のペースに合わせて走り始める。


 僕達が今行こうとしているのは、家から近くの公園。僕達のいつもの遊び場だった。


 小学生になってからはお母さんがいなくても遊びに行ってもいいってなった。


 今日も学校が終わってから遊びに行く事になった。この時間は公園に人はあんまりいないから遊び放題だ。

 

 人数が多い時は鬼ごっことか、缶けり、大縄跳びをしてる。家でじっとしてるよりも楽しい。


 でも今日はしおりちゃんと二人っきりだから遊べる遊びが少なくなる。ちょっと悲しいけど、遊べるのが好きだから、何も感じない。


「「着いたー!」」


 二人で両手を上にあげて、喜んでいるポーズをした。しおりちゃんと二人の時だけいっつもしてる。


 ちょっと恥ずかしかったけど、慣れればなんでもなかった。


「「こんにちはー」」


「……こんにちは」


 僕達は最近この公園のベンチに座って新聞を読んでる男の人に挨拶をした。


 実は、僕はこの人がきらい。なんでか分からないけど、僕を見る目が時々怖い時がある。


 今日、公園にいるのはこの男の人だけみたい。お母さんに何かあったら近くにいる人に助けてもらいなさいって言われてるから、多分大丈夫。


「今日は何するの?」


「んー、かくれんぼ!」


「じゃあジャンケンに負けた方が鬼でいいよね?」


「いいよー!」


 僕としおりちゃんでかくれんぼをする事になった。


 ジャンケンの結果は僕がグーで、しおりちゃんがパー。結果は僕が負けで、鬼になった。


「ちゃんと百数えてね!」


「分かった!」


 僕はしおりちゃんに言われたように数え始めた。




「・・・98、99、100! もーいいかーい!」


 ちゃんと100まで数えた僕はしおりちゃんの返事を待つ。


「もーいーよー!」


 返事が聞こえてきた僕はしおりちゃんを探すために動き始める。


 この公園はちょっと広くて、探すのにつかれる事が多い。


 僕は滑り台の上とか下、中が空洞の山とか、木の後ろとか木の上を探していく。


 だけど全然見つからなくて、長い時間が経っていく。


「しおりちゃーん! どこー?」


 当然返事は聞こえない。


 今度はベンチの下とか、今までちゃんと見てこなかった所を探してみた。


「うーんいないなー……。どこだろー?」


「マモル君だよね?」


 その時、後から新聞を読んでた男の人が話しかけてきた。


「えっと……はい……そうです」


 僕はこの人に話しかけられて少し怖くなった。


 なんかいつもより目がおかしい様な気がした。でもいつもと変わってない気もする。


 それが余計に怖かった。


「もう一人の子なら、向こうにいるよ」


 そう言って出入口の近くを指差した。


 僕は教えてくれただけって事に安心して、ありがとうございますと言って、そっちに行こうとした。


 だけど、男の人に手を掴まれちゃっているって言われた所に行けなくなった。


「おじちゃんと一緒に行って脅かしてあげよう」


 そう言った時の男の人は、とても怖かった。なんでか分からないけど、嫌ですって言えなかった。


 僕が黙っていたら、男の人が僕の手を掴んだまま出入口の方に歩き出した。


「ほら早くしないと、バレちゃうよ」


「……い……いや……」


「嫌ってそんな事言われると、おじちゃん傷つくなぁ」


 優しい声なのに目が全然優しくなかった。


 怖かった。誰かに助けを呼ばないとって思った。


「だ、誰かぁ!! 誰か助けてぇーー!!」


「クソッ! このガキ!」


 男の人の喋り方が突然変わった。


 それと同時に僕の手を強く引いて僕を抱っこしようとした。


「嫌だッ! 止めてよッ! 誰か助けてッ!!!」


「うるせぇ! 黙ってろ!」


 僕のほっぺたが叩かれた。


 痛くて、怖くて、僕は泣き叫んだ。


「痛いよおぉぉ!!! 誰かあぁぁ!!! 誰かあぁぁ!!」


 僕は必死で掴まれてる手を振りほどこうとしてた。


 この近くに大人の人は誰もいなかった。


 それでも僕は力一杯、男の人から逃げれるように頑張った。


「黙れって言ってんだろうがっ!!」


 また、ほっぺたを叩かれた。さっきよりも強く叩かれて、とても痛かった。口の中が血の味がしてた。


「嫌だぁぁ!! 誰かあぁぁ!! お願いだからあぁぁ!!」


 その時だった。男の人の手から力が無くなって、僕の手が離れた。


「そこのぼく! 早く逃げなさい!」


「ってぇ……何すんだてめぇ!」


「あんたが誘拐しようとしてたからでしょうが!」


 僕の目の前に女の人が立って、僕を守ってくれるように男の人と話をしてる。


「そいつを渡せ! 刺すぞ!」


「うっ……嫌よ! 誰があんたなんかに渡すもんですか!」


 女の人の体でどうなってるのか分からなかったけど、少しだけ女の人が怖がったような気がした。


「ほら、早く逃げないと!」


「う、うん! たす、たすけ! 呼んでくるから!」


 僕は走り出した。


 後ろは振り返らないで公園を出て、近くの家に助けてもらうために駆け込む。


 だけど、この時間はまだ人が少なかったから、いない家が多かった。


 でも、僕は助けてくれた女の人を助けたくて、必死で助けを呼び回る。


「そこのぼく! そんなに必死にどうしたんだい!?」


「あ、あの! 女の人が! 公園で! 危なくて!」


「公園だね? 分かった! すぐに行く!」


 偶然会った男の人が、助けてくれるって言ってくれた。


 僕は必死だった。早くしないと女の人が危ないと思ってた。


「誰でもいい!! 家の中にいる人は全員出てきてくれ!! 今、公園で女性が危ない目にあっている!! 手を貸してくれ!!」


 男の人の声はとても大きかった。


 その声で、色んな家から人が出てきて、十人くらいの大人の人が集まった。


「公園は、ここから一番近くの公園でいいんだよね?」


「は、はい! 早く! 早くしないと!」


「分かった! 皆、一番近くの公園だ!」


 大人の人達が一斉に走り出した。


 僕も後をついて行った。大人の人達がいれば大丈夫だって安心して、助けてくれた女の人にお礼を言いたかったから。



◇◆◇◆◇



 はぁ。今日はなんて日なの……。


 学校に遅刻して怒られて、宿題忘れて怒られて、家に帰ろうとしたら誘拐犯を見つけて、攫われそうになってた男の子を助けたらなんとナイフを突き付けられるって言うね。


 何? 今日厄日なの?


「お前よくも……。よくもよくもよくもッ!!」


 目の前の誘拐犯はとてもお怒りになっている。


 ナイフを持っている手にはありえないほどの力が篭っていて、赤くなっている。


「殺す! 殺してやる!」


「お、落ち着きなさいよ!」


「うるせぇ! お前が! お前さえいなければ!」


「あんたはまだ誘拐しようとしただけでしょ! 未遂なんだから罪は軽いはずだから!」


 私は殺されないように必死で宥める。


 だが、激昴してしまった人には逆効果だった様だった。


「下準備をして! マモルの身の回りも調べて! ようやくチャンスが来たのにぃぃ!!」


 目が飛び出そうなほどに見開き、充血した。眼球が顕になる。


「台無しだ! 全て台無しだ! お前がいたから! 全部が台無しになった!!」


「い、いいから落ち着きなさいって!」


「うるせぇ! 殺すッ! ころすッ! コロス――ッッ!!!」


 完全に錯乱していた。何を言っても火に油を注ぐだけだった。


 私は後退り、逃げの体制に入った。


 最初は走って逃げる事が出来た。でも、女と男じゃ走力が全然違った。


 私はすぐに捕まった。肩を掴まれ、振り向かされた。


 そして


 ――スパッ


 ナイフが私の首を切り裂いていった。


 激痛と吹き出る血に何が起きているのか理解が出来なかった。


 そしてすぐに視界が暗くなった。


 小さな頃から今までの事が思い起こされた。


 走馬灯と言うものだった。


 そして、走馬灯が過ぎ去った時、私の意識は途切れ、命の鼓動も永遠にされることもなくなった。



◇◆◇◆◇



 僕が公園に着いた時、そこからは血の匂いがしてた。


 大勢の大人達が、大きな声を張り上げて言い合ってるのが見えてた。


 その足元には、僕を攫おうとしてた男の人が押さえつけられてた。


 そして、もう一人。


 赤い水溜まりに横たわった、僕を助けてくれた女の人。


「――ぁっ」


 僕は何を言おうとしたのだろう。


 ただ、その女の人を見て、今まで知らなかった気持ちが突き刺さって来た。


 とても嫌な気持ちだった。


 僕の耳に大人の人達の大きな声が入ってくる。


 怖かった。何かを聞くのが怖かった。


 だから耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。


 何も聞きたくない。何も見てない。これは怖いだけの夢。そうやってずっと考えてた。


 体の震えが止まらなかった。涙が止まらなかった。口の中の血の味が夢じゃないって言ってきた。


 怖い怖い怖い――。


 そんな時だった。僕の手を耳から離して、手を繋いでくれる人が来た――。



◇◆◇◆◇



 助けないと!


 わたしは隠れながらずっとそう思ってた。


 まもるが悪い人に捕まっちゃうって分かってた。


 でも、まもるの叫び声と男の人の声を聞いたら、そこから立てなくなってて、助けに行けなかった。


 だからわたしはお願いした。


 ――どうか、まもるを助けてください。


 って。


 そしたら、女の人が助けに来てくれた。


 わたしは嬉しかった。神様に願いが通じたんだって思った。


 まもるは公園から走って逃げていった。


 でも女の人は、男の人から逃げられなくなってた。


 男の人は包丁みたいなのを女の人に向けてた。


 わたしはお母さんから聞いて知ってる。包丁を人に向けたらダメだってことを知ってる。


 でも、男の人は女の人に向けてる。


 男の人が何かを大きな声で言ってた。そして女の人が逃げて、それを男の人が追いかけてた。


 鬼ごっこと一緒だったけど、全然違かった。


 女の人が捕まったかと思ったら、男の人が包丁みたいなのを女の人の首に刺した。


 女の人から血が一杯出てた。その時わたしは息をする事も忘れて、ただ見ているだけだった。


 女の人はすぐに倒れた。地面に赤い水溜まりが出来てくる。


 その時、たくさんの大人の人が公園に入ってきて、すぐに男の人を倒した。


 でも女の人はもう動かなかった。誰が何かを言っても、動かなくなってた。


 これはわたしへの罰だって思った。わたしが神様にお願いをしたから、女の人が死んじゃった。


 あの時わたしがまもるを助けに行ってたら、女の人は死ななかったんじゃないかって思った。だから、これはわたしへの罰。


 その時、逃げたはずのまもるが戻ってきた。


 でも、一回だけ目を大きく開いたら、泣き始めて耳を手で押えてしゃがみ込んだ。


 助けないとって思った。


 今度はわたしが女の人の代わりにまもるを護ってあげる番だって思った。


 だからわたしは立てなかった足を無理矢理立たせて、まもるの所に行った。


 そして耳を押さえてた手を握って、まもるが泣き止んでくれるように、まもるに言ってあげた。


「だいじょうぶ。わたしがきみをすくってあげるから。だからあんしんして」

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