表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/204

第143話 超越と覚悟のようです

ーside:ジュリー 


『ケケケッ。俺達悪魔ニ逆ラッタ事ヲ後悔サセテヤル。ミセシテモシテ、マズ一人殺ス』


「ぐっ……。動けないわっ」


「ミル様お逃げください!」


「無理っぽい……!」


「ミルっ!……ミルーっ!」


 看板の指示に従う事数分。私達は危機に陥っていた。ミルが殺されそうになっているのである。


 と言うのも、看板の指示通り待っていると悪魔が降臨してきたからだ。


 出てきてすぐは悪魔の放つ異様な雰囲気に飲まれて立つことさえままならず、心が折れかかった。その上、悪魔がどれほどの力を持っているのか、私達人間がどれだけ弱いのかを映像で見せられた。


 私達にはもう悪魔に逆らおうという気は起きてなかった。……ただ一人を除いて。


 その一人とはミルだ。ミルの強いやつと戦いたいっていう意思が私達の挫けそうになった心を繋ぎとめ、悪魔と戦う勇気を貰った。


 だが、それは悪魔にとっては些細なことであったらしい。私達が悪魔と対峙した瞬間には、もう悪魔の術中にいた。


 そして見せしめとして殺される事になってしまったのがミルだった。恐らく、ミルが悪魔に逆らった最初の人間だったからだと思う。


 そのやり取りがさっきもの。悪魔は降臨した時とは比べ物にならないほどの異様な雰囲気を放ち、ミルに少しずつ近付く。


 その様子は中世ヨーロッパの死刑執行を見ているみたいで気分が悪かった。


「……魔力転化。ベース光」


 ミルが光に魔力転化をした。悪魔なら光に弱いと踏んでのことだろう。


『ケケケッ!悪魔ニ効ク光ハ神ノ光ダケダ。無駄ナ足掻キハヤメテオケ』


 しかし、悪魔は臆することなくそう言い放った。その言葉は看破のスキルで見ても事実だった。


「…………」


『ヨウヤク大人シクナッタナ。コレナラ簡単ニ殺セル』


 ミルもそれが分かったのか下を向いたまま動かなくなった。そこへ悪魔が近寄り、ミルの目の前で止まった。


『死ネ』


 悪魔の手が鋭い刃となってミルの命を奪おうとしたその時、ミルのどこからか投げたナイフが光魔法を付けた状態で悪魔の顔めがけて飛んでいく。


 悪魔はそれを見てから難なく躱し、ミルを睨む。


『愚カナリ人間。俺達悪魔ガコノ程度ノ奇襲ヲ食ラウト思ッタノカ』


「……やれることはやるべき」


『人間ニ出来ルコトナドナイ』


 今この瞬間もミルはどうにかする方法を探っているのだろう。


 対して私はどうだろう?


 ろくに行動も起こせず、ただ仲間がやられるのを見ているだけだ。


 そう思った時だった。今度こそミルの命を奪わんとする悪魔の攻撃がミルに迫っていく。


 このままだと、ミルが死んでしまう!


 私は本当にこのまま見続けるだけでいいのか。ミルが死んでしまうのに行動を起こさなくていいのか。


 そんなのは駄目だっ!見続けるだけも行動を起こさない事も、それは弱い者のすることだ。


 あの時決めた誰も殺させないという思い、仲間を傷つけないという覚悟、それを今守らずして何になるというのか!


 私が今までやってきた事は今この瞬間の為ではないのか!


 強くなろうと決めた事も、今までやってこれた事も全てがこの時の為にある!



 私の大切な仲間の為にっ!!



 その時、私は新たな力を手に入れた事を知り、同時に自分の弱さを克服した。そして、ミルを救う為、悪魔へと攻撃を開始する。



◇◆◇◆◇



ーside:レンー


 このままではミル様がやってきた事が全て無駄になってしまう。私達はミル様に勇気を貰い、ミル様に助けられたというのに。


 このままでは今までと何も変わらない。


 リン様に逃げてと言わせたあの戦いからも、大会で負けた時からも何も。


 私は何の為に今まで強くなろうとしてきたのか。


 そんなのはもう分かっている。だってその為に今まで努力をしてきたのだから。


 なら今しなければならない事はなんなのか。その為に必要なものはなんなのか。


 ……私はもう誰も見捨てません。


 だからその為の強さが欲しい!



 あの日の誓いを守る為にっ!!



 そうして私は誓いを守れるだけの力を手に入れ、ミル様を救う為に力を解放する。



◇◆◇◆◇



ーside:ミルー


『グオォォ!』


「ミル。無事ね?」


「間一髪ってところでしたね」


「ん。助けてくれてありがと」


『グッ……。オノレ人間ゴトキガッ!』


「私達が悪魔にやられっぱなしになるわけないでしょう?」


「これからがこの戦いの本番です」


 あたしの事をジュリとレンが助けてくれた。


 あたしは正直、もうダメだと思った。どれだけ考えても目の前にいる悪魔に勝てる気がしなかった。


 でもジュリとレンはやられそうになるあたしを助ける為に、そんな悪魔と対峙している。


 すごいと思った。そして、同時に自分が情けなく思った。


 あたしはあの時に決めた事があった。だからその為に強くなってきたつもりだった。


 でもまた仲間に心配をかけて、今度はその仲間に助けられた。これじゃ何の為に強くなってきたのか分からない。


 あたしには決めた事がある!その為には誰よりも強くならなくてはいけない!


 それは、仲間に心配をかけない為!



 そして、安心させる為にっ!!



 あたしは自らの限界を超え、自分にしかない力を手にした。そして、その力を持ってジュリとレンの間に入る。


「ミル……。あなたもなのね?」


「ん。あたしはもう大丈夫。悪魔になんか負けない」


「ミル様がいると心強いです」


「そう思ってもらう為に強くなった」


『オマエラ人間ゴトキガソノチカラヲ使ウナ!』


「悪魔に指図される覚えはない。あたしを殺そうとした罪を返してやる。ジュリ、レン……」


「言わなくても、分かってるわ」


「悪魔を消しましょう」


 そうして、あたし達は悪魔へと向かう。



◇◆◇◆◇



ーside:フェイー


 す、すごい。ジュリの精霊魔法も、ミルの魔法の使い方も、レンのサポートの仕方も、どれもが完成されたもののように見える。


 でも前衛がジュリの召喚する精霊しかいないために、少し押され気味になってる。


 私も行こうと思ったけど、どうも足が震えて駄目みたいだった。


 三人が全力で戦っているのに私は怖くてここで震えているだけ。


 多分だけど、皆はそれを責めたりはしない。むしろ、気を使ってくれるようになるはず。


 でもそれは私が望んでいる関係じゃない。


 私は本当の仲間と言える程の仲間が欲しい。それに皆に付いてきた大きな目的もまだ為すことが出来てない。


 本当の仲間になるなら、目的を成すためなら、今ここで出ていって一緒に戦った方がいい。


 でも今の私が出ていっても邪魔になるだけだ。


 だから私も強くなりたい。……いや、強くなるっ!


 本当の仲間になる為に!



 目的である、皆を見返す為にっ!!



 その時、私は今まで感じてこなかった力の存在を知った。そしてこれなら戦えると思い、押され気味だった前衛を自らが務める事にした。



◇◆◇◆◇



ーside:ジュリー


「私が前衛を務めるから、皆は援護よろしく!」


「その姿はフェイなの?」


 目にも止まらぬ速さで前衛に来たフェイは、獣化してた時よりも、光り輝いておりさらに力が上がっている事がわかる。


「うん!これは獣化のさらに上……。その名も獣神化!」


「……フェイも力を得たのね」


 これらは恐らくユニークスキルだろう。


 私が精霊を全て呼び出す事が出来るようになったのも、ミルの魔法の威力がケタ違いに上がっているのも、レンが時間が経つたびにどんどん強くなっているのも、フェイが獣神化しているのも、全てがユニークスキルのなせる技だ。


『グオオォォォォ!!』


 フェイが前衛に加わったおかげでバランスが良い戦いになり、もう少しで悪魔を消すことが出来る。


「私が最後に決めるわ。……いでよ!マクスウェルッ!」


 私は四大精霊と呼ばれる精霊の主であるマクスウェルを呼び出した。


 マクスウェルは四つの魔方陣を目の前に展開し、悪魔に狙いを定める。そして、魔法陣からそれぞれ火、水、風、土の四つの魔法を放つ。


 それのどれもが一撃必殺と呼べるほどの力で、それを食らった悪魔は、言葉を発する前に消えていった。


「勝ったわね……」


「ん。良かった」


「はい。一時はどうなるかと思いましたが」


「皆無事で良かったぁ」


「ふふふ、そうね」


 私達は戦いが終わったことによる安堵で、今まで解放していた力を収めた。


 そして、今はこの勝利を噛み締める事で、自分達が強くなったことを実感した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ