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第158話 狂っている教皇のようです

「ニーナ。お父さんはどこにいるか知ってるか?」


「多分、三階だと思う。前にお父さんを見た時はそこにいたし、私もそこに連れて行かれたから……」


「そうか。すまないな、辛い事を思い出させて」


「ううん、大丈夫」


 俺達は教皇の元に急ぎ向かっている。ニーナが言うようには地下三階にいるようだ。三階に行くには、二階を通って三階に続く階段の所まで行かなければならない。


「見つけた!二階への階段だ!」


 俺達は、階段を降り二階へ。


 二階は俺の予想通り、牢獄だった。だが、捕えられている人間は全て虚ろな目をして、ただ大人しく座っているだけだ。


「これは一体……?」


「ここは、お父さんの実験体を閉じ込めておく所」


「それは本当か……!?」


「うん。皆ここに入ると突然静かになって、何も反応を示さなくなる」


「なら俺達は入らない方がいいか……。皆を助けたいんだがな……」


 実験体にされるのを何とか阻止したいのだが、牢に入ったらなにかの仕掛けで、ここにいる人達のようになってしまう。なにか手段があれば助けるのだが生憎、その手段もない。


 心苦しいがここは無視して先に進むしかないだろう。


「もしかすると、ここに聖王がいるかもしれないわね……。確認しながら行きましょう」


「確かにそうだな。しかし、俺は聖王の顔を知らないのだが誰か知ってる人は?」


「私は知らないわよ?」


「あたしも」


「私もです」


「わたしもー」


「わ、わたしも知らないです」


「私も知らない」


「私もしーらない」


「ニャー」


「おいおい……。全員知らないとか、ダメじゃん……」


 俺の仲間達は聖王の顔を知らないでどう助けようと思ってたのか知りたいが、今はそんな事言っていても仕方がない。


 と、ここでニーナが手を挙げた。


「私、知ってるよ?」


 最後の頼みの綱だったニーナは知っていてくれた。俺はニーナが居てくれて心底良かったと思ってる。


「じゃあニーナに聖王探しを任せる事になるが、いいか?」


「うん。頑張ってみる」


 俺達は、ニーナに檻の中を一つ一つ見てもらいながら、先に進んで行く。


 そして三階への階段が見え始め、そろそろ階段を降りると言う時、ニーナが声を挙げた。


「いた!聖王様だ!」


 聖王がいたのは三階の階段のすぐ隣。中を見る限り、聖王は痩せこけている。碌に食事を取っていないと思われる程に。見ていて痛々しかった。


「早くしないと、聖王様が次の実験に……」


 ニーナがそう呟いたなのを俺は聞き逃さなかった。


「ニーナ!それはどう言う意味だ!?」


「お父さんが、何か細工をして、この檻の中にいる人を順番に転移させる仕組みを作ったみたいで……。階段の隣にいる人を実験体で使うから、ここが空くんだけど、次の実験体の人が転移でここに飛ばされて……」


「……そういう事か。だから次が聖王と……」


「うん。だからお父さんを早くって思って……」


「いや、ニーナは間違っていない。聖王を助ける為にも先を急ぐぞ」


 俺達は、三階へ降り立った。


 そして俺の目に飛び込んで来たのはありえない光景だった。


 大きな機械と思わしき物に、人が固定されていた。そしてその人を機械が取り込んだかと思うと、中から絶叫が聞こえてくる。


 絶叫が止んで、次に中から出てきたものは既に人では無かった。


 中から出てきたものは悪魔。俺達が一度戦った相手だ。


「人を悪魔にするだと……」


「こ、こんなのあんまりですっ!」


「悪趣味ね……。私こういうの嫌いだわ」


「悪魔にするなんて卑劣な行為です」


「悪魔にされた人生きてるか心配なのー」


「許せない……!」


「人間をなんだと思って……!」


「……おやおや。こんな所に客人ですか。珍しいですねぇ」


 その機械だけに囚われていた俺達は、突如声をかけられた事で現実に戻ってくる。


 声をかけてきたものは、機械に手が届く所に居り、俺達ではなく、悪魔の方を見ていた。


「お父さん……!もうやめて!」


「ニーナですか。あんな目にあってまだ懲りてないのですか」


「……っ!」


 ニーナがお父さんと言った。という事はこいつが教皇で間違いない。


「実に滑稽ですよ。ただ逃げるだけしか出来ない子供が、人数が多くなれば強くなった気でいるのですから」


 ニーナを馬鹿にする教皇のこの物言いに腹を立てた。


「うるせぇ!ニーナはお前がしてる事を止める為に命を張ってるんだろうが!」


「それがどうしたんですか?」


「お前!自分の娘の気持ちも分からないのか!お前の事を助けたい一心でここまで来たんだ!」


「そんな事頼んだ覚えはありません」


「貴様ぁぁぁっ!!」


「私の前に立ちはだかるのであれば、それは等しく殺しの対象。いや、立ちはだからなくても殺しの対象ですね」


 教皇は俺の威圧を受けても、平然としている。そして、遠回しに自分の娘ですら殺すと、そう言った。


「あなた達のように力のある者は、力を持たざるが故の苦悩を知らず、何も成せないが故の後悔も知らない」


「お父さん……。やっぱりお母さんの事を……」


「しかし、弱者故に力を求め、世界を破壊しうる力を手に入れた。ならばそれを振るわずして何になるというのです」


「お父さん!お母さんが死んだのは誰のせいでもない!」


「我が妻の死が誰のせいでもないと言うのですか?我が娘ながら呆れましたよ。世界が作り出す魔物に殺された妻は、世界に殺されたと同義です。ならば世界を壊すだけです。幸い私には世界を破壊できるだけの力を持っていますし」


「お父さんっ!」


「少々鬱陶しいですね。殺しますか」


 そう言った教皇は、刹那の時間でニーナの背後に回り、首をはねた。


 当たりには血飛沫が飛び散り、ニーナの頭部が転がる。


「「「ニーナッ!!!」」」


 遅かった……。いや、違う。教皇が速すぎた。この場にいた誰一人として反応出来なかった。


「血で服が汚れてしまいましたね……。洗うのが面倒ですよ」


「貴様ぁ!娘を殺しておいてなんだその態度はぁ!!!」


「だから、言ったじゃないですか。立ちはだかる者には死をと。ニーナは私に向かってきましたからね。娘だろうと関係ありません」


 狂っている。俺にはそうとしか感じなかった。実の娘ですら、自らの手にかけるその狂気さは救いようがないように思えた。


「さて、ここも見つかってしまったようですし、そろそろ戦争を仕掛けましょうか」


「待てっ!そんな事させねぇ!」


「うるさいですね。殺してやりたいですが、私はやる事があるので、相手出来ません。ですから変わりに彼らを置いて行きます」


 そして置くから歩いて来る奴らが四人。タクマ達、勇者の四人だ。


「私の勇者達よ。この者達に死を与えよ」


 タクマ達は教皇の命令で俺達に剣を向ける。


「最後に置き土産です」


 そう言って機械を動かし始める教皇。


 すると、少しずつ虚脱感に襲われる。


「これは徐々に魔力を吸い取る機械です。今まで聖都全域にしてましたが、この空間だけに絞りました。時期にあなた達の魔力も尽きるでしょう。では」


 教皇が奥に消えていく。追いかけようとしても、全て勇者が邪魔をしてくる。


 徐々に魔力を吸い取られている上に、タクマ達と戦わなければならない。こんなのに勝ち目など……。


「いい皆。私達でどうにかして、この勇者達を倒すわよ。魔力を吸われてるから短期決戦よ!」


「「「了解!」」」


「皆……」


 皆が諦めていないのに、俺だけが諦める訳にはいかない。できる限りの事をしなければ。


 そして俺達は勇者達に剣を向ける。

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