第182話 神の光のようです
今までが暗かったので少し明るめにしました。
私は暗いのが苦手なので、明るめの方がいいです。
今、俺の元には四人の勇者がいる。
この勇者達全員が、操られていた状態から回復し、今は自らの意思で動ける様になっている。
勇者を正気に戻したのは、俺の仲間だった奴らだ。正直に言うと、俺は必要なかったんじゃないかって思う。
戦いを見ていた感じなのだが、一分の狂いもない連携を取って、隙あらば攻撃を叩き込むその迫力は凄かった。
飛び散る血が痛々しかったが、それでもこれだけのことをやってのけた事は素晴らしいと思う。
「なぁ、あれってお前の仲間だろ?化け物みたく強くなってね?」
他の勇者より先に目覚めて、彼女達の戦っている姿を見ていたタクマがそんな事を言う。
「正直、に言うと俺もそう思ってる。だがな、それをあいつらに聞かれたら命は無いと思えよ?」
「…………」
「ん?どうしたんだ?」
「……いや、後ろに……な」
「え?」
俺は後ろを振り返った。そこには心做しか鋭く尖った視線を送ってくる、少女達がいた。
身の危険を感じ冷や汗が止まらない。早急に謝るのが吉だ。
「ち、違うんだ!これはタクマが誘導尋問するから――」
「うわ、きたね!俺を売るなよ!」
「元はと言えばお前が――」
「ちょっと黙ってくれるかしら?」
「「――ひゃい!」」
俺とタクマが縮み上がる。
あれこそ鬼の形相だ……。恐ろしくて逆らえない。
「あなたには二三聞きたい事があるわ」
そう言って俺を指さすジュリ。その後ろでは皆が手を腰に当てて『ドーン!』と音が聞こえそうな程に威圧してくる。
「お、おい。お前何やったんだよ?」
「いや……ちょっとな……。まさかここまで来るとは思ってなかったし」
「何こそこそしてるのかしら?」
「「ひゃい!しゅみましぇん!」」
こんなの鬼を超えてる。悪魔だ悪魔。ここまで威圧できるのは悪魔しかいない。
見てみろ皆の顔を。もう悪魔にしか見えなくなったぞ。
「さて、あなたには二つの選択肢があるわ。素直に私達の質問に答えるか、私達に痛めつけられながら質問に答えるか。どっちがいいか決めてくれるかしら?」
「質問に答えないという選択肢は――」
「ない。くだらない事言ってると拷問するわよ。三角木馬がいい?それともムチで叩かれたい?」
「すいませぬ。素直に答える故許してたもう」
「は?」
おっと、あまりにも錯乱して色々変になってしもうた。……もう手遅れかな?ははは……。
「素直に答えます。許してください」
「よろしい」
ふぅ。女って怒らせると怖いわ。いくら俺がやった事とはいえここまで怒られるとはな。
ほら見てみよろ勇者達を。皆目覚めて話始めてるけど、こんな事は全くないぞ。というかしょぼくれている。
「皆起きたか」
「まさかこんなことになるなんてね」
「ちょっと油断してたら、これだもんね。してやられたって感じ」
「こんな事になるなんて思っても見ませんでした。少しでも力になれる事があるなら、手伝いたいです」
「そうだな。何か出来る事はないか聞いてみる」
タクマがジュリに敬語で話しかけて、何が出来るか教えてもらってた。
敬語って……。いや、さっきの見たらタクマの気持ちも分からんでもないな。
「今あそこで起きてる光の柱はニーナって子がやってるの。悪魔だけを消滅させて、人間はそのまま。だからあそこにいる悪魔になった人達は、取り敢えず悪魔から制御を受けなくなるわ。でもそんなの一人でやるにはキツいだろうからフォローしてきて頂戴。勇者になるなら今しかないわよ」
「わかりました!ニーナですね!皆に伝えてから行って参ります!」
「よしなに」
えぇ……『よしなに』って何……。ジュリってそんなキャラだったっけ?
『よし!人生で一度は言ってみたいセリフ14位を言えたわ!』
思考解読が何故か発動して、ジュリの頭の中が丸見えだ。
14位とはまた微妙な……。
「さて、今から私達はあなたに質問するわ。あなたには質問に答えないなどの拒否権は与えないし、嘘を吐いた時点で私が分かるから、ちゃんと素直に答える事ね。さもないとどうなるか分からないわよ」
「ひぃ!鬼!悪魔!鬼畜ぅ!」
「ふん。どうとでも言いなさい。私達を置いてった罪は重いんだから」
「それに関しては弁護の余地もないな。さ、何でも聞いてくれ。素直に答えるから。でもその前に、ニーナを助けに行きたいんだけどいい?」
「……そうね、ニーナを助けに行ったあと、ニーナも交えてゆっくりと質問攻めにさせてもらうわ」
え、何それ怖い。
俺は恐怖を感じかながら、皆を連れてニーナの所へと向かった。
◇◆◇◆◇
時間は少し戻って、少女達が勇者を倒した直後の事。
「神光!神力!神光っ!」
私は、ただひたすらに皆を助けたい一心で浄化をしていた。
神の力を代行する私のスキルは、魔力の代わりに天から授かる神源を使う為、魔力切れを起こす事もない。
更に神の力は悪魔特攻だとジュリさんが言っていた。これなら悪魔を浄化する事が容易だと。
現に私が神の力を振るえば、悪魔が浄化され、人の抜け殻がそこに残る。
抜け殻……。そこに命はなく、ただ人の形をした抜け殻。蘇生したとしても復活する事はないはず。
私には神の力があるのからなのか分かってしまう。この悪魔達は人の命を貪ってこの世に存在しているのだと。
だから、命を喰われた人はもう生き返らない。
私はとても悲しかった。お父さんがやった事に対する罪悪感もあった。
それでも、死んでしまった者達の遺族は感謝の言葉を口にする。『悪魔から救ってくれてありがとう』『元の姿にしてくれてありがとう』『――ありがとう』『――ありがとう』と。
その言葉は嬉しく思う反面、やはり罪悪感が残った。私が教皇の娘だと知っても誰一人文句は言わない。それどころか私を頼ってくれる。戸惑いがないわけじゃなかったけどやれるだけの事はやろうと思った。
「神光!神光っ!」
三、四人程をまとめて浄化していく。
戦っている皆には出来るだけ密集させてもらってる。
決して私だけで戦ってるわけじゃない。今この時だって悪魔にやられて死んでいっている人達がいる。
その人の少しでも減らせるように力を尽くしている。
「君がニーナか?ジュリさんに言われて助けに来た」
「ジュリ"さん"?私達と扱いが違うような気がするんだけど」
「ほんとほんと。何でなの?」
「男の人は女の人に頭が上がらないんですよ。多分」
「んんっ!そんな事よりニーナ。俺達は何をすればいい?」
「皆をっ……守って下さい!お願いします!」
「よし!任された!行くぞ皆!取り返しがつかないことをしてきた分、ここで命を守るぞ!」
そう言って男の人は足早に悪魔の軍勢に飛び込んでいった。
「誤魔化したわね」
「うん、誤魔化した」
「誤魔化しましたね」
「あの、皆さんは……」
「私達は勇者になりきれなかった勇者ってことろね。でも、皆の命守って来るわ」
「ニーナちゃんだっけ?頑張ってね!ニーナちゃんにしか出来ない事だから!」
「私達はニーナちゃんのフォローをします。もうすぐあの人達も来るでしょう。そしたらほぼ私達の勝ちです」
そう言って、彼女達も悪魔の軍勢に飛び込んでいった。
「あの人達は……」
「ニーナーー!助けに来たよー!」
その時聞き覚えのある声が私の耳に入ってきた。
「ゼロさん!皆も!」
「マスターもちゃーんと連れてきたよー!」
「何だよ、ちゃんとって。俺がいなくなったりするみたいに言うんじゃない」
「いなくなったからこうしてる」
「ミル、それはだな、あれだよあれ、終わったら皆の所に戻ろと……」
「死んでタクマ様に後を任せようとしていたのにですか?」
「いや、それはあれだ、事の成り行きってやつだ」
「し、死のうとしたのがですかっ!あるじさまが死んだらわたしも死にますっ!」
「リン、ちょっと待て。早まるな。お前達は前途有望な美少女達なんだぞ。死ぬのは許さん」
「び、美少女なんてそんな……いやん」
「えっ、俺の想像してた反応と違う……」
「私も美少女に入るかな?」
「フェイも入るんじゃないか?もう少し背が伸びれば」
「もう背は伸びないんだよっ!!この大馬鹿がぁ!」
「あ、そうだったな。すまんすまん。ついな」
「ついな、じゃない!」
「ほらほら、収集がつかなくなるでしょ。ニーナが神光をしながら困ってるじゃないの。ちょっとは落ち着いたらどうなの?」
皆が揃っているのはあの時会ったほんの少しの時間だけだった。
離れ離れになってた時は、彼の悪口とかを言っていたけど今は皆楽しそうにしている。
「なんだかんだ言って攻撃の手を緩めないニーナを尊敬するわ。さすが意思の強い子だ」
「え、いや、あの、そんな事ない……です……」
「どうした?顔が赤いぞ?もしかして戦いすぎか!?少し休憩するか!?俺がなんとかして食い止めとくぞ!?」
「さすがすけこまし!やっぱり口説き文句を言わせたら世界一ね!シロもそう思ってるよね!」
「ニャ!」
「女神、シロ、またお前達は……。いや、そんな事よりニーナをだな――」
「わ、私は大丈夫です!ちょっと嬉しくなっただけです」
「お、そうだったのか。いやーニーナが倒れるんじゃないかって思ってヒヤヒヤしたわ。おっと話がそれたな。俺達もタクマ達みたいに皆をフォローしてくればいいんだな?」
タクマという人が誰か分からなかったけど、話の流れから、さっきの四人組の誰かだと言うのは分かった。
「はい!皆を守ってください」
「了解、じゃ皆行くか。あと、女神はニーナを宜しくな。万が一があるかもしれない」
「それは命令?お願い?」
「神への祈りだ」
「じゃあ任されようかな」
「頼んだぞ」
そう言って、皆が悪魔達に突っ込んで行った。
これならば死者が少なくなるだろうと言う希望を持って戦える。
そして私は更に力込めてこう叫ぶ。
「神光ッッ!!」