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第167話 今までの話をするようです

 ちょっと長いかもです。大体6000字です。

 うわ、読みずら! とか、長くて読む気なくなったわと思ってしまうかもしれません。そうなってしまった方はすいません。

 俺はシャール王女の元に出向いた。


 どこにいるのか検討がつかなかった為、使用人に聞いたり、感知を使って探したりした。そのせいか、シャール王女の部屋の前に着くまで結構時間がかかってしまった。


「なぁ女神、シャール王女がなんで俺に会いたがってるか分かるか?今まで考えてたんだが、よく分からん」


「えっ?それ本気で言ってるの?」


「本気じゃなかったらなんだって言うんだ?」


「うわぁ……。これだからすけこましは……」


「すけこまし?俺が?」


「うん」


「何を馬鹿な事言ってんだよ」


「ほーら、そういう所がすけこましって言うんだよ。ねーシロ?」


「ニャン!」


 俺の何処にそんな要素があるのか分からない。いつも通りに接しているつもりなんだがなぁ。


 俺は気を落として、ため息をついた。


 その時、シャール王女の部屋の戸が開いた。


「やっぱりあなたでしたか!」


「これはシャール王女。ご機嫌麗しゅうございますね」


「何故そんなに他人行儀なのです?」


「えっ?いや、普通王女とか身分が高い人にはこんな感じじゃないですかね?」


「私が言っている事はそうではなくて、何故朝のように接してくれないのかということです。今のあなたはなんか嫌です」


「嫌って言われてもなぁ」


「そうそれ!そんな感じがいいです!」


 そうそれ!とは何がどうなのかさっぱり分からない。それにさっきのはただの独り言だったんだが。


「まぁ、王女さん。この人に女心を分かれというのが無理な話だから、諦めた方がいいよ」


「あら?あなたは今朝もこの人と同じ部屋にいた……」


「ども、私女神だよ?」


「…………?」


 なんでそこで俺を見る。『この人残念な人なの?』みたいな顔をしないでくれ。それで本当に女神なんだよ……。


「まぁ、なんだ。はぐらかすことはあってもそいつの言うことほとんど真実だから」


「では本当に……?」


「あぁ、残念な事にな」


「残念って何よ!これでもちゃんと女神してるんだから!」


「ここで俺の行先を見守る事がか?んなアホなことあるか。俺がやろうとしてる事は全てにおいて愚行なんだが?」


 勝てるかも分からない戦いに、仲間も無しにたった一人で挑む事が、どんな事か分からない奴ではないはずなのだが。


「それでも、あなたをこの世界に連れてきた責任があるからね」


「でも、この世界を選んだのは俺だぞ?」


「送ったの私だし」


「むぅ……」


「あのー?」


 俺達の話についていけなかったシャール王女は、少し目を輝かせて話しかけてきた。


「その話、部屋で詳しく聞かせてください!とても興味があります!」


「話して聞かせるものでもないのだが……」


「私が気になるんです!いいから聞かせてください!」


「王女さんもこう言ってるんだから、話してあげたら?」


「だがな……」


『話したくない事ははぐらかせばいいと思うよ。私も黙っててあげるから』


『……そうか。なら話せるところは話してやるか』


 俺はシャール王女の願いを聞き入れた。


 するとシャール王女はぱあっと顔を輝かせて、部屋の中に入るように急かした。


 部屋の中に入るとすぐに、椅子に座るように指示されたので、椅子に腰をかけた。


「それで、シャール王女は何を聞きたいのですか?」


「この世界に来たって所から聞きたいです!」


「初めからか……。懐かしいな」


「あなた死んでから初めて私と会った時からだもんね」


「えっ!?死んだってどういうことですか!?」


「あっ、俺、転生者なんですよ。元いた世界で死んだら、この女神にこの世界に連れてきてもらえたんです」


「て、転生者……。本当にそのような人がいるのですね……」


 俺の周りは割と多かったがな。ジュリとかもそうだし。でも、勇者は転生と言うよりは転移になるのか……。


「まぁそんなこんなで、この世界に送られて来たのは良かったんですが、この女神の嫌がらせで全裸でしてね。しかも森の中で、ですよ」


「全裸っ!?大丈夫だったんですか!?」


「この女神もそこまで鬼畜ではなかったので、服はありました。ただ全裸だっただけです。それですぐにとあるスライムと出会いましてね」


「スライムってあのスライムですか?最弱って言われてる……」


「えぇそうなんですが、俺が出会ったスライムは希少なスライムでして。レジェンドスライムって言うんですが、出会った時には既に瀕死で、なんとドラゴンに追いかけられてたんですよ」


「まぁ!」


 懐かしいな。初めて会った仲間がゼロだ。あの時はどうなるかと思ったが、ゼロを仲間にして良かったと思ってる。


 それから、ゼロを仲間にしてから近くの街に逃げ込んだ事、初めてのクエストを受けて魔物と初めて戦った事などを話した。


「それでですね、初めてのクエスト報酬で買った砥石で、剣を研いでみたんです。すると、その剣が光り輝いて、全く別の剣になったんです」


「その剣は今腰に付けている物なのですか?」


「いえ、インテリジェンスウェポンという魔物に似た剣になって俺を主様と呼ぶようになったんです」


 これがレンとの初めての出会い。いきなりで少し焦ったが、あの時に見た刀身の美しさは今でも忘れてない。


 そうして、その後になんだかんだあってドラゴンを倒す事になった事を話して、四苦八苦しながらも、倒す事が出来た事を少しだけ、追体験のスキルを交えながら話した。


 追体験をしたシャール王女はとても怖がっていたが、良い経験が出来たと強がっていた。


「ドラコンを倒した俺達は王都に呼ばれ、すぐに王都に向けで出発しました。その道中で、俺は拾い物をしたんです」


「拾い物?何か落ちていたんですか?」


「落ちていたのでなくて、倒れていたんです。女の子が」


「そ、それは大変じゃないですか!助けたんですか!?」


「えぇ、もちろん。ですが、拾った少女はなんと魔王の娘だったんです。正直、俺は驚きましたよ。この時の俺は魔王様が悪い人だと思ってましたから」


「魔王は悪者ではないのですか?」


「その話はおいおいします。ちなみに、その拾った少女はドラゴンを討伐するまで帰ってくるなと魔王様に言われて、放り出されてたんです」


「えっ、でもさっきドラゴンを……」


「そうなんです。俺が倒してしまった為、その少女は帰れなくなってしまったんです。罪悪感を感じた俺は、魔王様の所までその少女を連れていくことを決めました」


「優しいですね」


 ミルと出会った時の話だ。あの時はまだ大食漢の面影はなかったんだが、美味しいものを食べてからか、めちゃくちゃ食べるようになったもんな。


 そうして、新しい仲間を加えて王都につき、王城に行った事を話した。


「そこで出会ったのが、王国の王女です。彼女は俺と同じ転生者で、王女でいる事に不満がありました。なので、俺に旅に連れて行ってほしい、だから結婚してと意味不明な事を言い始めたんです」


「け、結婚……!」


「彼女が言うには結婚をすればその人について行っても良いと言われていた、らしいです。脅迫混じりに迫られた俺は強制的に結婚。数日後に式を上げることになりました」


「出会ってすぐに結婚なんて凄いですね……」


「自分でもそう思いますよ。あと一回同じ事があるんですがね……」


 ジュリとの出会いは衝撃だった。いきなり『日本って知ってる?』などと言われたら驚かないわけがない。


「彼女との結婚式が開催されるまでの間に、ゴブリン討伐のクエストを受けました。もちろん彼女も連れてです」


「せ、積極的だ……」


「それで、クエストを受けるにしても、俺には武器がありませんでした。そこで槍を持ち出したら、彼女がこの槍何か言っているなんて言い出したんです。その後はインテリジェンスウェポンになって俺の仲間の一員になりました」


 これがリンとの出会いだ。初めは照れて一人称が『オレ』だったが、途中から俺の前でも素を見せるようになって、最終的には素のまま接してくれるようになった。


 それからは、結婚式の途中で鬼ごっこをした事、帝国に向かう途中でいろんな出来事があった事、帝国で念願の魔王様に会えた事を話した。


 だが、勇者の事は伏せた。シャール王女は知らなくても良い事だ。


 それと、魔王様がどんな存在なのか力説した。シャール王女は誤解していた事を素直に認めてくれた。俺の熱意が伝わったのだと思う。これから先で、魔王様は悪くないと広まってくれると嬉しい。


「それで、魔王様の所で寝ていたら、この女神が俺の隣にいたんだ。何故かは分からないがな」


「そうそう。未だになんでか分からないんだよね。ねぇどうやって私を呼んだの?」


「俺は寝てたんだ。知る訳ないだろ」


「でも、それだと私が呼ばれた理由がないよね?」


「大方お前の勘違いだろ」


「絶対そんなことないもん。確かに呼ばれたもん」


「「ぐぬぬ!」」


「お二人は仲が良いのですね」


「「どこが!」」


「ほら!」


「「ぐぬぬ!」」


 女神との二回目の出会い。謎ばかりの出会いだった。でも今では一番頼れる奴だ。絶対に言わないけど。


 それからは帝都に向かい、シャール王女も知る武道会に参加した事を話した。


 シャール王女もそれはよく覚えているようで、特に俺の戦いは全部記憶しているという。ロウリ・コーンのことがそれだけ好きだったという事らしい。何故なのかは俺には分からんが。


「その後、優勝した事で王城に呼ばれた俺は、ちょっと色々あって、焦った挙句に目的の部屋と間違えて、別の部屋に入ってしまったんです」


「えっ、そんな事あったの?私知らなかった」


「お前はその時寝てたから」


「あー、あれの後の話ね」


「そうそう。それで入った部屋には、下着姿の幼女が――」


「「変態っ!!」」


「うん。まぁ、言われると思ってたよ……」


 あの時は本当に焦ってたから、しょうがないんだが。まぁ言い訳だ。


 フェイと初めてあった時の事は今でも覚えている。どう考えても幼女でしかないのに、フェルトの姉だと言うのだから、目を疑った。ついでに耳も疑った。


「その後、色々あって面倒臭い事になるんですけど、ちょっと説明しにくいので、追体験してもらいます」


 追体験をして、何があったのかを知ったシャール王女はお腹を抱えて笑っていた。


「『奪われてこそ心は一層の輝きを放つのですから』って……くくくっ!」


「あの。タキシード仮面の事は忘れてもらえないでしょうか。恥ずかしくて死にそうなんですけど」


「む、無理ですよ……!くくくっ!あんなに衝撃的なものを見てしまっては忘れること出来ませんよ!」


「タキシード仮面……懐かしいなぁ」


「そんなに前でもないけどな……。色々ありすぎて懐かしく感じるだけだ」


 実際、俺達の中では一週間ほど前の話だ。ほかの人からしたら半月くらい前だ。


 その間に、ダンジョンに潜って罠をかいくぐったり、強敵と戦ったりと、色々やってきた。


 ただ。教皇と相見えた時だけは思い出したくない。何も出来ずに無残にも殺されて、挙句の果てに大切な仲間までも殺してしまったのだから。


「俺のこの世界に来てからの事はこれくらいですね」


 シャール王女に話していて分かった事がある。俺は皆の事が自分で思っていたよりも好きだったという事だ。


 皆とやってきたことはほとんど覚えていたし、何より話していると楽しかった。


 ゼロにふにふにを迫られて、嫌々ながらも押し切られてしまったり。


 レンは冷静な判断が出来るのに、変なスイッチが入って俺に迫ってきたり。


 ミルは魔王様の事が好きで、素っ気ない態度を取ってても見え見えだったり。


 ジュリが思考を勝手に読んでくることに、何度もツッコミを入れたり。


 リンの少し気恥しさが見える甘えに、答えてあげたり。


 フェイの体型の事をいじって怒らせて、コテンパンにやられたり。


 その全てが、俺の中では幸せだと感じる事になっていたんだと、感じた。


 皆の分け隔てない接し方が、俺に自ら歩んで来てくれるその姿勢がとても嬉しかったのだと気づいた。


「どうして泣いてるの?」


「え……?」


 女神が俺にそんな事を聞いてきた。


 俺は自分の頬に触れた。頬は湿っていて、その原因が今も流れ続ける涙だった。


「あ……れ……?」


 止めようと思っても止まらない。何故自分がないているのか分からない。


 でもただ一つ。皆の事を思い出して、俺の心を占領する感情がある事には気付いていた。


 それは――寂しさ。


 今まで一緒に旅をしてきた仲間達がいないことに対する寂しさだ。


 自分で置いてきたはずなのに、何を寂しいと感じているのか。そんなものを感じることは、俺には許されないというのに。


「…………っ……」


 早く止めようと思えば思うほど、どんどんと溢れ出す。


「あ、あの!私には何があったのか分かりません!多分今ここにいない人達の事だと思います!あなたの追体験で見た光景はとても心地よいものだったから!それはきっと他の皆さんも同じだと思います!でなければ、あんなに楽しそうにできるはずがありません!」


「…………」


 シャール王女が泣いている俺を慰める。


「だから、泣かないで笑ってください!あなたがさっきの話をしていた時と同じくらいに!」


 俺は、さっきの話の中で笑っていたのか……。何とも不思議だ。


「私も、あなたにはもう泣いて欲しくないな」


 女神は少し悲しそうにそう言ってくる。


「…………すまない……。少し情緒が不安定になってるみたいだ。もう大丈夫」


「良かったです」


「シャール王女。突然で悪いのですが、俺は部屋で休ませてもらいます。少し気を落ち着かせてきます」


「分かりました。では、明日にでも会いに来てください。待ってますから」


「分かりました」


 こうして俺は部屋に戻った。


 その日は、そのまま深い眠りについて、次の日の朝まで起きることはなかった。相当な心労があったのだと思う。それが涙として流れ出た事で多少マシになったのだろう。


 それから、聖王様がくれた自由時間は、執事長にはシャール王女のお守りと言われるくらいに、シャール王女につきっきりだった。いや、どちらかと言うとシャール王女からこちらに寄ってきた。


 どうも、外の世界を知りたいようだった。だから、俺も全く苦ではなかった。


 それと並行して、スキルの生成もやった。獲得したスキルは俺が持っておらず、皆と勇者が持っていたものだ。これで多少は強くなれただろう。それに、常に皆と一緒にいるのだと思えれば気も楽になる。


 そうして、聖王様が決めた日になる。俺は何を頼まれるのか、考えながら聖王様の部屋をノックした。

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