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第136話 死にかけるようです

ーside:ミルー


「最初から本気で行く。フェイも獣化出来たらやってて」


「了解!」


『ふむ、長期になると不利と判断したか。子供でもそれくらいの知性はあるようだの』


「子供じゃない……!」


「私は二十歳よ!ちなみにミルは十六歳ね!」


『何?明らかにお主の方が幼いのだが……』


 そんなことを言われたフェイの怒りは一気に最高潮に達した。


「許さない……!絶対に許さないんだからぁ!!」


 フェイの身体が銀色の毛に覆われ初め、牙や爪が伸びる。そして、極めつけは身体が成長して見た目が二十歳くらいになった。


『おぉ。その姿ならば二十歳だというのは納得だのぉ』


「私を馬鹿にして無事に帰れると思わないでよね……!」


 フェイは怒りで我を忘れている。上手いこと蠍の挑発にのせられてるのだ。


「フェイ……!落ち着いて……!」


 あたしの声はフェイに届かなかった。フェイは単独で蠍に特攻を仕掛ける。


「蠍死ねぇ!」


『一人で向かってくるか。私の挑発にまんまとのるなど愚行の極みであるぞ。聞こえていないか……』


 蠍がフェイに向かって、尻尾を振り下ろそうとしていた。それを見てあたしは雷を投擲する。


 これからあたしはフェイのアシストに回って、フェイに暴れてもらおう。その方が多分効率がいい。


『ぬ?お主妙な技を使うのぉ』


「投げようと思えば何でも投げれる。例えばこんなの」


 今度は氷の鋭く尖った礫を蠍の尻尾の関節部分を狙って投げる。


『まだまだ甘いのぉ』


 蠍は尻尾を器用に使って氷の礫全てを叩き落とした。


 だけど、こんなのは布石でしかない。本命は別にある。


「フェイ今……!」


『ぬっ!いつの間にそんな所に来おった!』


 フェイは蠍の真下に入り込み、狙いを定めていた。


「……ここっ!はあぁぁぁ!!」


 蠍の柔い部分を真下から突き上げ、ほんの少しだけ打ち上がる。


『ぬおぉぉ!な、なんという力をしておるのだこの娘は!』


「怒りの力は時に限界を超える」


『火事場の馬鹿力とでも言うか!』


 その間にもフェイは足を狙い動き始めた。それを察知した蠍はそれをさせまいと次の行動をとる。


『このままでは私もさすがに危ないからの。本気を出させてもらうわい……。潜突攻っ!』


 蠍はその場から地下に潜り始めた。それに巻き込まれるようにしてフェイも地下に押し込まれる。


「フェイ……!」


「きゃっ!く、口に砂がっ!……息……まで……」


『私の近くにおったばかりに死ぬ事になるとはな。呆気ないものよ』


「……死ぬ……私……が……?」


『そうだ。お主が死ぬのだ』


 そこまでの会話を聞いて蠍とフェイは地面に飲み込まれていった。


「フェイ……が……」


『お主は自分の心配をしたほうがいいのぉ』


 そんな声が地面の中から聞こえた時、あたしの足元が膨らむ。


 危険を感じたあたしはその場から転がるように移動した。そして、あたしがさっきまで居た所を見ると蠍の尻尾が天高く突いていた。


 あそこに立っていたら尻尾の針で串刺しにあっていた。危ない所だった。


『なかなかいい反射をしておる。しかし、それがいつまで続くかのぉ?』


 蠍の尻尾がまた地面に戻っていく。


 これを繰り返していては、いつかあたしがやられる。攻めてフェイがいてくれたら……。


 わたしはそう思いながら、蠍が繰り出す尻尾の突きを躱していく。



◇◆◇◆◇



ーside:フェイー


 私は蠍と一緒に地下に押し込まれて身動きが取れなくなっていた。


 うっ……く、苦しい……。このままじゃ死んじゃう……。


『……いつまで続くかのぉ?』


 ミルが一人で頑張ってる……。


 全部私のせいだ。簡単に挑発に乗ったことも、一人で突っ走った事も、あそこですぐに引かなかった事も全部。


 ミルは私をフォローしてくれてたのに。


 このままじゃ今までと何も変わらない。一人だけ引きこもって、お父さんとお母さん、それにフェルトに心配をかけていた時と。


 さっき蠍に言われたみたいに、みんなに外見の容姿を馬鹿にされ、心に傷を負って泣いた日と。


 それじゃダメだ。あの人と初めて会って決めたはずなんだ。


 弱い自分を脱ぎ捨てるって。


 そしてあの人が決めてくれた、皆を見返すっていう目標を達するって。


 なのに、ここで諦めるわけ訳にはいかない。ミルは一人で頑張ってる。私が頑張らないわけにはいかない!


 絶対に強くなる!弱かった自分を捨てる為……。そして、皆を見返す為に!


 そう決めた時、全身に力が湧いてくるような感じがした。


 そして、運のいいことに私のすぐ真横を蠍の尻尾が通った。


 私はその尻尾を手でつかみ、上へと這い上がった。



◇◆◇◆◇



ーside:ミルー


『心ここにあらずといった感じだのぉ。そんなのでは私には叶わぬぞ』


「そんなの……分かってる……!」


 フェイ……。無事でいて……。


 あたしは未だに逃げ惑っていた。フェイのことをずっと考えていてろくに反撃も出来ていなかった。


『……ぬ?な、なにかが私の尻尾に付いたか……?』


 蠍がそんな事をいったのであたしは尻尾をまじまじと見つめた。すると尻尾の根元付近で何かがうごめいていた。


「…………ぐっ……はぁはぁ……。ようやく出れた……!後はこいつを引っ張り出すだけ……!」


「フェイ……!」


「ミルごめんね。……お詫びに今から蠍の一本釣りするからっ!」


 地面から這い出たフェイはあたしに一言謝ると尻尾を掴んで引き上げ始めた。


「あんたみたいな蠍になんて負けないんだからぁぁ!!!うわあぁぁ!!」


『ぬおぉぉぉぉ!!』


 フェイは蠍を地面から引きだして、蠍を仰向けに字面に叩きつけた。


 そしてフェイは蠍の上に飛び乗り、蠍にとどめを刺そうとする。


『ふっ。私もここで終わりかのぉ。相手が格下と侮っておったわい』


「言い訳は無用よ。あんたはここで倒すっ!」


『私を倒して後悔するやもしれぞ。私がここでこうしている意味、よく考えて見るが良い』


 蠍がここで何をしたか?


 何ってオアシスを人々に使えなくして殺そうと……。ん?殺す?殺すなら自分で村を襲った方が効率的だと思う。


 だとしたらなんでオアシスを使わないようにしたんだろう?


「……もしかして、オアシスの水が有害なものになったから?そして、それから守る為にここに居座った?」


『お主、勘が鋭いのぉ。その通りじゃて。私は襲ってくる者には自分を守る為に手を出したが、基本は人間わ守る為に生きておる』


「だったらなぜそれを村の人に言わないっ!?」


『お主は魔物が言ったことを信用出来るかの?それも私みたいな凶悪な魔物が言ったとして』


「そ、それは……。でも……」


『お主は優しいやつよの。人間誰しもがお主のようなら良いのだかの』


「…………」


 蠍は自分の使命の為に一人で頑張っていた。魔物であるのに人間を守るという誰にも知ってもらえないような事を。


「フェイ、蠍を倒すのはやめよう。どうにかするべきは蠍じゃなくオアシスだった」


「……うん。そうだね」


『お主、何か策があるのかのぉ?』


「ない。今は。だから何があるのか教えて」


『……ふむ。よかろう。簡単に言えば砂中に住む毒を持った魔物がこのオアシスに住み着いたのだ。どうして水中でも過ごせるのか知らないが、その魔物が、水中に毒を流しておるのだ。私は水中に入れないのだからどうしようもなく、ここに居座るだけだったがの』


「じゃその魔物を退治すれば?」


『うむ。もう心配はないのぉ。毒の方は私が中和するから心配はいらん』


「じゃ倒してくる」


『簡単に言うがお主、どうするつもりなのだ?』


「雷で殺す」


 あたしはそういうと同時に魔力転化をして全身から、高電圧の電撃をオアシスに流した。


『お主、思い切りがよいのぉ』


「ふふんっ」


 あたしが少し誇らしげにしていたら、フェイがオアシスを見て指を指した


「あ、なんか色々浮いてきたよ?」


『普通の魚が多いのぉ。……ぬ。あの魔物も同じくあの電撃でやられたようだの』


「これで大丈夫?」


『うむ。後は私にまかせればいいだけじゃて』

 

「分かった」


 蠍は死んだ魚達を陸に上げると、自分の尻尾の先をオアシスに浸した。


『うむ。これで真水に戻ったのぉ。お主らに感謝するのぉ』


「感謝するならあたし達に力を貸して」


『なんじゃいきなり』


「……あなたなら強いし戦力になるから力を貸してほしいの。わ、私も酷いことしたからちゃんと謝りたいし……」


『くかかか。それはお互い様じゃて。……お主らは面白いからのぉ、力を貸してやるかの』


「「ありがとう」」


《使い魔にデザートスコーピオンが追加されました》


 こうしてわたし達の戦いは終わった。

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