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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第11章 過去そして護るべきもの
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第185話 全てをかけた戦いのようです

「私一人に寄って集って卑怯じゃないですか?」


「これは戦争なんだ、卑怯もクソもねぇよ。あるのは勝ったか負けたかだけだ」


「アハッ、それは辛いですねぇ」


 軽口を叩きながら教皇は次々来る攻撃を軽々と躱してゆく。


 六種族による六つの方向からの同時攻撃は空中に飛び上がり回避する。


 そこに待ち構えていた魔王様が教皇に向けて風の刃を横一閃するが、それすら知っていたかの様に自分で更に高く飛び上がって回避する。


 そこにサトシさんが強攻撃を加えに飛び上がる。イフリートを宿したその身のこなし方はまさに精霊だった。


 教皇はサトシさんから逃げるために、空中を飛び回る。そこで繰り広げられるのは超高速の空中戦。ここにいないものでは空中で衝撃波が起こっているようにしか見えないだろう。


 数秒後に、二人が地上に降りてくる。


「本気を出していないとは言え僕の攻撃が全く効かないね」


「そうなんですか……」


 今、ジュリ、フレイヤ、ナユタ、聖王様の四人は皆に支援魔法をかけ続けている。


 更に、ミルやミユキ、国王を含めた魔法メインで戦っている人達は隙あらば攻撃をしている。


 だと言うのに、教皇は息切れもせず何事も無かったかのように佇む。


「なんだお前、規格外すぎだろ」


「私はそこから一歩も動こうとしないあなたの方が怖いですねぇ。一体何を企んでいるのか気になりますよ」


「何も企んでねぇよ。お前を観察して確実に倒せる方法を模索してるだけだ」


「おやおや。敵にそんな事言ってもいいのですか?」


「お前こそ話してる暇ねぇんじゃねぇのか?」


「はい?」


 そうとぼける教皇に、ユニークスキルを全開にしたタクマが斬り掛かる。


「おっとっと。さすが勇者ですね。今までの人達の動きと全く違いますよ」


「くそっ。外したか」


「そこまでの技量を持っているのに、手放した事が悔やまれますよ」


「俺はお前の操り人形じゃねぇ!」


 タクマが宝具召喚で装備している光り輝く剣を斜めに振りかざした。


 剣の光が残像として残り、一つの剣筋が見えた。


 しかし、教皇は後ろに跳んで回避している。 


「少し掠りましたか」


 タクマの先程の攻撃で教皇は腕を薄く切っていた。服の下で血が滲み出ているのが見える。


「後ろに注意した方がいいよ」


 先程のサトシさんが更に速さと攻撃力を高めて教皇へ肉薄する。


「ぐっ……少し驚きましたよ。ここまでやる人間がいるとは」


「僕の力はまだまだこんなものじゃないよ」


 そう言ったサトシさんに、炎の腕が四本生える。


「秘技、阿修羅」


 そう唱えたと思えば、サトシさんの手と炎の手に様々な武器が装備されていた。


 その武器を空中戦で見せたスピードよりも速くそして急所を正確に狙っていく。


 手数で劣る教皇には余裕がなくなってきたのか苦悶の表情をしだした。流石に手数はどうしようもないのかもしれない。


 教皇の弱点を一つ見つけた。


「皆行くわよ。でないといいところを持っていかれてしまうわ。コンビネーションはBよ」


「「「了解!」」」


 ジュリ達がサトシさんの邪魔にならない程度に教皇へと攻撃を加えていく。


 元々手数で押されていた教皇は、ジュリ達の攻撃にまで手を回せなくなっている。逆にジュリ達の攻撃に気を取られれば、サトシさんの攻撃への対処が遅れる。


 少しずつ、しかし確実に傷を付けていく。だが、未だに決定打に欠ける。


 俺は今度、そこを模索し始める。


「本当に煩わしいですねぇ! しょうがありません。少し本気を出させてもらいますよ」


 そう言った教皇に強大な魔力が集まっていく。


「――っ! 皆離れろ!」


 俺は先読みの効果でこの先に起こることを予測し、教皇の近くにいた皆に退避するように言った、


 そして皆が一斉に散った瞬間、大きな魔力爆発が起こった。幸いにも巻き込まれた者はいない様だ。


 爆発によって土煙が上がり、視界が悪くなる。


「あの爆発は……自爆か?」


 タクマがこの爆発による推測を語る。


「自爆だったらどれだけ嬉しかったか……。これは自爆じゃない。もっと面倒なやつだ」


 未だに教皇が健在である事は俺の感知で把握済みだ。しかし、今までの教皇とは全く別物だ。


「アハッ、この姿になったら元の姿に戻れないのでずっとしてきませんでしたが、この姿もいいものですねぇ」


 土煙が晴れ始める。


 そして完全に晴れた時、爆心地にいる教皇……いや、元教皇の姿を見て一同驚愕に満ちる。


「ハッ、お前悪魔だったのかよ」


「いえいえ、正確にはたった今悪魔になったのですよ」


 元教皇の姿は異様なものだった。


 全身の肌が全てを嫌うかのような漆黒で、禍々しい角を生やし、目は爛々と赤く輝く。鋭く尖った爪は何でも切り裂きそうな程の威圧を放ち、盛り上がった筋肉は元教皇の姿を更に大きく見せる。そして終いには背中に蝙蝠の羽の様なものが付いていた。


 この姿は誰がどう見ても悪魔である。しかし、今まで戦ってきた悪魔の比ではない強かを秘めている。


 サトシさんの仲間である、ポルクスとカストルはここまで禍々しい気は放っていなかった。


「あ、あんなのって……」


 女神が狼狽え始める。少し体が震えているようにも見える。


「女神、大丈夫か?」


「あ、あれは……上位悪魔を超えた閻魔級の悪魔だよ……」


「閻魔級だと?」


「悪魔の最上位に位置する悪魔。神はこの閻魔級の悪魔とどこかの世界で戦ってる……」


「神と戦える程の力って事か……それはキツいな」


 まさかここまでの力を持つとは思っていなかった。厄介なものだ。


「さて、やりましょうか?」


「あぁ、そうだな」


 元教皇の双眸は俺を捉えている。今のこいつには俺しか見えていないのかもしれない。


「支柱であるあなたを殺しさえすればもうどうとでもなりますからね」


「万が一俺が死んだとしてもここにいる奴らなら大丈夫だ。まあそんなことはないと思うが」


「高慢ですねぇ。いいでしょうそこまで言うのであればあなたを全力で殺してさしあげますよ」


「やってみろよ悪魔。俺は簡単にやられねぇからよ」


 俺と元教皇は地面を蹴り同時に動き出す。蹴られた地面はありえないほどに抉れる。


 今の俺は超越者となっている。それは既に確認済みだ。この湧き上がる力と暖かな心が俺の力の源となっているのだ。


 地面を一蹴りしただけて目の前には既に元教皇が迫っている。


 教皇は爪を立て、俺に振りかぶってくる。それを体を捻って躱し、同じように下から斬り掛かる様に爪を立てて反撃する。


 しかし元教皇もそれを見切り簡単に避ける。


 これでやられるとは一切思っていなかったため驚きはない。


 俺は流れる様に後ろ回し蹴りを繰り出す。


 しかし元教皇も避けた流れから後ろ回し蹴りをしていた。


 俺の脚と元教皇の脚がぶつかり、衝撃波を放つ。


「まさかあなたがここまで強くなっているとは思ってませんでしたよ。やはり早々に殺しておくべきでした」


「この力は皆のおかげだ。皆がいる限り俺は負けねぇんだよ」


 俺のユニークスキルは『護る為に』。仲間依存のスキルであり、俺を信頼している人とリンクする事が可能なのだ。


 リンクすると、その人のスキルが無条件で俺が使えるようになる。更にリンクをしている人数が多ければ多いほど俺の護る為の力が増幅していく。


 今ここには俺を信頼しており、俺が護りたい人達が三十人程いる。それだけで俺の力は通常の六倍はある。五人で一倍ずつ増えていく計算になる。


 更にスキルが無条件で発動できるようになる事で、俺にはないスキルが使えるようになる。身体的に不可能なスキルは無理だがそれ以外は使い放題というわけだ。


 魔力切れに関しても心配はない。ニーナと繋がっている事で神の力を使えるようになり、俺の攻撃は全て神源(マナ)をつかった攻撃になっている。


 それにより、悪魔への攻撃が有利になり、先程の様に脚同士がぶつかったとしても俺には何の被害もないという訳だ。


 俺が元教皇が悪魔になる前に動かなかったのは、観察の意もあったが、全てはこのリンクをしていた為だ。リンクには少し時間がかかった。これが唯一の欠点と言えるだろう。


 だが、リンクしてしまえば何の問題もない。目の前の敵に集中する。


 こいつだけは許せない。こいつが同属嫌悪なのかもしれないと言った時に、妙に腑に落ちたのだ。


 だが、歩んできた道は全くの反対だ。こいつが闇の道に進んでいるとすれば俺は光の道を進んでいた。


 この道の違いから嫌悪を抱くのだろうと思う。俺は元教皇に対してその道に進んでしまった事に対する失望を、元教皇は俺に対して羨望をそれぞれ抱いたのだろう。


 相容れぬのなら衝突するしかない。


 そんな事を思いつつ、元教皇との攻防が続く。



◇◆◇◆◇



ーside:女神ー


 今の彼は人類で一番強くなっていると思う。


 神の私は視認できるけど、その他の人達は何が起きているのかさっぱり分かっていない。


 他の人達からしたら、唐突に地面が抉れ土煙が起き、その土煙が何かの衝撃で散っていく様子しか見えていないはず。


 それだけの力を彼は手に入れた。護る為に戦い、そして勝つ為に。


「頑張って……」


 彼と教皇はずっと一進一退の攻防を続けている。互いの体には一切の傷はついてない。


「一体何が起こっているのだ……?」


「私にも分からんのぉ。ただ尋常ではない戦いが目の前で繰り広げられているのは分かるわい」


「フェラリオンとバックスは感じぬか? あの者が私達を護ってくれていると言う暖かい何かが」


「もちろん感じている。慈愛にみちた何かが私の心に居座っている」


「どうやらここにいる者達全員がそう思っておるらしいのぉ」


 各国の王達が彼の戦いを見ながらそんな事を話していた。


 私は何も感じていない。恐らく私が神だから、彼の理には当てはまらなかったのだと思う。


「私達の想いがあの人への力になるのなら……」


 少女達は少しでも彼の力になりたい一心で祈りを捧げる。


 彼は今も私達を護る為に全力で戦っている。少しずつスキルを解放しながら教皇を徐々追い詰めていっていることが分かる。


 そして初めて彼の攻撃が教皇に傷をつける。


 その傷は決して深くはない。だが、大きな一歩である事は間違いなかった。


「どうか、彼を救ってください……」


 神で私が祈りを捧げる。なんとも皮肉なものだ。私だって護りたいものがあるのに護ることを許されないのだから。


 私ら自らの神という制約に歯噛みしながら、彼の戦いを見守る。



◇◆◇◆◇



ーside:主人公ー


 俺の攻撃が当たった。かすり傷ではあるが確実に押し始めた。


 俺がやっていることは使うスキルを徐々に多くしていく事だ。自分の動きに少しずつ慣らし、少しずつパワーアップしていけば自分自身に翻弄されることも無い。


「ぐぅ! まさか傷を付けられるとは思いませんでした」


「それがお前の限界だ。俺は何かを護る為なら無限に等しい力を手に入れる事ができる」


「うるさいですねぇ! 私の力はこんなものじやないんですよ!」


「じゃあ俺に傷つけてみろよ」


 元教皇が頭に血を上らせ挑発に簡単に乗ってきた。悪魔になった事で、感情の制御に難が出ているのかもしれない。


 俺は更に力をつける元教皇に対抗するようにブーストを2まで発動させた。


 ブーストは俺の力を二倍に引き上げる事は実験済みだ。


 俺の基礎能力は普段の六倍だ。これが二倍になるのだから、基礎能力は十二倍になる。体が持つのか分からない。もしかしたら悲鳴をあげるかもしれない。


 だが、そうしなければ勝てない相手がいる。だから躊躇わずに攻撃に出れる。


「ぐっ……何故だ! 何故私の攻撃が通らないのです!」


「教えるわけねぇだろ」


「馬鹿にしやがってぇ!!! 私は悪魔だぞ!! 人間は地に這い蹲って命乞いをしていればいいのだ!!」


 悪魔になった事で段々と頭がおかしくなってきている元教皇。完全に悪魔と同じ思考をし始めた。


「私は!! 私はぁぁ!!!」


 元教皇が狂ったように暴れ出す。これではみんなに被害が出てしまう。


 俺はすぐさま元教皇を殺す事にした。


 先程の様に相手の手を読みながら戦っていくわけじゃない。何も考えず暴れている奴なら簡単に殺せる。


 所構わず魔力をぶつけていく元教皇へ転移で近付き、右肩から袈裟斬りを繰り出した。


 ただ暴れるだけだった元教皇はどうする事も出来ず、ただ斬られる案山子のようになっていた。


「グオォォオオ!!!」


 自分が斬られた事と神源(マナ)による痛みで雄叫びをあげる元教皇。そのまま片膝を地面に付けた。


「何故……ですっ! 何故……ここまでやって……いるのに……勝てないのですかっ!」


 話すこともやっとかっとな状態で元教皇はまだこのようなこと言う。


 俺は自分の死の間際ですらそんな事を考えてしまう悪魔という存在に呆れてしまった。


「簡単に言えば、正義が勝つって事だろうよ」


「そんな――そんな理由でぇ!!!」


 元教皇はそのまま前のめりに倒れて動く事が無くなった。完全な俺勝利だ。


「勝った……勝てたんだ……!」


 俺は教皇に勝った。


 だが、この戦いに勝てたのは俺だけの力じゃない。


 俺を信頼してくれる皆とリンクして、皆のスキルを使って倒した。一重に皆のおかげだ。


 俺は皆へ心の中で深く感謝をした。


「教皇、あんたの気持ち分からなくも無かったぜ」


 俺はそう言って元教皇に背中を向けて皆の元に歩き始めた。


 護りたい人達を護れた事、その世界を護れた事。その事を一つ一つ噛み締めながら――。

 終わりそうな雰囲気出してますがまだ終わりません。あと少し続きます。

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