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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第10章 戦争そして想い
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第179話 少女達の二週間、その三のようです

 少女達は勇者を押していた。奇しくも、彼がやったように最初から全力を尽くして。


 少女達は長期戦になれば自分達が不利になる事は分かっていた。だから短期戦に持ち込んだのだ。


 この甲斐もあって今は勇者を押すことが出来ていた。後はどこかで勇者に致命傷を与える機会がくればと願うばかりだった。


 やがてそれは訪れる。


 少女達の猛攻にじりじりと後退していた勇者の一人が不自然に空いた穴に足を取られ体制を崩したのだ。


 少女達はそれを見逃さなかった。


「アイカを殺るなら今しかないわ!」


 その掛け声と共に、アイカと呼ばれた勇者に全ての攻撃が向かう。


 勇者もやられまいと手持ちの槍で魔法を落とし、攻撃をいなす。だが、対処しきれず喉に一撃食らってしまう。


 血が噴水の様に吹き出し、地面を赤黒く染める。


 アイカという勇者の血の気がみるみるうちに引いていき、遂にはその場に伏せてそのまま命を落とした。


「ゼロ!分体の一つでアイカをタクマの所へ!」


「わかったの!」


「後は、ナユタとミユキだけ!締まっていくわよ!」


「「「了解!」」」


 そして少女達は更に激しく攻撃を加えていく――。



◇◆◇◆◇



ーside:ジュリー


「マスターに逢いたい……」


 長く続いた沈黙を破ったのは、ゼロだった。


 ゼロの言葉は短く、簡単なものだった。されど、その一言は重く、私達の心を代弁したものだった。


 皆、ゼロと同じ気を抱いている。


 彼が一人で何でもかんでもやると言っていても、そんなのは知ったこっちゃない。寧ろ、彼が勝手にやるなら、私達だって勝手にしてもいいじゃない。


 私は再び彼への怒りが増してきた。


 あれだけ仲間を大切にしろと言ったのに、こんな大事な時に一人で行動をする彼に怒りをぶつけてやろうと思った。


「もし主様が私を捨てていたとしても、その上で主様の元に行きます。主様はいつまで経っても私の主様ですから」


「そ、そうですっ!あるじさまはあるじさまです!楽しい事が好きで、悪い事は絶対に許さない、それがあるじさまです!」


 レンとリンは彼から生まれた元魔物だ。人間同士にはない、魂の繋がりなんてものがあるのかもしれない。


 それを言うならゼロもだ。レンとさほど変わらないと言っても、彼と一番長く旅をしているのはゼロに他ならない。


 魔物だった時から彼にベッタリで、彼への想いが一目瞭然だった。


「私だって、あの人に会いに行くわ。そして今までの日々が何だったのか説教してやるわ!」


 だから私も勇気を持てる。今は彼への怒りで誤魔化しているけど、いつかはきっと――。


 それから皆も踏ん切りが付いたようで、次々に彼の元に行くという宣言をする。


「今となっては、ミルを外に出して正解だったと思えるよ。信頼出来る仲間が出来て、想いを寄せる人もいる。後者は父としては複雑だが、結婚する時はちゃんと報告するように!」


「わかった。ちゃんと報告する」


 何故か結婚する事が前提となっているミル。しかし、彼との結婚などそう珍しくはない。かく言う私も、彼と結婚しているし、フェイも結婚している。


 私とフェイは彼とは既に家族なのだ。しかし、あまりそう認識した事はないし、そう認識するのはまだ先だと思っている。だから今、彼とは仲間でいる。


「パパ。あの人の居場所分かる?」


「それが、彼は感知に引っかかりにくくなったんだ。この感じはミルが隠密を使った時の感覚に近いから、彼も隠密のスキルを持っていて、常時発動させてるんだと思うよ。それと、彼の転移の頻度が多い。見つけてもすぐにどこかに行ってしまう」


「ちゃんとここだって分かるのはどれくらい?」


「ここから探すんじゃ一生掛かっても無理かもしれないね」


「じゃあどうすれば……」


「いえ、一度だけ必ず会える場所があるわ」


 私にはミルと魔王の話で分かった事があった。それを皆にも伝える。


「彼が転移でどこそこに飛んでいるのはどうしてか皆は分かるかしら?」


「……単なる移動ではなく、そうしなければならない理由があるからでしょうか?」


「レンの言う通り。彼には転移をして、遠くまで出向き、何かをしているのよ。確か、フェイは二日前に聖国の使者として彼が帝国に来たって言ってたわよね?」


「うん。お母さんがそう言ってたし」


「なるほど。聖国の使者という事はそれだけ重要な案件があると言う事ですね。そして恐らくそれは――」


「「戦争」」


 私とレンの言葉が重なる。流石はレン。頭の回転が早いし、理解度も高い。


 だけど、リンやゼロはまだよく分かっていないみたいだ。ミルやフェイ、ニーナは何となく察する事は出来ているようだ。


「彼が一人で動く理由は、勇者を助けて、その上で教皇を倒すこと。その二つが同時に出来るのは、戦争が起こった時だけ。それに、もう戦争が始まるのを止めることは出来ない。彼だったら、この戦争に勝つ為に各国に情報を流し、戦争への対策をしっかり練らせた上で、国の軍が敵と戦い始めたら、自分は邪魔が入らない場所で勇者もしくは教皇、あるいは両方を相手取るはず」


「んんー?」


「要するに、彼は戦争の時に勇者の前に現れるってこと」


「おぉー!わかったのー!」


「じゃ、じゃあ、あるじさまと確実に会える所って……」


「戦場よ」


 彼はそこに絶対現れる。自分で手紙に書いているし、そこは間違いない。だが、ここで一つ問題がある。


「戦争がどこで起こるのか。そもそも戦争がいつ始まるのかが分からないわ」


「それこそ、パパの出番」


「そうだね。情報収集は任せてくれても構わないよ。そうだね……一週間あればある程度は集められると思うよ」


「じゃあ、よろしく頼むわ」


 この一週間、私達は私達にしか出来ないことをするしかない。もどかしいこともあるかもしれないが、我慢になるだろう。


「今日はゆっくり休むといい。皆、目覚めたばかりだ。体を休めて、万全の状態にしておくんだ」 


「分かった。パパの言う通りにする」


「そうね。起きてすぐ色んなことがあって混乱してる人もいるみたいだし、今日はもう休みましょう」


 魔王に各々の部屋が割り振られて、その部屋を自由に使ってもいい事になった。


 明日から、忙しくなると思う。だから今日はもう寝よう。


 私は疲労を感じていた体をベッドの上で横にして、そのまま眠りについた。

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