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第156話 侵入をするようです

 翌朝。


 朝早い時間に皆は起床し、教会に忍び込む準備を済ませている。


 そんな中、俺はと言うと……。


「……皆おはよう……。なんでそんなに早いんだ……?」


 と、こんな感じになっていた。


 いつもなら普通にみんなと同じ時間で起きれるはずなんだがな。どうやら疲れが溜まっているらしい。


「こんな大事な時にぐっすり眠れる方がすごいわよ……」


「マスターおねぼーさん!」


「すまんすまん。今起きるから」


 俺はベッドから起き上がり、準備を進める。


「そうだ。皆ちょっと俺の手に触れてくれ」


 透過のスキルと透明化のスキルを皆に継承する。ずっと俺に触れている訳にはいかないからな。


 継承をしたという印に触れている部分が光を放つ。


 よし。これで大丈夫だろう。


「皆に、透過と透明化のスキルを渡した。あと、フェイには念話も渡しておいた。侵入するのに適しているからな」


「「透明化……!」」


「ジュリとミルの言いたい事も分かるぞ。浪漫だと言いたいんだろ?」


 大きく頷く二人。相変わらずな奴らである。


「ただ必要な時以外使うなよ?」


「「はい……」」


 そこまで落ち込まなくても……。まぁいっか。今日は必要な時だ。思う存分使ってもらおう。


「よし。じゃあ出発だ」


「「「了解!」」」


 俺達は教会を目指し進み始める。


 作戦はこうだ。透明化したまま教会に入る。部屋を回る。教皇見つける。殺す。


 以上!


 手抜きだと思うかもしれないが、まだどうなっているのかよく分からないのだから、これが最善の手だ。だがこれは教皇がどこにいるのかわからない時に限る。


 もし教皇が自ら教壇に立つというのならその時に殺してしまえばいい。


 恐らく今俺が考えていた事は以心伝心で伝わっている。言わなくても皆は分かっているだろう。


 そうしている内に、俺達は教会の目の前まで来た。


「透明化をして侵入だ。扉が閉まっている時は開けるのではなく、透過ですり抜けろ」


「「「了解」」」


「あとは二人一組になれ。転移トラップにかかった時の二人の方が連携も取りやすいだろう。それで行く」


 俺は女神とシロと一緒だ。


「一応、全部屋見て回ることにする。ゼロとリンは地上三階」


「「はい!」」


「ミルとフェイは地上二階」


「「了解……!」」


「ジュリとレンは地上一階だ」


「「了解」」


「俺は地下一階を探る。教皇を見つけた場合はすぐに念話で皆に伝えること。あと、見つからなかった時は地下一階に集合だ」


 俺は大きく深呼吸をする。


「では、教皇殺害作戦を開始する!」


 俺達は教会の中に侵入した。


 作戦通りに皆はそれぞれの持ち場をくまなく見回る。俺の予想では地上には教皇はいない。だが、念の為だ。


 さて、俺達も早く持ち場に行かなければな。


 地下一階への階段は少し分かりにくい所にある。その為マップ無しでは地下に行くことは不可能に近い。ちなみに階段の場所は教壇の裏にある。


 よくある蓋を開けると階段だったってやつだ。


 俺達は透過でそこをすり抜ける。少し時間はかかるが大した手間ではない。


 そして、階段に降り立った俺達は慎重に進む。


 ここから先は教皇がいつどこから来ても不思議ではない。慎重になり過ぎぐらいがちょうどいい。


 マップは前にも言ったが平屋と同じである。戸が開いていれば見渡しやすいが、閉まっているときつい。


「で、降りきったら戸は全部閉まっていたと……。なんとも不幸な」


「そんなこと言ってても仕方ないって。さぁ探すよ」


「ニャ!」


「そうだな」


 俺達はとりあえず、居間と思われる所に忍び込む。だが、生活感のない部屋で、テーブルが一つ置いてあるだけだった。


「ここじゃないみたいだな」


「じゃあ次行こ」


 次は台所と思わしき所へ来た。俺はここで一つの手がかりを見つける。


「ここの水がまだ乾ききってない。という事はついさっきまでここに誰かがいたってことだ」


「じゃあ教皇はまだどこかに?」


「その可能性が高いな。もっと慎重に行くぞ」


「うん」


 俺達は客間、物置、トイレ……と人が侵入できそうな所は全て回った。そして最後に寝室を回る。


 寝室が一番いる可能性が高かったから最後に回した。ここに来るまで一度も教皇の姿を確認していない。寝室にいなかった場合は、この下の階にいることになるだろう。


「じゃあ行くぞ……」


 俺達は寝室の戸を透過する。


 そして侵入したその部屋はベッド以外に何もなく。ただ粛然としており、何故か俺は、悲しみに似た感情を感じた。


 なぜこんなにも悲しくなるのか自分でも分からなかった。しかしこの感じは、なにか大切なものを失ってしまった時のものだと、それだけは分かった。


「だ、だれ?」


 その時にベッドの方から少女の声がした。


 俺と女神は驚き、戦闘態勢を取った。


 しかし、声の主は何もしてこようとしない。それどころか少し怯えている様にも見える。


「そ、そこに誰かいるんでしょ……?」


 俺達は透明化をしたままだ。見えるはずがない。だと言うのに俺達の存在を認知している。


「私を殺しに来たの……?」


 声を震わせながらそんな事を呟く。


 俺と女神は顔を見合わせて頷き、その少女に近付いた。


「い、いやっ!来ないで!お願い殺さないで!まだ私は死にたくない!死ねないの!」


 大声を上げ、全身を震わす少女。


「私が悪い事をしてたのなら謝ります!何かをしろと言うのならちゃんと聞きます!だからまだ殺さないで……」


 少女の悲痛な叫び。


 俺は心が締め付けられた。女神も悲しそうな目をしていた。


 この少女は教皇ではないはずだ。少女には人の心がある。教皇のように誰かを平然と操ることができるような人間ではない。


 俺は透明化を解いた。女神も俺を見て、同じ様に透明化を解いた。


「ひっ……!」


 小さく悲鳴をあげる少女。


 姿を現した俺達に殺されると思っているのだろう。目を強く瞑り、下を向く。手はシーツを握り、全身が震え出す。


 布団の上に水滴が数滴落ちた。恐怖で泣いているのだろう。


 俺はその少女に触れられる位置まで歩いて行く。


 そして、手を伸ばして頭を撫でた。


「大丈夫だ。俺達は君を殺したりしない」


「……えっ……?」


「俺は君の過去は知らないし、知るつもりもないけど、君は死ねない理由があるんだろ?」


「……うん」


「それが悪事でない限りは誰も何もしない。悪事の場合は誰かが全力で止める。どうだ?君のやりたい事は悪い事か?」


「私はただ、お父さんのやってる事を止めたくて……!もうあんな事して欲しくないから……!」


 それから少女は泣き崩れた。先程までの恐怖が和らぎ、溢れて来たのだろう。もしかすると、それだけではないのかもしれない。


 俺はその少女を安心させるように、泣き止むまでずっとそばに付いていた。


 数分したら泣き止んだが、そのまま眠りに落ちてしまった。それも俺の服を強く握ったまま。


「その子に一体何があったのかな?」


「分からん。だが相当な事だろう。恐らくこの子が言うお父さんとは教皇だろうからな」


「教皇……一体何をしているというの?」


「それを確認するためにもまずは教皇の場所を突き止めなければな」


 規則正しい寝息を立てて眠っている少女。その少女がやりたい事と俺達のやろうとしている事は似ている。


 俺達は教皇を殺す。少女は止める。その違いしかない。ただそれは似ているようで全く違う事で、互いに交わる事はない。


 俺はこの少女にどう伝えるか悩む事になった。

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