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異世界に転生したので楽しく過ごすようです  作者: 十六夜 九十九
第10章 戦争そして想い
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第174話 六人の姿のようです

「タクマ。痛いだろうが我慢しろよ」


 俺は初めから全開を出す。


 ジュリが持っていた祝福のスキルを重ねた支援魔法。フェイが持っていたブーストを二段階まで。剛爪や硬化をして身体的に能力を底上げする。


 霊化をして、タクマ達の感知にも引っかからない透明化をする事も忘れない。


 今の俺は魔力貯蔵をしていた分を、魔力解放によって身体能力をあげることに使っている。皆だったら、魔法とかに使うんだろうが、今の俺には身体能力を上げることに使った方がいい。


 あとは思考加速によって知覚速度を上げれるだけ上げたり、宝具召喚で、胸当てを装備したりする。


 今回は思考破棄はしない。あれをすると、無駄に魔力を消費するからな。


 タクマ達は強化を続ける俺を見失い、辺りを見回している。透明化ならば見つかっていたかもしれないが、霊化をした俺は感知にはかからない。


 後はこのままタクマを殺すだけだ。


「お前を助ける為だ。済まない」


 俺は小さくそう呟いて、タクマに突っ込む。


 手を手刀の形にして、前に突き出す。


 少しずつタクマに近づく。近付いて近付いて、そして、タクマの防具を突き抜け、俺の手がタクマの胸に突き刺さる。


「かはっ!」


 タクマの口から血塊が零れる。


 俺の刺さった手はタクマの心臓を掴んでいる。体内は生暖かく、ねっとりとしており、ただただ赤い液体が零れ落ちる。


「本当に済まない……」


 俺はタクマの心臓を容赦なく握り潰した。


「がっ……!がぁっ!」


 叫び声にもならない声を上げるタクマ。虚ろだった目がだんだんと、死にゆく生気の無い目へと変貌していく。


 俺はそれを見ながら、突き刺していた手を抜いた。穴の空いた胸からとめどなく血が流れる。


 力が入っていたタクマの体は、死に近付くにつれて力無く、ただ重力に引かれるように地面へと吸い込まれていく。


「…………」


 今はもうタクマの目に光はない。呼吸もせず、ただ溢れ出す血が地を染めていくだけだ。


 俺はこの世界に来て初めて、殺人をする事が気持ち悪くも思えた。


 今まで殺してきたのは、盗賊や野盗などの殺しても構わない奴らばかりだった。そんな奴ら殺したところで心は何も痛まなかった。


 だけど、タクマは違う。彼とは一度心を通わせ、認め合い、友として好敵手としての存在になった。


 そんな彼を操られていたとはいえ、殺したのだ。気分は最悪だ。胃の中にある物が逆流してきそうな程には。


 俺の目の前には完全に絶命したタクマが寝そべっている。苦悶に満ちた表情で尽き果てたことが見て取れる。


「今、蘇生してやるからな」


 そして俺はタクマに蘇生魔法をかける。


 潰れた心臓が再生し、胸の穴が再生していく。それはまるで死ぬまでを逆再生しているかのようだった。


 俺はそれを見ていたが、落ち着けるものでは無かった。


 蘇生魔法を使ったとはいえ、実際に蘇生させるのは初めてだ。色々な懸念が俺にはあった。


 それに他の勇者にも、気を配っていないといけなかった。他の勇者はタクマが死んだ事など一欠片も気に掛けなかった。


 それを見た俺は、操られていて仲間を思う心がないのだとそう結論付けた。


 次第に顔に生気が戻っていくタクマ。


 俺はタクマに触れて、女神の所に転移をした。それと同時に霊化を解く。


「タクマは助けた。女神後は任せる」


「それは分かってるけど!あなたは大丈夫なの!?」


「大丈夫な訳ないだろ?」


 実際、俺の額からは汗が流れ、全身は震えている。


 親しい者を殺す事は精神的なストレスになる事は知っている。だけど、それをやらなければ本当に助けたい者達を守る事が出来ない。


「じゃあ!誰かに協力を――」


「女神。さっき言ったはずだ。これは絶対に俺がやる」


「っ……」


「お前の想いだって分かってる。実際にお前の方が正しい事も。でも、これは俺の意地であり、自尊心であり、我儘だ。だから、そこで見守っていてくれ。お前が見ていれば、俺はまだ殺れる」


 全身の震えは止まらない。頭が痛い。胸が苦しい。カチカチとなる歯が五月蝿い。


 血に塗れた手に、返り血を浴びたこの体に、堪らなく嫌悪する。それをやった自分に、決断した心に、失望を感じる。


 だけど、それでも、俺は殺ると決めた。だからその決意だけは誰がなんと言おうと曲げない。


「いってくる」


「ま――」


 女神の声は転移した俺の耳には入ってこなかった。何かを言っていたはずだが、聞き取れなかった。


「また、後で聞けばいいよな。生きて帰るんだから」


 本当はこれが俺の強がりだって分かってる。タクマへの全力の一撃で、殆どの魔力を使い果たしている。それくらいしなければ、心臓を潰すなんて出来ない。


 本当は刀で攻撃するつもりだったが、俺が硬化した方が硬い。そういう事もあっての攻撃だった。


 また同じ事をしろと言われても難しい。出来てブーストくらいだ。


 額から流れる汗が、今の俺の身体の調子を物語っている。その事に女神も気付いていたんだと思う。


「……じゃあ次はアイカ、お前だ。絶対に助けてやるからそこを動かないでくれよ……」


 俺は残っている力を振り絞り、アイカと対峙する。霊化は出来ない。だから、姿を認識された状態で殺しにいかなければならない。


 殺す事なんて夢のまた夢だろう。だけど、我儘を通すことを決めたのだから、命を懸ける。


 俺はブーストと支援魔法がかかった身体をアイカに向けて突っ込ませる。タクマの時よりも体が重い。アイカの目は完全に俺を捕捉している。


 手刀を首に向けて突き出した。アイカも槍を俺の心臓めがけて刺そうとする。


 あと少しと思った。あと少して首に届くと。だが、アイカの槍の方が僅かに早く俺を突き刺す事が、予知予測、先読み、未来予知によってみえる。


 ダメだったか……。俺はここで死ぬのか。


 所詮俺はこれくらいの力しか無かったのだ。最初から無謀だって事は分かってた。だから、最初に全身全霊を賭けてタクマを助けた。


 そうすれば、あとはタクマが皆を助けてくれるから。本当の勇者になれるから。


 俺なんてただの転生者だ。女神からチートを貰ってただその力で成り上がった、弱い人間だ。


 だから……だから後は――


「ゼロ!あの人を転移で逃がして!!」


「うん!」


 聞き慣れた声が聞こえたと思ったら、視界が変わる。


「魔力が足りてないわね。レンかリンどっちかが、復活魔法で魔力を復活させて」


「では、私が」


「任せたわ」


 枯渇気味だった魔力が徐々に増えていくことが分かる。そして、はっきりとしなかった意識が覚醒していく。


「皆、やるわよ。あの人は文字通り、全身全霊を賭けて戦ったわ。今度は私達の番よ」


「「「了解!」」」


 そこには六人の少女の姿があった。

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