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第160話 目覚めと別れのようです

 俺は泣いていた。声を殺し、ただひたすら泣いていた。何故かは分からない。だが、心が締め付けられるように苦しかった。


 暗く、一寸先も見えない空間に一人っきり。何も無く、何の音も聞こえず、一人塞ぎ込んでいる。


 そうだ。皆は……俺の仲間達はどこだ。


 天真爛漫で、俺に抱きついてくるゼロ――。


 冷静沈着だが、スイッチが入ると残念なレン――。


 暴飲暴食の限りを尽くして、食糧を空っぽにするミル――。


 自由奔放で、いつも俺にちょっかい出すジュリ――。


 喜怒哀楽が激しく、保護欲をかき立てるリン――。


 勇往邁進で、親を見返す為に努力をしてるフェイ――。


 見付けたと思った矢先、俺の前から消えていく。


 冷たい目で俺を見つめながら。


 信頼していた皆が消えていく恐怖。その信頼さえも崩れて無くなっていく喪失感。


 それはいつしか体験した――体験してしまった、あの時と似ていた。大切な人が死に、大切だった想いが儚く散ったあの時と。


 俺は呪われているのだろうか……。俺は生きていてはいけないのだろうか……。あの時とあの時のどちらかで、死んでいれば良かったのではないか。


 知らぬ女性が助けてくれた小学生の時か、俺の一番大切だった人を失った時のどちらかで。


 死んだ方がマシだと思っていた。大切なものを失う事が怖かったから。だから、誰にも頼らずに何でも一人でやろうとした。


 でも結局は、好意に甘え、頼り、また失う。


 信頼出来る人達が出来た。頼れる仲間が出来た。でもそんなのは俺には過ぎたものだった。


 もう俺は誰にも頼らない。誰も信用しない。涙は流さない。


 たった一人、孤独に、惨めに、足掻いて足掻いて、生きていこう……。



◇◆◇◆◇



「っ……!はぁはぁ……」


「大丈夫?まだ動かないでね」


 俺は大粒の汗を流していた。見ていた夢も鮮明に覚えている。


 そんな状態を見て、優しく声をかけてくれたのは女神だった。


「ここ……は?」


「ここは、魔王城。勇者達に負けたあなた達をここに連れて帰って来た」


「そうか……。そうだっ!皆は!皆は無事か!?」


「うん。今は他の部屋で寝てるよ」


 皆は無事のようだ。悪い予感がしていたがどうやら杞憂だったみたいだ。


「良かった……。皆生きてたんだな」


「ううん、皆、一回死んだんだよ」


「えっ……?」


 女神が何かを言っている。死んだ……?でもさっき――


「死んだ皆を生き返らせて、ここに運んだんだよ」


「そんな……まさか……」


「ごめん……ね。皆を助けたかったけど、私、神様だから出来なかった……。ごめん……。本当にごめん……」


 俺は女神が俯いて肩を震わせているのをただ見ていた。頭の中では、皆が死んだ、その事だけがぐるぐると回っていたから、それ以外は出来なかった。


 段々、呼吸が荒くなる。苦しくて苦しくて、余計に息を吸い辛くなる。


「俺の……俺のせいだ……!」


「違うよ……。あれは仕方がなかった……」


「そんな訳あるか!俺が状況を軽んじたからこうなったんだ!俺が真面目に作戦を立てなかったからこうなったんだ!不確定要素が多かったのに、俺はいつも大丈夫だからと言って敵に突っ込んだんだ!それが俺を殺して、大切な仲間も殺した!俺が……!俺が愚かで弱かったから……!」


「…………」


「もう、無理だ……。俺は皆に顔を合わせる自信がない……」


「大丈夫……。多分皆は気にしないよ」


「だとしても……俺は今まで通りに接する事は出来ない……」


 あまりにも自分は愚かで弱かった。あの戦闘で俺は真っ先に死に、今、こうして女神に救われている。


 本来なら、俺が皆を守り、無事に帰らせなければいけなかった。なのに……。


「なあ女神……。皆はまだ寝てるんだよな?」


「うん。そうだけど……」


「起きるまであとどれくらいだ?」


「皆酷い状態だったから、2、3日はかかるはず」


「そうか……」


「何かするの……?」


「俺は今日の内にここを出る……」


「で、でも皆が……!」


「皆は……置いていく……」


 夢で見た自分。それは今の自分と重なる。一つ違う事と言えば、皆が居なくなるか、俺が居なくなるかだ。


「女神に頼みたい事がある。とても大事な事だ」


「なに……?」


 俺は女神に要件を伝えた。


「本当に……本当にそれでいいの……?」


「もう決めた事だ。この機会にお前も天界に帰るといい」


「……っ!」


「じゃあよろしく頼む」


 そうして俺は立ち上がった。



◇◆◇◆◇



「本当に行くのかい?」


「はい。もう決めた事です。……ミルの事はすいませんでした」


「生きて帰ってくれたんだ。なにも問題はないよ」


「そう言って下さるとありがたいです」


 その日の夜。俺は予定通り、魔王城を発つことを決めた。皆のこれからの事は俺にはもう関係がなくなった。


 これで一人だ。ただシロは、起きていて俺から離れようとしなかったから、連れてきている。


 それと女神も一緒だ。女神は俺がやる事を見届けたいと言っていた。ただ、今まで通り戦闘には手出ししないし、会話も最低限しかしないと言っていた。


「転送をお願いします。場所は聖都を」


「分かった。……転送!」


 そして俺は旅立つ。たった一人で、この世界を救う為に。



◇◆◇◆◇



 王都『グランザム』の王城の一室で目覚めた者達がいた。


 それと時を同じくして、帝都『バンギス』の王城と魔王城でも目を覚ました者がいた。


 王都では、ジュリエット・ファン・グランザム、リン、ニーナの三名。


 帝都では、フェイリス・ファン・バンギス、レンの二名。


 魔王城では、ミル・ラ・ハルストル、ゼロの二名が目覚めた。


 彼女らは目が覚めたのと同時に状況の確認を行った。


 ここは何処なのか。あの後、何があったのか。そして何故、皆バラバラなのか。


 その疑問は、各王が授かっていた手紙を渡されてから解決する。


 その手紙を読んだ彼女らは等しく悲しんだ。そして同時に怒りを覚えた。


 そして彼女らは行動を起こす。


 彼にもう一度会うために。彼とまた旅をする為に。彼と笑い会う為に。


 彼女らは、彼からの手紙を大事にしまって――。



◇◆◇◆◇



『この手紙を読んでいる頃は、既に俺は居ないだろう。俺は一人で教皇を止める。何をしてでも、絶対にだ。


 皆にはすまないと思っている。だが、もう皆を死なせる様な事は嫌だ。だから、皆を安全なところに送っておく。


 まず王都にはジュリ、リン、ニーナを送っておく。ジュリは皆の中で一番心が強いから、気弱な二人を手助けしてやってくれ。二人もジュリを見習って心を強くしろよ。


 次に帝都だが、帝都にはフェイとレンを送った。フェイはレンを見習って、大人な女性を目指すといい。そしたら自信がついて、見た目のコンプレックスも多少マシになるだろう。レンはそれの手助けだ。頼りにしてるぞ。


 最後に魔王城だが、ミルとゼロの二人はあまり食い過ぎるなよ。魔王様にあんまり迷惑かけすぎると俺が夢に出てきて拳骨食らわしてやるからな。


 それと、教皇の事は各国の王に伝えておいた。くわいことは話していないから、皆の方から詳細を教えておいてくれ。頼む。


 皆との旅は楽しかったが、ここまでだ。ありがとう。そしてさよなら――』

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