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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第10章 戦争そして想い
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第177話 少女達の二週間、その一のようです

 勇者へと向かって行く少女達。その面立ちは、真剣味を増し、鋭い眼光を放っていた。


 そして勇者と交戦する間際、少女達は今日までの約二週間を思い出していた。



◇◆◇◆◇



ーside:ジュリー


 目を覚ますとそこには見慣れた天井があった。この世界に生まれてから三、四ヶ月前まで見ていた天井が。


 私はそれを知ってすぐに飛び起きた。無理矢理に寝起きの頭を覚醒させて、部屋の中を見回した。


「なんでここに……」


 色鮮やかで豪華な装飾に、赤を基調としたカーペット。その上には私がいつも使っていた机と椅子があった。


 この部屋は紛うことなき私の寝室だ。間違うはずがない。


 頭が少し混乱した。誰かに聞こうにもこの部屋には生憎誰もいない。


 私は自らの足で部屋の外に出る。誰からでもいいから事情を聞きたかった。どうして自分の寝室にいたのか。どうして一人なのか。皆はどうなったのか。そんな事が気になってしょうがない。


 私はお父さんの寝室を目指して歩き始めた。お父さんならなにか知っているかもしれないという、期待があった。


 歩いている間も不安は拭えなかった。そんなことはないと思っても、想像は悪い方へと向かって行ってしまう。激しい運動はしていないはずなのに汗が滴る。それがより一層自分を焦らせる。


 そんな時、目の前の角から使用人が現れた。その使用人は私を見るとすぐに駆け寄ってきた。


「ジュリエット様!動いてはお身体に障ります!」


「そんな事どうでもいいのよ!皆はいるの!?」


 私は無意識にこの使用人に怒鳴りつけていた。そんなつもりは一切無かった。それだけ焦燥しきっていたんだろう。


 そして使用人が告げた言葉は、私をさらに混乱させる事になる。


「リン様とニーナ様は別室にて寝ておられます」


「他の子は!?」


「リン様とニーナ様以外にはおられませんが……」


 その言葉を聞いた時、私はその場に力の失くした人形のようにへたり込んだ。


 リンとニーナは助かっていた。でも――


「ジュリエット様!ジュリエ――」


 私はそこでまた気を失った。


 次目を覚ました時、目に入ったのはまたあの天井だった。


「起きたかのぉ?」


「お父さん……」


 今回は私のベッドの側にお父さんが付いていてくれた。お父さんはいつも通り温厚な表情をしている。


「ジュリが倒れたと聞いてとんで来たんじゃよ。気分はどうじゃ?」


「いいとは言い難いわ……」


「そんなジュリに渡すのは気が引けるのじゃが、この手紙を渡しておくからの。好きな時に読むんじゃよ」


 お父さんは服の中から一枚の便箋を取り出して私に渡してきた。


 なんでこの状況で手紙を渡されたのか分からなかった。渡されたところで読むはずがない。お父さんもそれは分かっているはずだった。


 でもそれでも渡してきた。なにか理由があるのだろうと思った。その答えはお父さんが次に言った言葉にあった。


「彼からの手紙じゃ」


 私はそれを聞いて、手紙を急いで開ける。彼からの手紙を読まない訳にはいかない。わざわざ彼が手紙を書いたのだから、それだけ重要な事だと分かったから。


 でも手紙に書いてあったのは私達とはもう会わないという、そんな感じが伝わってくるものだった。そんなのははっきりと明言されていた訳ではなかった。でも最後の一言にある『さよなら』がそれを物語っている。


 手紙で皆が無事だということは分かった。誰がどこにいるのかも分かった。私達を大切にしたいということも伝わってきた。


 そして彼が今、たった一人で戦っているということが分かった。


 その事にふつふつと怒りが湧いてきた。どうして彼は一人で行ってしまったのか。私達は仲間じゃなかったのか。そう思って私の心は穏やかでなくなっていく。


 そして私は決意する。絶対に彼の元に戻ると。仲間を置いて先に行った事を咎めてやろうと、そう決めた。


「リンちゃんとニーナちゃんは、ジュリが気を失ってた間に目を覚ましてるからの。会いに行くといい」


「分かったわ」


 そして私は、二人のいる部屋へと向かった。



◇◆◇◆◇



ーside:フェイー


 私は混乱していた。目を覚ますとそこはかつて引き篭もっていた自分の部屋だったから。


 そして、目を覚ますと同時に、お母さんとお父さんが抱き着いて泣き始めた。


 よく状況が飲み込めない。


「良かったっ!無事で良かった!」


 お父さんが泣きながらそんなことを言う。


 私はあの時死んだはずだった。なのに今はこうして目を覚まして、体を思う様に動かす事もできる。不思議だった。


「お父さん」


「何だ?」


「皆は?」


 最後まで死ななかった訳じゃない。でも、私が死んだ事は自分でも分かるし、目の前で殺されていった皆も知ってる。


 その皆も私と同じように生き返ってるんじゃないかと思った。そう思うといても立ってもいられなかった。だから私はすぐにお父さんにその事を訪ねた。


「私は知らん」


 思ったような回答は貰えなかった。誰か知っている人はいないのかとそう思った時、お父さんは言葉を続けた。


「でも、レンという女の子は預かっている。彼女もフェイと同じ様に昏睡していたが、ついさっき目を覚ましたと報告を受けた」


「そう……」


 レンの状態が分かっただけでも良かったと思った。でも、皆の事が気になって仕方がなかった。


 そんな時、お母さんが胸元から一枚の便箋を取り出した。


「はい、これ。フェイ宛の手紙よ」


 私はお母さんからその便箋を受け取った。でも誰からの手紙なのか書かれていない。


 私が誰から手紙なのか分からないでいると、それを感じとったお母さんが答えてくれた。


「彼からのよ。目が覚めたら渡してくれって言われたわ。それに『フェイはもう充分強いから、帰しても問題ありませんよね』とも言われたわ」


 私は彼からの手紙と聞いて慌てて読み始める。


 その手紙で、彼が一人で行動している事や、他の皆の無事な事などが分かった。


「お父さん。お母さん。あの人はどこに行ったの?」


「ふん。あんな奴など知らぬわ。あいつにはもう関わるでない」


「あなた……」


 お父さんは珍しく怒りを露にしていた。いつもはここまで本気で怒ることなどないから、私は驚いた。


 お母さんはお父さんに代わって私の質問に答えてくれた。


「二日前に聖国の使者てしてこの城に謁見を申し込んで来たの。だから多分聖国にいると思うわ」


「聖国に一人で……」


 私は彼に会いに行く為に行動を起こしたかった。でも、手紙にあるように彼は一人で動きたがっている。どうすればいいのか分からなかった。


 だからレンと話し合って決めようと思った。


「私、レンのところに行ってきてもいい?」


「いいが、あまり無理をさせるんじゃないぞ?」


「うん。分かってる」


 私はベッドから出てレンの元へ急いで向かった。



◇◆◇◆◇



ーside:ミルー


 あたしはパパに怒っている。なぜかと言うと、目を覚ましたら、彼と数人の仲間がいなくなっていたからだ。


「なんで止めなかったの?」


「彼の決めた事だから、私が口出す事じゃないんだよ」


 パパの言っている事も尤もだって思う。でも、せめてあたし達が目を覚ますまで待たせるとかすれば良かったんじゃないかと思ったりしている。


 あたしは起きてすぐ、パパから手紙を受け取った。あの人からの手紙だと言うことは予想がついたから、受け取ってすぐに読み始めた。


 そこには、皆の無事と彼の決意が書かれていた。


「パパ。あの人の様子はどうだった?」


「……落ち込んでいたよ」


「あたし達を死なせた負い目から?」


「多分そうだろうね。彼は一人でやる事にこだわり始めたから」


 いくら女神と一緒だって言っても、そんな状態で放っていたら手遅れになってしまう。そんな予感がした。殆ど勘でしかない。でも、あたしの勘は当たる事が多い。


「パパ。今すぐにジュリ達の所とフェイ達の所に連絡できる?」


「勿論出来るよ」


「じゃあ、今からパパが迎えに行くって言って」


「えっ、でも……」


「早くっ!!」


「わ、分かったよ……」


 あたしには、皆が彼の所に戻りたいと思っている事が手に取る様に分かる。


 彼に対する同じ想いを抱いている彼女達が、簡単に彼と別れようと思うはずかないから。かくいうあたしだって、彼の所に戻りたいとそう思っている。


「マスター……」


「ゼロ。あの人の所に戻らないと」


「でも、わたし達捨てられたんでしょ……?」


 ゼロは悲痛な顔をして、いつもの無邪気な様子はどこにも無かった。


 ゼロはあの人と一番長く一緒にいた子だって事も知っている。その分だけ裏切られた感を強く感じているのかもしれない。


「大丈夫。本当に捨てたのなら、手紙なんて残さない。これはあの人なりの救援のサイン」


「ホ、ホント……?」


「うん。だからあたし達があの人を助けないと。だよね?」


「うんっ。わたし、マスターを助ける!」


「その意気」


 あたしには彼が本当は皆と一緒にいたいと思っているように感じた。手紙然り、その内容然り。


「連絡用の使い魔を飛ばしたよ。後は返事を待つだけだ」


「ありがとうパパ」


 十中八九、いい返事が返ってくる。だから、これからやらないといけないことは、彼の捜索。


 あたしは皆が集まった時の計画を立てる事にしたのだった。

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