第161話 孤独な戦いの始まりのようです
聖都に転送してもらった俺は早速行動を起こす。
「女神。俺が寝ていた期間はどれくらいだ?」
「三日だよ」
「そうか」
あの戦闘から三日か……。確か教皇は戦争をすると言ってどこかに消えた。だとすればもう聖都には居ない可能性が高いな。
攻め込まれ安いし、暗殺者が送り込まれたりする可能性があるのに、分かりやすい所にいる訳がないからな。既にどこか安全な場所に移動しているだろう。
俺としては、それは好都合だ。話を聞きたい人がいる。まだ生きていればだが。
「教会に行く。聖王に会いに行くぞ」
「うん」
俺は教会を目指し、聖都の中を歩く。その間も聞き耳スキルを使い、情報収集をする。
聞き初めは、全く関係の無い話ばかり。昼食の話や、仕事の話等だ。
しかし、教会に近付くにつれて有力そうな情報が耳に入ってくる。
「最近、病気がちだった息子が元気になってきたんですよ!」
「本当ですか!それは良かったですね!」
恐らくは魔力を吸われることで、体の機能が低下していたのだろう。あの機械がいじられていなければ、未だに教会の地下三階を範囲として稼働しているだろう。
「教皇様のお姿をここ数日見ておりませぬ。あぁ、何と嘆かわしい事か……」
「その話だが、教皇様が何者かに襲撃されたという情報を手に入れたのだ」
「なんですと!それは真なのか!」
「真偽は確かではない。しかし、教皇様が居られなくなった時と、この噂が出始めた時期は一致しているのだ。嘘とは言い難いだろう」
「では、教皇様はその者達に……?」
「いや、どうにかして撃退したらしい。今はどこかに身を隠されているとか何とか」
ビンゴだ。どこに身を隠しているのかまで分かれば良かったが、そう上手くいくものでもない。これはこれで上々だ。
そうしている間に、教会の目の前まで来た。
俺は教会に入る前に、透明化のスキルを発動させる。そして扉は開けず、透過で中に入り込む。
中は一度訪れた時と相変わらず、聖職者が教本を読み上げながら、その後ろで祈りを捧げている市民がいる。
俺は一度マップを開く。そこにはこの教会の中の形状しか乗っていない。いつもはこれに完全感知を併用してどこに敵が居るのかを察知していた。
だが、下の階層から来る敵の位置は感知しにくい為、不便極まりない。だから俺は自分の特権を使っていく。
《振動感知を獲得しました》
《感知強化を獲得しました》
《嗅覚強化を獲得しました》
《視覚強化を獲得しました》
《聴覚強化を獲得しました》
感知を強化するスキルを獲得し、惜しみなく使用する。
地下二階には生体反応がある。聖王が居た所にもだ。動きもなく、勇者達や守りについている者はいないようだ。
「行くぞ」
俺は一階から地下一階を抜け、地下二階までやってくる。
捕えられている者達は前回見た時と同じ様に、ただ虚ろな目をしてじっとしているだけだ。
このままでは助けるどころか、俺が捕らえられてしまう。だが、教皇はこの中の者達を外に出す事が出来る。何か方法があるはずだ。
《解析を獲得しました》
俺は地下二階に来てすぐの扉に触れて解析をする。
この部屋の中にはやはり仕掛けがしてあった。中に入った者の思考を止め、設定された者の命令にしか従わないようになっている。
なるほどな。だから、教皇はここから捕らえている者達を出す事が出来たわけか。
となると、設定をいじるか、教皇になりきるしかないか。
《改竄を獲得しました》
設定の方をいじるわけか。まぁその方がいい。助けてすぐに教皇だからと言われて襲われるのはめんどくさいからな。
俺は扉に触れた状態で、設定を改竄する。教皇を消す事は出来なかったが、追加で俺を登録する事にした。
音声認証や、虹彩認証を経て、設定が完了する。
「これでいけるはずだ」
俺は扉を開け、一言命令をする。
『出ろ』
中にいた者は、体を動かし、自ら外に出る。
「……?俺は一体何を……?」
「教皇に捕えられているところを助けに来ました。今はここでじっとしていてください。後で説明します」
「分かった。ここでじっとしていればいいんだな」
「それと、俺が今言ったようにこれから助ける者達に言ってもらっていいですか?」
「よし。引き受けよう」
「女神も手伝ってやってくれ」
「うん。分かった」
俺は次々に捕えられている者達を救い出し、最後に聖王を檻の外に出した。
「私は一体……」
「あなたが聖王様でございますね」
「左様だが、君は?」
「後にご説明致します。今はこれを」
俺は水と食糧を聖王様に渡す。それと同じように衰弱が激しいものから順に配っていく。
一しきり、食事が終わったところで、本題に入る。
「皆さん聞いてください。信じ難いかも知れませんが皆さんは教皇によって捕らえられていました。今日、俺は皆さんを救う為にここまで来ました」
「そうか……。私達は教皇に……。君に命を救われたわけか。感謝する」
「ありがとうございます。ですが、まだ感謝をされる段階ではありません。聖王様に一つ言っておかねばならぬ事があります」
「申してみよ」
「この国で、聖王様は逝去なされたとなっております。今のこの国の状態で、聖王様が生きて居られたと知ったら、混乱する事は確実」
「左様か……。ある程度予想はしていたが、いざ言われると心苦しいものがあるな」
「誠に申し訳ございません。しかし、今はこの国を混乱させることは避けて欲しいのです。これから始まる戦争の為にも」
「何!?戦争だとっ!?」
聖王様が知らないのも当然だ。戦争の話は、聖王様が捕えられてから出てきた話なのだから。
「ここにいる皆さんもよくお聞きしてください。近いうちに始まる戦争。仕掛けるのは聖国です。そして、王国と帝国、どちらにも仕掛けるようです」
「何だと……!?そんな馬鹿な話が――」
「あるんです。俺は既に国王と帝王に話はつけています」
「……嘘ではないのだな?」
「はい。この戦争の首謀者は教皇です。俺は一度止めようとしましたが……」
この先はあまり思い出したくはない。己の不甲斐なさを直視するのが怖いから。
「そうか。大儀であった」
「いえ、俺は何も……」
「いや、君は良くやってくれている。情報は重要な武器だ。武器が揃えば心強い」
「そう言って貰えると救われます」
「うむ。ではこれからどうすればいいのか話し合おうぞ」
俺はこれからの行動に付いてほぼ決めている。まずはこの聖国をこちら側に引き込む。
この国自体は戦争が起こるなど思っては居ない。それを覆し、聖国にも戦争に参加してもらう。
俺の中の構図としては、教皇に王国、帝国、聖国の三カ国の勢力をぶつけるつもりだ。その間に俺が教皇を殺す。絶対にだ。
「聖王様にはやってもらいたい事があります」
「何だ。申してみよ」
「聖王様はこれから城に戻られ、国の上層部だけに存在を確認させて頂きたいのです。混乱する事は致し方ありませんが、この国全土よりはマシでしょう。そして、教皇が起こそうとしている戦争について説明をお願いします。そこには証人として、俺も同行します。どうですか?」
「なるほど。君は我が国も戦争に参加しろと言うのだな?」
「失礼ながら、この戦争はこの国が発端となっております。他国からすればこの国全土が攻撃対象になるでしょう」
「確かに君が言う通りだ。よかろう。君の言う通り、上層部と掛け合ってみよう」
「ありがとうございます。それとここに捕えられていた者達には治療をお願いします。食糧を口にしたとはいえ、まだ衰弱が激しい者もいます。どうかよろしくお願いします」
「うむ。分かった。では一度地上に戻るぞ」
俺と、捕らえられていた聖王様達は地上に戻る事になった。
「聖王様。お姿が見つかってしまうのを防ぐ為にお渡ししたい者があります。手を出してもらえませんか?」
「よかろう」
俺は透明化のスキルを継承した。俺の身が危なくなるかもしれないが、今はそんな事よりもやらなければならない事がある。
「透明化のスキルです。使えば分かると思います。俺達の後ろから透明化を使って着いてきてください」
「君は一体何者……。いや、私を救ってくれたのだ。余計な詮索は野暮と言うものか」
「お心に感謝致します。では皆さん俺に付いてきてください。動けない人がいたら俺が運びますから、遠慮なく言ってください」
こうして俺は教皇に捕えられていた人達を救う事が出来たのだった。